見出し画像

追悼1周忌ジェリーリールイス~音声配信の補足

先の音声配信「追悼ジェリーリールイス:Fireball Rock 'n roll」中で触れた内容の補足をしてみようと思う。

1980年代に制作された彼の半生を描いた「グレートボールズオブファイア」は80年代らしいライトな感覚の娯楽作品でいい感じに彼のキャリアのポイントを押さえた内容かつ端々にロック誕生期の空気感を伝える描写が散りばめられた、個人的にもお勧めの映画だ。いくつか見所をピックアップしたい。

まず冒頭で幼い頃のジェリーと従弟のジミーが親族の元を抜け出し黒人街へ赴きジュークジョイントを覗くシーン。メディアでは制限がかかっていたブラックミュージックもちょいと足を伸ばせば白人の幼児でも生で触れることができ、多分そういう経験をした白人は少なからずいたであろう・・・という事を暗にほのめかしている。黒人ピアニストの小指がない、と言う描写も芸が細かい。設備の安全管理という概念すら存在しないようなタコ部屋的ハードコア労働環境の経験or続行中・・なんていう黒人のタフな人生模様を想起させるカットだ。

次は個人的にこの映画のハイライト、ステージでのピアノ放火パフォーマンスだ。チャックベリー(役者が似てて笑える)とどちらがトリを務めるかでモメた結果出したジェリーリー流クレイジー譲歩術だ。ゴージャスなグランドピアノが炎に包まれた状態でマシンガンの如くファストなソロを全身全霊で叩き出す絵面はこの世にこれ以上カッコいいものが簡単には思いつかないほどカッコ良い。曲名にもピッタリ。

ポッドキャスト内でも触れたが、冒頭に出てくる従弟のジミーも実はアメリカでは有名人である。成人し神職に就いた彼は徐々に金儲け宗教家としての色合いを強め、遂にはTV放送を通じて「画面に表示されてる電話番号に送金すればあなたの魂が救済されます、クレカ可」・・・みたいな現代版免罪符システムような詐欺商売を始め一躍社会問題になった「TV宣教師」のジミースワガートその人で、売名のためロックの歌詞やロックスターのイメージやライフスタイルを非難し、ロック界隈を敵に回した。

オジーオズボーンの88年の「ミラクルマン」は彼の偽善ぶりをおちょくったメタルバブル期を象徴する1曲だ。中途半端にかけたボーカルエフェクトで「ミァクゥムェ~♪」とお経のようにタイトルを繰り返すサビは何かの冗談かと思うぐらい退屈だが、ジミヘンのフォクシーレイディのリフワークを80年代メタルギターの方法論に落とし込んだであろう(キーも一緒)当時新人のザックワイルドによるセンスが光るリフは「メタル名ギターリフ10選」に間違いなく入る傑作だ。

映画、といえば1950年代を舞台にした「スタンドバイミー」でもジェリーの曲が効果的に使われている。田舎で色々と持て余したヒャッハーな青年達がドスのきいた見てくれの49年型フォードをビール片手に運転しながら興じる「メールボックスベースボール」のバックで流れるのが「グレートボールズオブファイア」だ。シーン導入部で最初にキマるホームランの犠牲になるメールボックスには「Home sweet home」の手書きペイント。色々と示唆的でエルヴィスやチャックベリーやリトルリチャード・・・ではなく最もアウトレイジャスなジェリーの代表曲、というチョイスが「わかって」いる。

「スタンドバイミー」にせよ「バックトゥザフューチャー」にせよここ日本でもお茶の間レベルに浸透している定番作品だが、チョイチョイロックヒストリー的な事が頭に入ってないと理解不能なシーンが挟み込まれる気がするし「フォレストガンプ」なんかもロックヒストリーを含むアメリカ戦後カルチャー史全般への見識がないと3割ぐらいしか楽しめない映画の気がするのでアメリカ映画やその他創作物を過不足なく楽しむにはロックヒストリーのリテラシーは必須・・・なのかなという気がするし、逆に言えば本場アメリカでは一般常識レベルで皆一通りの流れ的なモノは頭に入っている・・・という事なのかもしれない。

最後に、冒頭で紹介したジェリーリーの伝記映画のサウンドトラックについて。収録曲はジェリー本人も参加した89年の再録音バージョンを中心に構成されているが、そこでギターを弾いているのはザ・ベンチャーズの後期を長年支えたリードギタリストであるジェリーマギーだ。ベンチャーズ以前にもモンキーズの「恋の終列車」の印象的なギターイントロ等のセッションワークを始めデラニー&ボニーやリタクーリッジetc・・のサポートで知られる彼は、50年代はまだローカル的な活動をしていたものの、37年生まれ・・・と世代的には映画で描かれている全盛期のジェリーリーと絡みがあっても不思議ではない存在で、そんな彼等が80年代に入って初めて共演、しかもジェリーリーのオリジナルのギタリストであるローランドジェーンズのフレーズをかなり正確に、多分意識してなぞっている・・・と言う事実に何かこうピンとくるようになれば免許皆伝である。又同サントラでベースを担当するのは70年代エルヴィスのライブを支えたTCBバンドのベーシストであるジェリーシェフという豪華さ。更に劇中でジェリーリーのバンドメンバー役として出演し、演奏シーンでは当てぶりを担当しているのはスティーヴィーレイボーンの兄でファビュラスサンダーバーズのギタリストとしても知られるジミーヴォーン・・・とこの辺の音楽が好きなムキにとってはツボを突きまくる、遊び心に溢れた色々と芳醇だった時代ならでは・・・の映画なのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?