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The past disturbs a man who wants to be normal for his family.

7年前まで、ギャングだった男である。

孤児で、12歳まで路上生活をしていた。
ダッチ・ファン・デル・リンデに拾われ、ギャングの一員になった。
殺し、奪う、が当たり前の暮らしだった。

銀行強盗に失敗し、追われて逃げた雪山で遭難した。無事に助けられたが、そのとき狼に襲われた傷跡は右頬に残っている。

ひとり息子がいる。
ジャックは、彼がダッチに拾われたのと同じ年になった。
母親のアビゲイルは、ジャックのために暴力と無縁の暮らしを望んでいる。

「Red Dead Redemption 2」という、ゲームの世界の話である。

大きな物語が終わり、エピローグとされている章のはじまり。
1つめのエピソードは「新たな車輪の旅路」となっていた。

これまでの物語と違って、大いに長閑な雰囲気。
「つぎの町では問題を起こさないで!」と言われながら馬車を走らせる。

当たり前に殺して奪う暮らしをしていた男の倫理観は、ほんの7年で正常になるものだろうか。それでも彼は、家族のために懸命に働こうとする。

新しい街で「なんでもする。まじめに働く」と頼み込んで、ようやく自前の馬車で近くの牧場まで荷運びを請け負う。

運んだ先で、しかし現れたのはギャングだ。

ただ、(ここまで進めてきた私でもある)ジョンは知っている。

こいつら風情は、本物じゃない。
脅し、かすめ取るだけ。

殺して奪うが日常だった本物の彼には、小手先であしらえる。
かくてギャングを撃退し、牧場主は恩を受けたとジョンを住み込みで雇うと約束してくれる。用心棒としての活躍も見越して、なのだろう。

間借りした小屋に家族を呼び、真っ当な暮らしをはじめようとする。

「やったことがないんだ、でも得意だと思う」と嘯いて羊の乳を搾り、厩で馬糞を片付ける。日がな一日、ただ柵を立てて終える。
日当は、ほんの3ドルぽっち。

撃って殺して奪えば、すぐ手に入る。
それを知っている男が、羊の乳を搾り、厩で馬糞を片付け、日がな一日ただ柵を立てる。なんだか健気で、応援したくなる。

順調な数日も、あっさりギャングに壊される。
またも子供だましの脅しを仕掛けてきたギャングたちに、彼は甘んじて..とはならず殴り返して追い払ってしまう。はじめこそ「荒事で解決したなんて、ばれたら怒られるから秘密にしてくれ」なんて言っていたのに、すっかりの鳥頭。このあたり、なかなか可愛げすら感じる。

用心棒仕事で牧場主の信頼は得る。が、また荒事かと書置きを残して家族は間借りしている小屋を出て行ってしまう。

なんだか不憫で仕方ない。

ところがジョンは、一念発起して銀行に向かう。
もちろん襲うのではない。
荒事とはいえ牧場主から得た信用を担保に、金を借りたのだ。

土地を買い、家を建てるために。
今度こそ真っ当に暮らすために。

家族と、である。

前の、大きな物語の主人公であったアーサー・モーガン氏に比べ、ジョンは健気だ。頭は良くなさそうだが、いいやつだ。

なるべく彼には、悪いことをさせず暮らしたい。

ゲームである以上、このままでは終われない予感もある。
ただ、それでも。

アーサーに託されたジョンを、できれば彼が望むように過ごさせたい。

たかがゲームの話だ。
でも、それでも私はそう願っている。