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Still I tricked and stole things. It may be my fault that the world is distorted.

私と同じく、40過ぎくらいの方であればご存じであろう。
バンド名をご存じではないにしても、曲を聞いたことがあるという方ならば世代を問わずいらっしゃるとも思う。

ザ・ブルーハーツというのがバンド名であった。
彼らの曲には、有名なものが多い。
が、もちろん全てが有名というわけではないし、あまり知られていない曲もある。「チェインギャング」は、たぶんそんな曲の1つだ。

「僕の話を聞いてくれ、笑い飛ばしてもいいから」と歌いだす、少しばかり物悲しい雰囲気のやさしい曲である。

先月の半ばから遊んでいるゲームでは、開拓時代も終わりを告げようという西部が舞台だ。幕末の日本にも近い横暴な世相があちこちで渦巻いている。
私の操る主人公(アーサー・モーガン)氏は、法治化してゆくアメリカで、時代に呑みこまれてゆくギャングの端くれとして暮らしている。

或いは、これから始めようという方の目に触れる可能性もある。
詳細は省くが、かなり厳しい状況に追い込まれていく。

落ち延びたギャングたちの中にあって、一目おかれるボスの右腕である。

厄介事には、かならず頭数として当たり前のように入っている。
ファミリーを養うため、銀行も列車も襲った。
余命幾許もない農夫を殴りつけて、貸した高利を取り立てたこともある。

そんなアーサー・モーガン氏の物語も終盤に差し掛かってきている。
身の上に人生観を変える出来事があって、生き様を見直せとばかりの選択肢ばかり目に留まる。これまでには出てこなかった選択肢たち。

これはゲームで、意図して用意されているスクリプトである。
ただ、そう思う意識とは別の、もっと違うところで腑に落ちる。

たとえば当たり前だと思っていた稼業が、きっちりと線引きをされた結果、曖昧だった全てが白日の下に曝される。

白と黒が、善と悪が。

生きるにやむなし、と割り切れていた境界は曖昧で、無意識の行為が誰かの人生を狂わせていたと知る。

ふと思い出したのが、「チェインギャング」の歌詞だった。

それでも僕は騙したり物を盗んだりしてきた。
世界が歪んでいるのは僕の仕業かも知れない。

駅馬車を襲い、野盗の真似事をして、稼いだ金額に一喜一憂した。
仲間の脱獄を手伝い、行き掛けの駄賃とばかりに街ひとつを血塗れにした。
お礼に受け取った逆手ホルスターにはピカピカのリボルバーを2丁さげて。

大きな強盗に失敗し、逃亡から始まった物語である。

ギャングとはいえ、仲間と平穏に暮らすというのが目的であったはずなのに裏目に出る事ばかりで、逃げては追い立てられ、居を移すばかりの毎日。

不穏な空気がギャングたちを取り巻きはじめ、気がつけば仲間が殺された。ひとり亡くしては逃げ回り、ふたり亡くしては追い立てられる。

そんな日々を過ごして、アーサーは少しずつ人生を見つめなおしている。

高利の取り立てで、取り立てるどころか境遇を憂いて幾許かのお金を渡す。
助けてくれたお礼と差し出される家宝のブレスレットを受け取らない。

これまで出てもこなかった選択肢が、いつからか現れていた。

もう彼(アーサー)は手遅れだと確信する事実が、操作する側にある。

それでも「せめて」と選ばせる。

もう、取り返しはつかない。
それを知っていて、どちらを選んでしまうか。

せめて納得できるように物語を終わらせたい。
私が、ではない。
アーサー・モーガンが、である。

ハッピーエンドではないとしても、せめて納得できる終わりにしたい。
そう願わずにいられない。