川崎市ってどんな街?

神奈川県川崎市といえばどんなイメージを持つだろう。
公害、ギャンブル、風俗、工場、酒、犯罪、在日外国人…
少なくとも旧来はこんなイメージが強かったように思う。
現在ではそこにタワマン、ベッドタウン、フロンターレ、ブレイブサンダース、ドラえもん(藤子・F・不二雄)、なんてイメージを持つ方も増えてきているのではないか。

これらはどれも間違ってはいないが、川崎市には少し特殊な事情がある。
市の形状がとても細長く、北西から南東にかけて広がっているのだ。

こんな形をしている

旧来からのいわゆる悪いイメージの川崎というのは南東の川崎区・幸区辺りが主に該当する地域になる。
これらの区は市民からは「南部」と呼ばれ、ヒップホップ界を代表する存在になった川崎区出身のヒップホップクルー、BAD HOPのメンバーが「KAWASAKI South side」と呼んでいる地域だ。

一方で北西の麻生区(”あさおく”と読む)や多摩区、宮前区は「北部」と呼ばれ、工場やギャンブル、風俗とはほぼ無縁の地域である。
比較的緑が多く、閑静な住宅街で、藤子・F・不二雄ミュージアムや生田緑地、大学が点在するのもこちらのエリアだ。

実際、川崎区役所と麻生区役所は直線距離でも約20kmほど離れており、基本的には交わらない関係である。
単に距離があるというだけではなく、北部と南部は利用する鉄道が異なるため生活圏がはっきりと変わる。
例えば南部であれば最寄り駅はJR南武線や横須賀線、京急線が主だ。
一方で北部は小田急線、東急田園都市線が主要な移動手段となる。
南部民の中心地はJR川崎駅と京急川崎駅の界隈になるが、北部民にとってそんな市の端にある中心街に行く必要はなく、小田急で新宿や町田、下北沢に行く。
もしくは田都で渋谷や二子玉川に行きショッピングや食事を楽しむのである。

こういった立地の特性や歴史的な経緯もあってか、川崎南部は地元志向が強く川崎市(というか地元数キロ圏内)を出ない人が多い。
集合場所は基本的に川崎駅になる。
一方で川崎北部は子供の頃から市外に出ることが当たり前だったり、そもそも親が都内勤務だからそこに住んでいるということもあってか、地元から出ることに抵抗がないケースが多い。ように個人的には見受けられる。

川崎生まれ川崎育ちでこれら南部と北部の違いをまったく意識したことがない者はおそらくほとんどいないだろう。
昔はそれこそ公立高校の学区も北部と南部で分かれていたし、成人式はたしか今でも同じ会場で時間帯が分かれている。
僕が成人式に行った際は袴で樽を割って酒を飲む南部民と、スーツで澄ましている北部民というギャップが非常に印象に残っている。
なお特に荒れたり逮捕者が出たとは聞いていないので、これはあくまで趣味趣向が違うというだけのことであるが、とにかく川崎市民同士が出会うと、育ちが南部なのか北部なのかというのは地元トークの一環として話題になりやすい。
そして大体南部はいじられる。(ヤンキーなんでしょ?笑 的な)

ちなみに僕の先輩はあるお店でスタッフにどこに住んでいるのかと聞かれ、「川崎(市)」と答えたところ、後の会話で北部住みなことが知られ、「そこは川崎じゃない!新百合とか登戸って言え!」と叱られたらしい。

そしてここまで登場していないのが中原区と高津区。
高津区を北部、中原区を南部と分けることもできるが、強いて言うなら中部。
いま川崎市内で最も注目度の高い地域であり、ニュートラルなエリアでもある。

中原区の中心は武蔵小杉駅。
元々南武線と東横線・目黒線の乗り換え地点だったため交通の便は良かったのだが、ただの乗換駅という印象で地元民以外がわざわざ何かをするという街ではなかった。
しかしここ15年ほどは工場等の再開発に伴うタワマンと商業施設の建設、横須賀線・湘南新宿ラインの新駅開業で沸きに沸いており、正直僕はもう昔の街並みをあまり思い出せない。
ただ最近で言うと3rd avenueが完成したときはあまりの変貌に驚いた。
別に元が酷かったわけではないのだが、再開発とは街をここまで良化するのかと感動し、再開発に反対する人の気持ちが余計にわからなくなった。

一方の高津区の中心は溝の口駅。
こちらも昔から南武線と田園都市線の乗り換え地点で、JRと東急が乗り入れていた点では武蔵小杉と同様。
ただこちらは武蔵小杉の再開発よりも前にノクティとマルイという2大商業施設が出来上がり、ボウリングやゲームセンター、居酒屋も豊富な街で、より繁華街としての性質が強い街だった。
その後目立った再開発は無く、一転して武蔵小杉に比べると地味な街になってしまったが、大井町線の延伸により渋谷を経由せず都心各地に行けるようになるなど利便性は向上、生活する上で必要なものもほぼすべて揃う成熟した街になっている。

これら2つの区はどちらかというと南部的な性質の街だとは思う。
駅近マンション住民はおとなしいかもしれないが、少し離れればまだまだヤンキーだったりガラの悪い大人たちが少なくないからだ。
しかし交通利便性の高さや市の中央に位置する立地から、南北問わず人が集まってくる傾向にあり、また市外からの流入も多いエリアになる。
僕自身この中部の出身だが、クラスには古くから住んでいる人と親の代で地方から越してきた人がいい塩梅に混ざっていた。
外部の人にとっても住む理由を見つけやすく、また抵抗感が少ない土地柄と思われる。

つらつらと書き連ねてしまったが、このように一口に川崎市と言ってもまったく事情が異なる。
そこが面白いところでもあり難しいところでもあるのだが、今は川崎フロンターレや川崎ブレイブサンダースが人気クラブになっており、サッカーやバスケを通じて市の一体感が多少なりとも形成されてきているようにも思える。

同じ神奈川県の政令指定都市でありながら、横浜市と川崎市は明確に異なる。
横浜市は川崎市以上に広大なため、地域による雰囲気や生活圏の差はより大きいはずだが、横浜という存在自体が一つのブランドとして求心力になっている。
また横浜市が横浜駅を市の交通の中心として整備できている一方、川崎市は市の中心というものが実質的に存在しない。

人口は多い、そこそこの知名度もある、都内アクセスが良く便利。
でも市全体としての統一感が無く全体像が見えてこない。
それが川崎市の現状だ。
市全体が共有する関心事は年始の川崎大師参拝と川崎フロンターレの躍進くらいだろうか。

僕はそんな川崎市の中で最も濃い地域、川崎区で暮らしている。
その話はまた今度…

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