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【模型】食玩を塗りなおしてわかること ~海洋堂 王立科学博物館より 01新世界~

先日福井プラホビーのアウトレットで海洋堂の「王立科学博物館 第二展示場」をコンプリートで買ってきたのだが、やっぱりどうしても模型の仕上がりには残念さが残る。原型は超絶にすさまじい精密感なんだろうが、量産品を仕上げるのは中国の、たぶん東莞だとおもうのだが、あっちのワーカーなので、当たり前だがモデラーが仕上げたようにはいかない。

オリジナルの状態

ちょうど海洋堂が発注先の中国のメーカーでこれを作っていた時期に私もだいたい同じ場所で仕事をしていたので、なんとなく雰囲気が分かるのだが、中国の大量生産というものは未経験の出稼ぎワーカーを使って安定した品質を得るために、どのように工程を組んでどのようにワーカーを教育し、生産と品質を管理するかということが肝になる。要するにマニアが唸るような仕上がりのものを作ろうと思ってもそもそもコストが合わないし、慎重さを要求される作業、つまりまじめにやらなかったら即不良品になってしまうような作業などはやらせるほうが間違いだ。

それで、大体このくらいの作り込みなら市場で通るだろうというようなものを決めて、どのくらいばらつきを許容できるとか、コストや出来高と天秤にかけた上でどういう工程を組もうかということになる。そもそも全塗装の模型を300円で流通させようなんていうのだから、贅沢は言っていられない。とはいえ品質にはカネがかかる要素とカネがかからない要素があることも事実だ。

前述した工程でのミスやばらつきなどを抑えるためには、各作業のリードタイムを長く取るとか工程内検査で選別する基準を厳しくするといったことが必要だが、これはすべてコストアップにつながる。
ではカネがかからない品質というのは何だというと、生産性と仕上がりの良さを両立した塗装仕様の決定や、合理的なSOP(作業指示書)の整備といったことが挙げられる。

まず塗装については海洋堂の本職さんがモデラーの技術をなんとかして大量生産にぶち込もうとしていることがよくわかる。
よくある食玩だと単色ベタ塗りしたものにマスキング型で模様を入れるというようなものが多いのだが、海洋堂のものはちゃんとハイライトとシャドーが入っていて、陰影が表現されている。またカラーも緑ならこれ赤ならこれというように小学生が絵具を選ぶような使い方ではなく、ビビッドな色や中間色の寝ぼけた色、質感を表現するメタリックなどなかなか秀逸な色指定がなされている。
こういうことはいったん決めてしまえば量産で従量的にカネがかかるものではない。仕様をいかにセンス良く決めるかがカギになるのは模型に限らずあらゆる工業製品に言えるだろう。

もう一点、優れた作業指示書というものは作業がやりやすいだけでなく寝ぼけていてもミスが起きないようなポカヨケがふんだんに盛り込まれているもので、早いか遅いかの違いはあれ誰がやっても同じ結果が出せるというものだ。そういう作業手順をワーカーに与えることで、ワーカーは努力と根性を消費することなく安定してミスなく作業ができ、よい品質のものが安定して供給できるというわけだ。

海洋堂の300円台の食玩はこのあたりが徹底的に考えられている様子がよくわかる。
そもそも300円でコンビニで売ろうというのであれば少なくとも卸価格は140円くらいか、これを中国から輸入し関税もコンテナ代も払う分を差っ引いたら高くともFOBで100円以下、さらに現地のメーカーが利益を出すためには、多分だけれども40円くらいで作らなければ合わないはずだ。そのコストで曲がりなりにも全塗装の模型を作ろうというのだから、よくできたもんだとつくづく感心する。

というわけで市場的には歓迎される品質なのだけれども、模型をやっている人間としてはこれでは満足できないというわけで、さっそく一点塗りなおしてみた。

まずは全体をバラバラにしてパーティングラインや成形のおかしい部分を整形して、部分的に真鍮線に置き換えたり下地を吹きなおして塗装をやり直してみた。
どうだ参ったか、というような出来になったが、この作業に3時間かかったので、私の作業単価でコスト計算するなら6000円か。
多少できはそれなりでもこんなものを40円くらいで作ってしまう海洋堂はすごいなあと改めて脱帽した次第。

一旦全部バラバラにしてパーツの整形をやり直す
植物プラントのスポークは真鍮線に置き換える
宇宙コロニーの窓は透明度を上げるためにクリアーを吹きなおす
窓をマスキング
全体を黒サフで下地塗装
ベースホワイトで本塗装
細部の塗り分け
リペイント完了
左がリペイントしたもので右がオリジナル
出来はよくなったが、これを300円で売れと言われたら無理だな


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