【旅行】仙台苫小牧ドンブラコ −3− 奥松島でホヤアイスを食う
8月13日の朝、仙台周辺観光のためまずは予約していたレンタカーを借りに行く。
4人乗りの小型の箱型の車両を借りたのだが、やはり最近の車は随分と近未来なもので、普段20年前の自動車に乗っているせいか、たまに現代(ヒュンダイにあらず)の車に乗ると未来に飛んだような錯覚を起こす。
なんといってもキーがない。
普通クルマといったら家の鍵より大きなシリンダー錠をザクリと差し込み、強引に右にひねることでセルモーターがイヤがるように始動して、ゴトゴトとエンジンがかかるというものだが、最近の車はその鍵がないのでどうもこれから車を運転するぞというケジメがつかない。
エンジンが回っても静かすぎて、特にハイブリッドだと本当に回っていないこともあるので、私のように過去からやってきた人間は特に注意が必要だ。
また仙台市内の宿の周りは一方通行やら片側4車線道路やら、なかなか複雑なので都会乗りに慣れるため周辺をしばらく慣らし運転のように走り回ってから宿に迎えに行く。
さて1日目の車両での行動は、まずは奥松島といわれるところまで行って、帰りにいろんなところに寄って帰るというものだ。
松島は我々も義父母も行ったことがあるとのことで、ではその奥の奥松島はどうですかというと、それは良さそうだということになった。
奥松島というのは松島の東に広がっているリアス式海岸と島嶼群のことで、その規模は一般的に知られている松島よりも広範囲にわたるものだ。
陸から見る松島はどのように見えるのだろうということで、早速向かう。
まずは市内を東進し、仙台東ICから高速道路に乗る。
途中、まるで宇宙の侵略者がやってきたかのようなどえらく近未来なスタジアムが遠くの山の上に見えたが、あとで調べたらキューアンドエースタジアムみやぎという施設らしい。
同じように企業名を冠した施設が色々あるようで、公益性のある事業に民間からの出資が期待できるなら、こういうネーミングも全然悪くないと思う。
とにかく百万都市はいちいち規模が違うなと感心しつつ、やがて山間部を縫うように走り、松島ICで高速を降りてしばらく走ると野蒜海岸というところに着いた。
この砂州と奥に見えるリアス式海岸は橋で繋がっていて、奥が細かい島嶼群になっている。
この日は台風の直後でもあって天候があまり安定しておらず、なかなか先行きが見えない天気で、蒸すがいつ雨が降るかわからない重たい空気だ。
海に流れ込む川はなるほど褐色に濁っていて、一昨晩は結構な嵐だったことがわかる。
考えてみれば昨日は台風が来るとのことで、高速道路を走る福井組はともかく新幹線でくる東京組や飛行機で飛んでくる福岡組はちゃんと仙台に着けるだろうかということを懸念していたのだった。
特に影響なくここに着けたのは喜ぶべきだな。
砂州から橋で渡るとその先は宮戸島といって、リアス式海岸の島になっている。
この島がなかなか興味深く、グーグルさんマップで見る限りでも、さまざまな時代の遺跡や遺物が残されていて、狩猟採集の時代から人間が住みやすい土地だったことがわかる。
太平洋側でリアス式海岸といえば津波の懸念がどうしても付きまとうのだが、内側に湾状に広がった地形だと逆に津波を軽減する効果があり、また天然の良港でもあることから漁業や交易で潤ったであろうことは容易に想像できる。
そんなわけで宮戸島には縄文の遺跡から近世の長者の屋敷に至るまで色々見所があり、また風光明媚な保養地として賑わっているようだ。
今回は残念ながら午後の予定がメインなので、地形を楽しむ程度に車を走らせて簡単に見て回る程度にとどまったのだが、数日間腰を落ち着けて滞在するには面白そうな島だ。
さて道の駅のような観光拠点があって、ここで一息入れようということで車を止めた。
なんでも「あおみな」という施設で、本来の目的は奥松島を巡る観光艇の基地ということらしい。
外には自由に使えるテーブルと椅子があったので、途中サービスエリアで買ってきたずんだ餅を食べようということになった。
これは冷凍で売られていたもので、車のダッシュボードに置いて解凍させていたものがぼちぼち食えるようになったのだけれど、4人で分けて食べるにはスプーンがいる。
それではスプーンを入手するためにアイスクリームを買おうということになって、あおみなの名物らしきアイスクリームを皆で買いに行った。
なるほど名物らしく、えんどう豆を潰した「ずんだ」ペーストが載ったものや、地元産らしきブルーベリーの乗ったものが色々ある中に、恐るべきことに「ほや」というのがあった。
ホヤとはアレだ、なんか生きてる心臓みたいな海の生き物で、塩辛にするとおっさんにはたまらない珍味になるという海産物だ。
なんでも海底に定着したまま海水をポンプのように体内に取り込んでプランクトンなどを濾し取って食うというダワモンの極みみたいな生き物で、生物学的にはちと違うがイソギンチャクやカメノテみたいなものか。
面白いので調べてみたところ、海のこの手の定着系不思議ダワモン生き物の例に倣って幼生のうちはプランクトンとして自由に海中を泳ぎ回れるらしい。
さらにホヤの幼生はオタマジャクシにそっくりで目まであるという。
フジツボは実は甲殻類であるということを知った時と同じくらいびっくりだ。
ホヤは宮城県の特産品で、いずれ機会があれば食ってみたいなと思っていたが、まさかその機会がこんな時にやってくるとは思わなかった。
ホヤのアイスクリームには「ほやアイス」と書いてあり、間違いがないようちゃんと写真も載っている。
私のファーストホヤがまさかアイスクリームになるとはさすがに予想すらしていなかった。
まあほやアイスといったところで若干のエキスが入っているだけで味はちゃんとした普通のアイスクリームなんだろうとタカを括っていたらとんでもない、蓋を開けたらしっかりオレンジ色のホヤがしっかり入ったつぶつぶ入りホヤアイスで、うーむこれは本気のホヤアイスだ。
一口目はなんということはない普通のミルクアイスで、特に不審なところはない。
二口目もそうだ。
安心して三口四口と食い進めていくと、口の中にホヤの断片が溶け残るように増えてくる。
これが口の中の体温で常温に戻ると一気に海の香りで口の中が満たされてくる。
初めはなんだかローソクのカケラのようなものがあるな程度だったものが、やがて福井の塩ウニみたいに濃厚な味が噛めば噛むほど出てくる。
食い初めは、俺はホヤが入ったアイスを食っているらしいなくらいの感覚だったものが、次第に「どうも俺はアイスにまみれたホヤを食っているらしいぞ」という具合になってきて、最後にはスルメか何かを食った後のような海産物特有の磯の香りを存分に楽しめるという実に珍しいアイスクリームだった。
なるほどホヤはちゃんと食ったらうまいものなんだろうなと思った。
すんでのところでなぜホヤアイスなんて食ったのだろうということを忘れるところだった。
解凍がだいぶ進んだずんだ餅を皆で分けてアイスのスプーンでつつく。
こちらは上品な甘さがなかなか結構なもので、夏の暑い盛りにはこうして半解凍で食べるとなかなかいい。
そうして一息つき、周囲の景色を楽しむため少し散策してから今度は午後のメインディッシュである多賀城へと向かうのであった。
つづく
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