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SNSかたおもい

あれ、名前が変わってる。

そういえば、就職したんだっけか。
自由な大学生だった彼が務め人になってしまった。
脱色した髪を黒く染め、怠惰そうだった先輩的な態度もニコニコと後輩感を出して愛想を振りまいているのだろうか。

自分たちの世界が狭いものだったと感じたり、自分のこだわりにこだわりきれなくなってしまったりするのだろうか。

——

コンサートスタッフの派遣アルバイトでちょくちょくかぶった先輩。
彼は都内の有名私大に通っていて、専門学生とフリーターの多い派遣の中では珍しい人種だった。

他校の専門学生がテスト期間で圧倒的人手不足だった長期間現場に放り込まれ、いやでも会話しなくてはならない状況。最初はもちろん敬語だったし、気を遣ってたし。けれどだんだん扱いが雑になってきて、突っ込んだりしているうちに、タメ口が定着してきた。
長期現場が終わったあとも、同じ現場に入ると私は暇つぶし要員にされていて、あれなんだ、気に入られてんのか?なんて思ったりもして。

休憩中は1人でずっとiPhoneをいじっているから、SNSで検索してみた。
ヒット。
一目で本人とわかる投稿。
でもフォローはしない。
そういう関係じゃない。

だけど彼の書く言葉が心地よくて、たまに検索して読んでいた。

ひねくれていて、だけど書いていることへの”好き”が隠しきれない言葉。
”書くことが好き”があふれた言葉。
私がしたくてもできないことを、呼吸をするようにできる彼が羨ましかった。

アルバイトを辞めたあとも、たまに思い出して検索をかけていた。

——

あれ、名前が変わってる。

そういえば、就職したんだっけか。

LINEは知っているけれど、個人的に連絡をしたことなんて2、3回。
ご飯に行きたいわけではない。

怠惰な待ち時間を、お互い暇つぶしでくだらないじゃれ合いをしていたあの時間が懐かしい。
全角カタカナで記された彼のフルネームはとても語呂がよくて、好きだった。
全角カタカナの彼のフルネームで書かれる、あの言葉が好きだった。

このご時世で彼はまだきっと務め人にはなっていないと思うけれど、これからの彼の言葉が変わってしまうのが怖い。
彼が、彼の名前で、彼の言葉を綴れなくなってしまったことが悲しい。

全く彼のためなんて考えていない言葉だけれど、(それは当たり前で、彼にこの言葉が届く可能性は限りなく少ないし)私の中の彼は、あの時のままの、怠惰で、”好き”にあふれた彼でいてほしい。


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