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カルテルを結んでいた大手電力会社らに課徴金総額1010億円~主導していた関西電力にはお咎めなし!?~

編著者:King&Wood Mallesons法律事務所 
弁護士 加藤 賢(東京弁護士会所属)
弁護士 須貝周平(第一東京弁護士会所属)
弁護士 杉本茉永(第一東京弁護士会所属)

公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)は令和5年3月30日、中国電力をはじめとする大手電力会社5社に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「法」といいます。)第3条の規定に違反する行為を行ったとして、排除措置命令及び課徴金納付命令を行いました[1]
違反行為を主導していたとされる関西電力は、自ら公取委に対して違反の事実を申告していたため、課徴金減免制度(リニエンシー。法第7条の4)により、何の処分も受けませんでした。
今回は、独占禁止法上の不当な取引制限の禁止と課徴金減免制度についてみていきたいと思います。


1.事案の概要


中部電力、中国電力、九州電力及び関西電力は、平成30年10月から令和2年10月までの間、互いの営業エリアで顧客を獲得しないよう申し合わせ、自社の供給区域において電気料金の水準を維持又は上昇させていた疑いがありました。そのため、公取委は、令和4年4月から7月にかけて立ち入り検査を行い、調べを進めていました。
その後、公取委は、令和5年3月30日、一連の行為がカルテルにあたり、独占禁止法に違反するとして、各電力会社に対し、以下の内容の命令を行いました。
 

 このうち、カルテルを主導していたとみられる関西電力は、違反の事実を最初に公取委に自主申告し、課徴金減免制度によって処分を免れました。九州電力についても、課徴金減免制度によって、課徴金の減額を受けています(なお、九州電力みらいエナジーも当該制度の申請を行っていますが、そもそも課徴金納付命令の対象とはなっておりません。)。また、本件のカルテルについては、公取委から犯則調査の対象ではないと判断されたため、刑事告発はされませんでした[2]。公取委からの命令に対し、中部電力及び中部電力ミライズは、事実認定と法解釈について見解の相違があることから、排除措置命令及び課徴金納付命令について、処分の取消を求める訴訟を提起すると発表しています[3]

2.不当な取引制限とは?


不当な取引制限は、法第3条で禁止されている行為です。これに該当する行為として、具体的には「カルテル」と「入札談合」があります。今回、「カルテル」が問題となりましたが、これは、簡単に言えば、複数の企業が密かに協力して、価格や生産量などを取り決め、市場における競争を制限することです。

3.ペナルティとしての排除措置命令・課徴金納付命令とは?


不当な取引制限に違反した場合のペナルティとしては、排除措置命令、課徴金納付命令、刑罰があげられます。
このうち、排除措置命令(法第7条第1項)とは、企業が不当な取引制限等を行っている場合、その行為を止めさせるために公取委が出す命令のことです。
また、課徴金納付命令(法第7条の2)とは、企業が不当な取引制限等を行ったことに対し、違反行為の抑止のために、行政上の措置として企業に対して金銭的な不利益を課すものです。違反行為をした企業に対しては、違反行為により不当に獲得した利益に応じた課徴金の納付命令が行われます。

4.課徴金減免(リニエンシー)制度とは?


今回、カルテルを主導していたとされる関西電力は、この課徴金減免制度により、一切の課徴金の納付を免れました。九州電力も、この制度によって課徴金の減額を受けています。関西電力につき、カルテルのリーダー格であったのに何のペナルティーも負わないの?と疑問を感じる方も多いと思いますので、以下で解説していきます。
関西電力に適用された課徴金減免制度とは、企業が自ら関与したカルテル・入札談合について、その違反行為を公取委に自主的に報告したり、調査に協力したりすると、課徴金が全額免除又は一部減額されるというものです(法第7条の4、第7条の5)。
この制度は、複数の企業が共謀して秘密裏に行われるカルテルについて、証拠を集めることが難しいことから、日本では平成17年に創設されたものです。
関西電力は、公取委が調査を開始する前に、最初に自主的に違反行為を申告したため、課徴金が全額免除されました。最初に申告する者は、カルテルの摘発に大きく貢献することになるため、他の企業に違反行為を強要していたというような事情がなければ、カルテルの首謀者であったとしても課徴金の納付を全額免除される建付けになっているのです。

5.コメント


平成28年から電力の全面自由化がなされ、市場に新規事業者が参入し、電気料金が下がることが期待されていましたが、今回の事件でみられたようなカルテルの存在は、電力の自由化を形骸化させるものであるといえます。そのような中、課徴金減免制度により、カルテル摘発のための証拠収集が容易になった面は否定できません。
他方、カルテルの主犯格であった関西電力が何の処分も受けていないという結果は、消費者からすれば納得のいかないものでもあります。また、別の視点として、制度の存在により、最初に申告すれば課徴金を免れるとして、逆に、カルテルへのハードルが下がり、違反行為を誘発するおそれがないか、という点には、注意する必要があると思います。
公取委にはこの制度を上手に使って消費者の権利を守ることが求められます。


[注釈]
[1]:公正取引委員会「(令和5年3月30日)旧一般電気事業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/mar/230330_daisan.html)
[2]:公正取引委員会 犯則調査権限
(https://www.jftc.go.jp/dk/seido/hansoku.html)
[3]:中部電力ウェブサイト・プレスリリース
(https://www.chuden.co.jp/publicity/press/1210465_3273.html)



(執筆者から一言)
今回主に執筆を担当した杉本です。まだ弁護士になってから3カ月ほどの新人ですが、今回この事件に触れてみたことで、今後取り扱ってみたい分野の一つに独禁法をあげようと思いました。これからよろしくお願いします!

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