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「クレベリン」に過去最高額の課徴金6億超!? 優良誤認表示に気を付けて!

編著者:King&Wood Mallesons法律事務所 
弁護士 加藤 賢(東京弁護士会所属)
弁護士 須貝周平(第一東京弁護士会所属)
弁護士 杉本茉永(第一東京弁護士会所属)

2023年4月11日、消費者庁は、大幸薬品が製造販売する「クレベリン」の表示や広告が、景品表示法(以下「景表法」といいます。)の優良誤認表示に該当するとして、同社に対し、課徴金納付命令を出しました [1]。その額は、何と6億744万円。同庁によれば、景表法に基づく課徴金命令額としては過去最高額とのことです。

なぜ、6億円超という高額な課徴金が課せられることになったのでしょうか。

今回は、景表法上の優良誤認表示を理由とする課徴金について、取り上げてみたいと思います。


1.クレベリンとは?

「クレベリン」とは、大幸薬品が販売している、二酸化塩素を主成分とした、いわゆる「空間除菌」商品のシリーズ名です。

シリーズには、「置き型タイプ」「スティックタイプ」「スプレータイプ」など複数の商品があり、「ラッパのマークの正露丸」と並んで、同社の主力商品の一つです。

具体的な効果として、空間中のウイルスや菌の除去(空間除菌 [2])が謳われていましたが、法律上は「医薬品」ではなく、「雑貨」の扱いです。
クレベリンは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、売上が急増し、一時品薄状態が続いていたほど売れ筋の商品となっていました [3]

2.優良誤認表示とは?

商品・サービスの「品質」を、実際よりも著しく優れていると偽って消費者に宣伝するような行為は、景表法上、優良誤認表示 [4]として禁止されています(景表法5条1号)。

事業者が優良誤認表示を行うと、当該行為の差止め等を命ずる「措置命令」や、課徴金の納付を命じる「課徴金納付命令」が出される可能性があります。

3.不実証広告規制

優良誤認表示を語る上で、合わせてチェックが必要な事項として、「不実証広告規制」があります。

これは何かというと、まず、消費者庁は、商品・サービスの効果や性能に優良誤認表示の疑いがある場合、その事業者に「表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料」の提出を求めることができます(景表法7条2項、同法8条3項)。

これに対し、資料が提出されない場合、

  • 当該表示は、行為の差止め等を命ずる措置命令との関係では、優良誤認表示とみなされてしまいます(景表法7条2項)。

  • 課徴金納付命令との関係では、優良誤認表示と推定されてしまいます(景表法8条3項)[5]

これが、不実証広告規制です。要するに、白だと反論できない場合は、黒の扱いを受ける、ということです。
特に、単に物理的に資料を提出しない場合だけではなく、資料を提出しても、「合理的」だと認められない場合にもこの規制が及ぶ点に注意が必要です。つまり、自社として「合理的な根拠がある」と思っていても、消費者庁に提出したところ、合理的だと認めなければ、アウトです。この意味で、非常に厳しい規制といえます。

4.本件の経緯

大幸薬品は、「クレベリン」シリーズの5商品(以下「本件5商品」といいます。)について、商品パッケージや自社ウェブサイトなどにおいて、「空間に浮遊するウイルス・菌・ニオイを除去」等と表示して、あたかも、これらの商品から発生する二酸化塩素の作用により、消費者が生活等をする室内空間に浮遊するウイルス又は菌が除去又は除菌される等の効果が得られるかのような表示をしていました(以下「本件表示」といいます。)。

これを受けて、消費者庁は、同社に対し、本件表示の裏付けとなる合理的な根拠資料の提出を求めました。
これに対し、同社からは、「クレベリン置き型」を用いたウイルス・菌の除去に関する実験資料が複数提出されました。

しかし、いずれも密閉空間での実験結果に基づく資料であり、実生活空間での効果を保証するものではなかったため、合理的な根拠を示すものであるとは認められませんでした[6]

5.課徴金納付命令

「3.」で説明したとおり、大幸薬品が提出した資料は、合理的な根拠を示すものとは認められなかったため、本件表示は優良誤認表示であると推定されることとなりました。その結果、同社は、課徴金納付を命じられる結果となりました [7]

課徴金の金額は、原則、違反行為をした期間(最長3年)の対象商品・役務の売上額に3%を乗じた金額となります(景表法8条1項、2項) [8]
本件5商品を合わせた違反期間中(ただし過去3年分)の合計売上額は、約200億円以上となっており、本件では、以下のとおり、課徴金が約6億円と計算されたのでした。

約200億円(売上額)×3%=約6億円(課徴金額)

つまり、過去最高額である6億円超もの課徴金が課された理由は、「クレベリンの売上額が大きかったから」、ということになります。

6.まとめ

まず、何といっても、不実証広告規制には注意が必要だと思います。

優良誤認表示と認定されないためには、消費者庁から表示の裏付けとなる合理的な根拠資料の提出を求められた場合に備え、あらかじめ十分なデータを用意しておく必要があります。

資料の提出期限は、原則として、消費者庁から資料の提出を求める文書が交付された日から「15日を経過する日までの期間」とされているため(景表法施行規則7条2項)、資料提出の要求があってから準備していたのでは、間に合わない可能性が高いと考えられます。

なお、不実証広告規制について、消費者庁は運用指針 [9]を公開していますので、参考になります。

また、課徴金の金額は、売上額が大きければ大きいほど、高額になる仕組みになっています。本件で課徴金の金額が過去最高額となったのも、クレベリンが人気商品であり、売上額が大きかったことが原因でした。見方を変えれば、売上額が伸びれば伸びるほど、優良誤認表示に該当した場合の課徴金額が高額になるというリスクがあります。事業が好調で、売上が伸びてきているのであれば、一層、広告内容については注意する必要があります。

自社の商品やサービスに関する表示について、少しでも不安に思ったら、リスクが現実になる前に、一度、専門家である弁護士に相談した方がよいでしょう。


[注釈]
[1] 消費者庁「大幸薬品株式会社に対する景品表示法に基づく課徴金納付命令について」(https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_230411_01.pdf

[2] なお、空間「殺菌」ではなく空間「除菌」という言葉が使われている理由は、「殺菌」という文言は、薬機法上、医薬品や医薬部外品にしか使うことができず、雑貨には使うことができないからであると考えられます(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kenkou/iyaku/sonota/koukoku/siryou.files/R4-slide2.pdf.pdf)。

[3] 産経新聞社「最高益叩き出したクレベリン 正露丸超える大幸薬品の顔に」(https://www.sankei.com/article/20210325-VVGY5D3T5ROV5FBZRZZORQV3PE/

[4] 景表法上の不当表示としては、「優良」誤認表示の他にも、「有利」誤認表示(景表法5条2号)があります。有利誤認表示は、商品・サービスの「取引条件」について、消費者に対し、実際よりも著しく有利であると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に安いわけでもないのに、あたかも著しく安いかのように偽って宣伝する行為を指します。

[5] 法律用語における「みなす」と「推定する」の違いは、証拠等による反証を許すか否か、という点にあります。例えば、本件だと、「措置命令」(優良誤認表示と「みなす」と規定)との関係では、証拠等をもってしても、優良誤認表示に該当するという事実を反証により覆すことはできません。他方、「課徴金納付命令」(優良誤認表示と「推定する」と規定)との関係では、証拠等により、優良誤認表示に該当するという事実を反証により覆すことができます。

[6] 大幸薬品ウェブサイト「クレベリン広告表示に関するQ&A」(https://www.seirogan.co.jp/contact/faq/cleverinfaq/

[7] なお、これに先駆けて、2022年1月と同年4月に、消費者庁から大幸薬品に対し、本件表示を取りやめることや再発防止策を講じることを求める措置命令が出されています。

[8] 例外的に、違反行為を行った事実を自ら報告した場合や、返金措置を実施した場合などには減額が認められます(景表法9条、同法10条、同法11条)。また、違反行為を止めた日から5年を経過したときは、課徴金が賦課されません(景表法12条7項)。

[9] 消費者庁「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_34.pdf


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