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帰化許可処分に関する判例1

帰化許可申請が不許可になった裁判の判例を読んでみました。このような過去事例を知ることは、申請準備にはとても大事です。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/245/085245_hanrei.pdf

このケースでは、公開されている情報を見る限り、帰化許可申請に必要な7つの要件は整っていそうです。しかし、許可するかどうかは法務大臣の広範な裁量権であるため理論通りにはいきませし、この決定には行政手続法が適用されないため、理由も明らかにされません。
また、公開情報からは見えない他の要因があるのかもしれません。したがって、見える範囲から事実を受け止めていくことをしていきたいと思います。
帰化申請した人は、韓国籍の特別永住者である母子です。

母Aの状況

昭和47年に、韓国人の父Bと日本人の母Cとの間に日本で生まれました。特別永住者として、約42年間継続して日本に居住しています。
朝鮮学校を卒業後、アルバイトをしていました。
母Aは韓国人Eと結婚し、長女Dが生まれます。
その後、母AはEと離婚し、Dの親権者となります。
母Aは、平成23年に日本人男性Fと結婚し、同年離婚しますが、平成24年、再度Fと結婚します。現在、A,D,Fは同居中です。
母Aは、ある特定疾患を抱えていて家事が十分にできないという事情があります。
前科、前歴はなく、行政処分も受けていません

母Aの帰化要件

住居要件:42年連続して日本に住んでいるためOK
能力要件:18歳以上なのでOK。ある特定疾患が「行為能力」に影響していないかは判断できません。
素行要件:OK
生計要件:Dは会社の取締役だそうなのでOKでしょう
喪失要件:特別永住者なのでこれもOK。
思想要件:判例からは判断できません。
日本語能力要件:OK

長女Dの状況

平成7年、韓国人の父E、母Aとの間に日本で生まれ、特別永住者として、約19年間継続して日本に居住しています。
本件不許可処分当時,本件朝鮮学校の高級部3年生であり、朝鮮学校で課外活動として,日本の学校との交流活動等にも参加していました。
前科、前歴はなく,行政処分等を受けたこともありません。母Aが家事を十分にできず、Fの帰宅も遅いため、長女Dは、夜間や土曜日も教員がいる朝鮮学校に通学していました。

長女Dの要件

住居要件:19年連続して日本に住んでいるためOK
能力要件:18歳以上なのでOK。
素行要件:OK
生計要件:母A同様、OK
喪失要件:特別永住者なのでこれもOK。
思想要件:判例からは判断できません。
日本語能力要件:OK

帰化許可申請の経緯

母Aと長女Dは、平成24年7月26日に横浜地方法務局国籍課に,帰化許可申請しました。この時、同課の担当官は,Fの同席のもとでA,Dと面談し,AがDを朝鮮学校に通学させている理由などを聴取したそうです。
法務大臣は平成25年8月14日、不許可処分を決定します。

訴えの要旨

訴えのポイントは以下の3点です。

  1. 外国人学校に通学していることが、不許可の理由なのではないか、これは朝鮮学校に通う生徒に対する差別なのではないか。

  2. 自分たちは、歴史的経緯により日本国籍を喪失した。日本で生まれ育ち,日本人と同じ生活をしてきた特別永住者にとって,日本国籍の取得は,日本国民としてのアイデン ティティーを取得,確立するために極めて重要である。国籍法も,日本で生まれた外国人に対しては、帰化許可の条件を緩和している。

  3. 帰化が許可されない場合、将来,国外退去を強いられる可能性があり,家族が離別する可能性がある。

判決の要旨
1点目については、帰化に関する処分には行政手続法が適用されないため、不許可処分の理由を示す義務はない。

2点目については、特別永住者は、重大な犯罪を犯した場合に限って退去強制をすることができると規定されている。そのため、退去強制を受ける可能性は低く、仮に将来、退去強制をされることがあるとすれば,それは重大な犯罪行為を犯したためであるため、それは当然受けるべき不利益である。

3点目については、特別永住者からの帰化の申請では、帰化の動機書、在勤証明書、給与証明書及び最終学歴を証する書面の提出を求めないとしているだけである。これは,特別永住者が,日本社会に定着して,日本に生活の基
盤があるので、手続を簡略化しているだけである。つまり、法務大臣の帰化の裁量権が制限されてはいない。

まとめ

帰化許可申請は、これまでの不許可の理由がわからないため、リスクになりそうなところはなるべく取り除くという姿勢でいくのがベストです。訴えのように、朝鮮学校に通っていたことが判断の材料になったかどうかはわかりませんが、帰化申請をする時期を遅らせるなどすれば状況は違ったのかもしれません。

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