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世界の一人当たりGNI

GNIはGross National Incomeの略で、国民総所得という意味です。
つまり、その国の国民が1年間に受け取った所得の総額です。
これをその国の人口で割ったものが1人当たりGNIです。
ざっくり言うと、国民一人当たりどのくらい稼いでいるか=国民の経済力、ということです。日本の一人当たりGNIは2019年のデータで$41,513(当時は1ドル110円ぐらいなのでおよそ4,600,000円ぐらい)です。
分母が人口なので、当然ですが人口の少ない国の方が1人当たりGNIは高くなる傾向にあります。

全体の外観

1人当たりGNI($10,000より大きい国)


1人当たりGNI($10,000以下の国)

国による違いがここまで大きいとは驚きですね。上位層を北欧が占めています。低い方は、アフリカです。

地域ごとの分布

一人当たりGNIから見える特徴を地域ごとに見ていきましょう。

ヨーロッパ

ヨーロッパは3チームに分かれます。

人口の少ない北ヨーロッパは必然的に1人当たりGNIが高くなります。一人当たりの給料が高く、物価、税金も高いですが、高福祉の国々です。
東ヨーロッパは旧社会主義国が多いため、発展が遅れているのがわかります。
そして西ヨーロッパ5兄弟。人口の割に1人当たりのGNIが高い大国です。
スペイン以外はG7の国々です。この中ではスペインが少し低い位置にいます。このため、フランスの自動車メーカーが比較的安い労働力を求めて、スペインに工場を建てています。

ロシアは人口も多いため、一人当たりGNIは世界平均の$10,000ぐらいです。資源の国ですが宇宙、軍事産業以外は盛んではありません。

ところで1人当たりGNIがダントツで世界1位のルクセンブルクってどんな国でしょう。

フランス、ベルギー、ドイツに囲まれた小さな国です。面積は神奈川県と同じぐらいです。
正式国名は、ルクセンブルク大公国、国家元首が大公という世界唯一の国です。大公は象徴だけではなく、行政権も持っています。人口はおよそ63万人です。
もともとは、鉄鋼業中心の国でしたが、金融サービス業へと産業構造をシフトし、欧州の金融センターとしての地位を確立しています。ただし、金融中心の産業構造では世界経済の影響を受けやすくなるため、現在はICT、医療、環境、宇宙分野など新しい産業にも力を入れています。
なかなか戦略的な国ですね。
地理Bには絶対出ませんが、フェルト材の不織布の輸出が盛んで、日本の使い捨ておしぼりのほとんどはルクセンブルク製です。

アジア

さてアジアはどんな感じでしょうか。

あらら・・・。インドと中国の人口が多すぎて、特徴が見えなくなってしまいました。両国は人口が多いため1人当たりGNIは低いですね。
この2国を除いた表が以下です。

日本がんばってます。1億人を超える国でここまでの一人当たりGNIをたたき出しているのですからやはりG7の一角を担うアジアの大国です。
シンガポールとカタールはそれぞれ人口が少ない国です。シンガポールは、中継貿易で、カタールは石油で潤っています。
東南アジアは、国ごとのばらつきが大きいです。そこでこの1人当たりGNIの違いを利用した域内分業が盛んに行われています。
ベトナムやフィリピンからは1人当たりGNIの高い国に仕事を求めて出稼ぎに出る人が多いのもわかりますね。
タイへは、日本の自動車工場が多く進出しています。

南北アメリカ

南北アメリカを合わせてみてみましょう。

G7の雄、アメリカが唯一の超大国であることがよくわかります。3億人超の人口を有しながら$60,000を超える1人当たりGNIです。私の会社もアメリカに支社がありますが、アメリカ人を雇うには相当の給料を払う必要があります。(逆に言うと日本はもっと給料を上げるべきなのです。)
もう一つのG7、カナダも1人当たりGNIでは他国から抜きんでています。あの広大な国土に人口が3500万人ぐらいなので、一人当たりGNIは高くなりますね。
メキシコ、カナダの一人当たりGNIはアメリカと比べて低いため、アメリカの自動車工場がこの両国にできる理由もよくわかります。
南アメリカでは、ブラジルが他のグループから飛びぬけています。一人当たりGNIこそ$10,000程度ですが人口2億人を超えているので、全体の経済規模はかなり大きいです。


宗教と1人当たりGNI

宗教と1人当たりGNIには違いが見られるでしょうか。


一見すると、キリスト教圏の一人当たりGNIが高く、イスラム教圏では低いように見えます。以下のように分散分析でもキリスト教圏とイスラム教圏での一人当たりGNIには明らかな有意差があります。

しかしこれは本当でしょうか。
キリスト教は欧米中心なので上位に来るのは当然ですね。また、イスラム圏では石油依存の国も多く、かえって産業振興に消極的であるというようなこともあるので、一概に宗教と1人当たりGNIを関連付けることはできなさそうです。
このように統計学的に有意な差があるといっても、実際には他の要因が絡んでいることがあるため(これを交絡因子と言います)、統計数値をただ鵜呑みにするのではなくそれを読み取る力が必要です。

産油国の不思議

産油国は人口も少ないところが多いので、カタールのようにもっと1人当たりのGNIが高くなりそうな気がしますが、一概にそうはなっていません。
これはなぜでしょう。
例えばナイジェリア。人口が約2億人とアフリカ最大です。国家歳入の7割、総輸出額の8割を原油に頼っています。南アフリカと競るほどのアフリカの経済大国でもあります。しかし圧倒的な人口も相まって、1人当たりGNIはおよそ$2000と低くなっています。また国民の半数以上が1日1ドル未満で生活をしているという矛盾を抱えた国です。貧困と格差が大きな問題となっています。

ベネズエラは、実は世界最大の石油埋蔵国です。人口はおよそ3000万人。1人当たりGNIは$1700程度です。この国も経済のほとんどを石油に依存しています。しかし政情不安定や欧米の制裁などにより、原油の採掘設備や製油設備への投資が行われず老朽化が進み、産出量は激減しています。これにより、ハイパーインフレーションが起きており、ほぼ経済破綻しています。

これらの国は、資源輸出に経済が依存しているため、製造業が育ちにくくなっています。また、国内経済が資源価格の変動の影響を直接受けることで不安定な財政運営を余儀なくされます。

一方で、カタールやサウジアラビアも経済や輸出を大きく石油関連に依存していますが高い1人当たりGNIを達成しています。
カタールは人口が300万弱ということもあって1人当たりGNIは約$60,000と圧倒的です。そして石油依存から脱却すべく産業育成に力を入れています。
サウジアラビアは人口約3500万人、一人当たりGNIは約$24,000です。カタール同様に産業構造の多角化を模索しています。

石油だけでは国民を豊かにすることはできないのですね。人権保護、男女差別をなくす、強権主義の緩和などといったことが雇用機会を創出し、結果的に貧困や格差の改善、国の発展につながります。

時間もお金も、「消費」するのではなく「投資」することでそれが何倍にもなって返ってくるということを実感する分析でした。

使ったデータ

今回は、基本データを使いました。
よく使うデータは基本データとして保存しておいて、必要な時に利用できるようにしておくと便利ですね。


SASプログラム

libnameを使った基本データの場所の指定や、データの横結合、数値によるグラフの分割などをしています。

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