見出し画像

公正取引委員会「生成AIを巡る競争(ディスカッションペーパー)」に関する情報・意見

書誌事項

・情報・意見募集の対象

・提出名義: 株式会社知的利益

このnote記事の背景と意見について

(いくつか誤記修正,2024年11月25日)

 競争法(日本では独占禁止法等)について不勉強の限りだが、自分自身の2024年の思索の記録として、公正取引委員会に提出させていただいた意見を公開することとした。
 このパブコメ期間中、白石忠志先生が訳されたデビッド・ガーバー『競争法ガイド』(東京大学出版会,2021[原著2020])を何度も読み直した。
 米著作権法のフェア・ユース規定の考慮要素である「著作物の潜在的市場」との関係や、欧州憲章のプライバシー保護に根拠をもつGDPRによる自動決定からの自由、田村善之教授による市場と法の役割分担論などと競争法の関係性を独自に孤独に考えていった。
 白石忠志『独禁法講義[第10版]』が素晴らしく整理してくださってなお、自分自身の地図を描けていない日本の独禁法との関係には言及できなかったが、私の問題意識は、デビッド(2021)第12章「競争の変容と競争法の変化」の問いの圏内にあり、特に、プラットフォーマーによる無料サービスとデータによる支配、そのパワーをどうしていくべきかという課題に焦点が当たっていった。

 生成AIを巡る競争法の問題は、逆説的だが、競争法における生成AI要因でしかない。つまり、生成AIの競争法上の問題は、競争法がプラットフォーマーによるデータ支配にどう対応していくべきかという複雑な課題の一部でしかない。本意見は、そのような視点で、各問いに場当たり的に整理されている。

 プラットフォーマーのデータ支配は、生成AIの側面では、データを無許諾で無料で学習している、という点に尽きる。プラットフォーマーの力が強すぎるため、新聞社や出版社、身体性の声優や俳優等を含む創作者は、プラットフォーマーと学習について交渉をし、無断学習の禁止への合意や、学習を許諾する際の納得できる対価を得ることができていない。

 また、生成AIは、次の拮抗なり公平を市場に委ねられるかどうかという問題だろうと、自分としては見立てている。LLM等への数学的・技術的な理解と将来予測が関連するため、2024年11月の段階で、私の見立てへの共感が広がることはないだろうが、単純化して公開しておく。
 私は、生成AIモデルの進化によって、次のどちらが早く到来するかの拮抗が重要であると予言する。

 A: Webアプリの電卓化
 生成AIモデルの登場により、プログラムのコーディングやコメント、テストケースの生成、プログラムのマニュアルの生成などの一部を自動化できるようになった。ChatGPT, Copilot, Claude.ai, Geminiなどが知られている。
 生成AIは、もう少しの進化と社会的受容により、電卓を使える人たちと同規模のボリューム感で、Webアプリを低コストで開発し動作運用できるようにさせ得る。
 Webアプリは、Webブラウザを経由したサービスで、スクレイピングやAPIにより動的にデータを取得しつつユーザーに機能を提供し、国境を越えた決済や広告も組み込みやすい。スマホアプリや、デジタルマーケティングのためのデータ分析ツールと連動させやすい。
 このWebアプリの電卓化がおきると、誰もがプラットフォームを構築し提供できるようになり、データがロングテールに分散化していき、プラットフォーマーがデータを支配できなくなり、プラットフォーマーの優位性がなくなっていく。
 誰もがWebアプリを企画運営できる世界では、対価の対象はコンテンツへと集約されていき、技術ではなくなっていく。技術は、ITやWebではなく、ロボットや素材の組成など具体的な物に使われていくようになるだろう。
 Aが進展するほど、プラットフォーマーの力が弱まり、コンテンツの経済的価値が高まる。

 B: クリエイティブなコンテンツの消滅
 生成AIは、学習データの総体の確率的な平均値しか出力できない。しかし、手仕事の作品からより安価な工業製品が選ばれてきた歴史からすると、手仕事の創作性の高い人間中心のコンテンツの市場シェアが低下していき、生成AI出力物がまん延する可能性がある。プラットフォーマーが強い市場環境では、生成AIシステムに学習を許諾することへの対価が無料か低額であるから、クリエーターは仕事として創作を続けることができず、低品質の生成AI出力物が市場を席巻していく。
 100円ショップや使い捨てのファーストファッションが手仕事を駆逐したように、クリエーターの人生が成り立たなくなり、クリエーターとしての生き方が絶滅していく。

AとBのどちらが先か
 Aが進展すると、データを支配する主体が分散化(多数の人たちにバラバラに帰属)し、ロングテールで多様な市場が出現し、維持されるから、Bのクリエーターの絶滅には至らず、クリエーターがクリエーターとして生き続けることができる。日本のコンテンツの輸出市場も失われない。

 逆に、Aの進展が遅いと、プラットフォーマーの競争上の力(優越的地位)が継続し、Bが進展する速度が今以上に速くなる。データは分散化せず、クリエーターは創作から得られる機会や対価を失い続ける。

 生成AIシステムは、Webアプリの電卓化Aと、クリエーターの絶滅Bの消滅のどちらを先に到来させるのか。これは、生成AIによる規制ではなく、学習の対価市場での公正な取引が行われるようになるかどうかで決まるだろう。競争法の問題が大変に大きい。

AとBの力関係をどう解決すべきか。
 Webアプリが電卓化しなくとも、競争法の当局による施策によって事実上の独占をさせないようにすることも考えられる。しかし、例えばGoogleからブラウザ事業を取り除いたとして、プラットフォーマーとクリエーターが体等な立場で交渉し、学習の対価を決めていくことができるようになるだろうか?
 巨大企業の垂直関係を分割させることは、もちろん必要な施策と思われるが、おそらくはそれだけでは足りない。
 生成AIへの規制としては、生成AIを利用したことの明記や、生成AI出力物の明記が、景況法や食品表示のレベルで必要だが、具体化に時間を要しており、もはや生物や美術や歴史の偽画像が大量にばらまかれるに至ってしまった。透明性確保など、規制は規制で必要である。

 しかし、規制だけで解決できるものではない。誰もがWebアプリを作れるようにすることで、プラットフォーマーの健全な競争者を増やし、市場の力を借りてデータを分散化する方が、自由民主主義社会の価値観による、自由な経済の機能による解決を得やすい。

 クリエイティブなコンテンツや創作者の絶滅を回避するには、生成AIによる学習の許諾や対価について、法制度のみならず、または、法制度ではなく、市場に委ねるべきである。まず、無断の学習ができないようにし、学習させても良い人は、プラットフォーマーとの対等な立場での交渉により、生成AIの出力量に比例した学習の対価を得るようにすべきである。オークションにしても良いだろう。生成AIシステムへの学習の対価市場を機能させるべきである。

 日本の著作権法第30条の4は、一定範囲、無許諾での学習を認めてしまったことで、生成AIシステムの学習に関する対価の市場の成立を遅らせてしまった。健全な学習の対価市場の成立こそが生成AIの人類社会への貢献をもたらすであろうに、残念なことである。生成AIとコンテンツのような、人類の歴史としても新しい現象について、政府が最適解を立案することはできず、市場に委ねるべきである。その上で、公正な取引がなされるような市場環境を確保するために、競争法を適用するのが良い。ある一面では、個人情報保護法や知的財産法も役立っていくだろう。

 この考え方は実証的でなさすぎるように思われるだろうが、比較的、私は、市場でなにが起きているかを観察しており、また、ありがたいことに、「生成AIの出力を使ったことで炎上した事例はなんだっけ」と短文SNSで緩く募集すると、多くの人からコメントが届く立場にある。
 本稿は、実証的ではないとしても、市場で実際に生じている事実群との矛盾は発見できない。

以下、公正取引委員会にお送りした意見の文章をそのまま公開し、誤記については[]として明記した

意見の内容

意見を述べる機会を賜り、誠にありがとうございます。
具体的な情報源を明記することができませんでしたが、必要な項目について情報源等を補足したく考えております。

第2の1⑵ データ

学習データ[設問]1. 第2の1⑵に関して事実関係など更なる補足はありますか。

≪回答≫
①学習データ
 Adobe社は、Adobe Stockのコンテンツ提供者に対して、生成AIの学習の対価を一方的に定めました。OpenAI、GoogleやMicrosoftは、無許諾で一方的に、強制的に学習しています。X社は、生成AI[へ]の参入にともない、ユーザーの投稿内容の学習についてX社の立場をより強めるように一方的に規約を変更しました。
 生成AIのデータ学習は、その前提として、巨大な力をもつプラットフォーマーによる学習がなされており、学習の許諾や対価に関する市場を生成させず、機能させないようにしていることに、ご配慮ください。
 また、LAION-5bデータセットやBook3データセットなど、複数の生成AI事業者が同一のデータセットを使用することで学習市場の成立を妨げるという水平的に問題のある行為も観察されます。

 そして、国内の事業者や生成AIユーザーは、学習データの取得に慎重ではなく、イラストや写真のXやイラスト販売サイトなどから繰り返しダウンロードし、作家固有のLORAを生成し、著者の意向に沿わないアダルト作品などを生成して販売しています。慎重どころではありません。慎重な事業者も存在するのかも知れませんが、日本でも慎重でない事業者が多く、不公平さのある市場環境となっています。

学習データ[設問]4. 今後、重要な学習データは、特定の事業者に偏在する状況が生じ得ると考えますか。仮にそうであれば、生成AIモデルの開発等における競争にどのような影響を与えると考えますか。

無料でサービスを提供しつつ、データを支配しようとするプラットフォーマーに注意してください。生成AIシステムは、「データの支配が競争上の優位性や力の源泉となる」(デビッド・ガーバー[著]・白石忠志[訳]『競争法ガイド』第12章「競争の変容と競争法の変化」第182頁)、という競争法の変化の中心にあります。
 生成AIの競争法上の問題の多くは、プラットフォーマー規制が充分になされることで解決します。従って、生成AIが登場する以前に、プラットフォーマーに対して競争法が充分に機能していたかどうかを振り返り、足りないのであれば、規制を強める必要があります。プラットフォーマーが様々な事業者にとって対話できる程度に分割されると、生成AIに関する競争法上の問題の多くは一体的に解決すると見込まれます。

第2の2 モデルレイヤー
モデルレイヤー[設問]1. 第2の2に関して事実関係など更なる補足はありますか。


第1 クリエーターによる生成AIの利用が進んでいない理由等
 生成AIによる画像生成技術は、クリエーターやアーティストによる活用は進展しておりません。逆に、クリエイティブな分野に関して人間の手仕事を求めるユーザーのニーズに応えるために、生成AI画像は生成AI使用であることの明記を、罰則つきで義務付け、生成AI利用品の詐欺的な出品をやめて欲しいと考えています。

 生成AI画像の利用は、市場において、コンテンツのユーザーに受け入れられていません。

 炎上事例をご報告できるよう整理しているのですが、間に合いませんでした。Web系のメディアやお詫び文書を、自治体名や社名などで検索できるところを中心に、名称を列挙します。

 企業:パルコ、伊藤園、ワコム、しまむら、スシロー、トイザらス、Gemini(オリンピック)、Puma、au、マクドナルド、[注このnote記事で追記: ローソン]

 地方自治体等: 海上保安庁、島根県松江市、三重県観光、福岡県の観光系(つながり応援)

 生物系・風景系の生成AI画像: トコジラミ、恐竜、廃墟写真ブログ

 その他:クラシックコンサートのチラシ(池袋アニメーションフィルハーモニー)、声優朗読劇、ポケモンのイラストコンテスト、全国アート甲子園、武蔵野美術大学、「原神」のイラストコンテスト、映画レビューサービス(Filmarks)、三重県女児虐待死事件(AI判定サービスの利用)

この問いかけに対して情報を寄せてくださったみなさまに感謝します。
https://bsky.app/profile/kvaluation.bsky.social/post/3lb4ud3hktc2i

第2 生成AI利用品の大量公開による悪影響
 生成AIによる生成画像が大量に公開され、販売されることで、イラストなどの販売や制作契約に不公平な悪影響があります。

 低品質な生成画像が大量に存在すると、市場が機能しなくなり、生成AI以前の状態と比較して、アクセス数が減少することが想定されます。

 また、自分の作風がディープフェイクに悪用されると、昔からのファンの信頼を損なうことになります。その釈明に時間やコストをとられるのは、生成AIユーザーの人間に対するフリーラードであり、公正な市場環境が失われています。

 生成AI画像と明記しないまま販売している生成AIユーザーが大量出品することで、手仕事のイラストを欲しいユーザーとの取引が妨害されています。ストック市場などは、生成AI品を使いたくないユーザーからすると、真偽の判別も難しくなり、ストック市場自体を避ける傾向となっています。

モデルレイヤー[設問]3. 今後、生成AIモデルの開発における競争軸(軽量化又は大規模化、分野特化又は汎用化など)はどのようになると考えますか(その理由)。

 コンテンツについては、学習の対価市場により解決をすべきです。国家やその法制度が過度に介入すべきでなく、まずは公正な取引ができる市場による解決をうながすべきです。
 百科事典等を有償で学習できれば、ハルシネーション等の問題は日常利用の範囲については解決していきます。しかし、日本では著作権法30条の4がこのような学習の対価市場の成立を妨げています。ぜひとも、競争当局は、市場をよく観察していただき、国際動向をふまえたうえで、学習の対価市場が機能するように、既存の法制度に対するものを含め、施策をお願いしたいです。
 独占禁止法と特許法の問題についても、議論が進展し、国際的にも矛盾のない一定の解釈が浸透するようになりました。その経緯に感謝しております。

モデルレイヤー[設問]4. 生成AIモデル開発における公正かつ自由な競争を維持・促進していく上で、課題は何ですか。

 生成AIのハルシネーションは、生成AI技術の原理的な問題から解決が不可能であることを、実際に利用をしてみることで、体感してもらいたいです。生成AIは確率的に出現しうる平均値を出力する機能しかありません。最小自乗法を元のデータの範囲外に提供[※適用の誤記]してはいけないように、生成AIは学習したデータの外側について安全に利用することは原理的に不可能です。
 国家は、そのような技術的な検証を繰り返し正確に把握しなければ、公正かつ自由な競争がなされているか否かを正確に評価することができません。

 また、生成AIモデル開発に関しても「データの支配が競争上の優位性や力の源泉となる」(デビッド・ガーバー[著]・白石忠志[訳]『競争法ガイド』第12章「競争の変容と競争法の変化」第182頁)、という競争法の変化が影響しており、競争法が実現すべき正義や理想は何かを常に問うことが求められる、21世紀最大の課題と思われます。

第2の4 その他の各レイヤーにまたがる事項や特性
その他の各レイヤー[設問]3. 生成AIモデル開発事業者又は生成AIプロダクト開発事業者にとって、開発環境の移行・切替え等に困難はありますか。困難があるとすれば、その理由は何ですか。また、困難はないとすれば、その理由は何ですか。

 生成AIの利用により、プログラムのコーディングやテストの自動化が進展し、多くの人が簡単にWebサービスを開発し運用できるようになれば、プラットフォーマーの独占力が弱まり、データも分散していきます。
 それまで、データを創作できる人たちのビジネスを守ることができれば、現在の文化を維持できる可能性が残り、逆に、データを創作できる人たちのスキルが失われれば、新しいものが生まれない世界になり得ます。
 モデルにせよプロダクトにせよ、品質を決定付けるのはデータになりつつあり、データの創作者をより重視すべきです。

その他の各レイヤー[設問]4. オープンソース/クローズドソースの利用について、生成AIモデル市場及び生成AIプロダクト市場の公正かつ自由な競争の維持・促進の観点からどのように考えるべきですか。

 オープンソースは理想的ですが、stable diffusionなどが児童ポルノの生成などに悪用されている現状への配慮もお願いします。
 プログラムのコーディングの機能を担う生成AIシステム等は、国家が何ら介入しなくとも、オープンソース化が進展すると見込まれます。しかし、安全保障と関連しますので、同盟国からの要請等があることも考えられ、柔軟な対応が求められます。
 また、欧州の著作権法は研究目的の場合に無許諾で学習しやすいことから、研究目的として学習しつつ、営利利用する事業者が出現していることにも、競争法の観点からご配慮をお願いします。

その他の各レイヤー[設問]5.  生成AI関連市場(インフラストラクチャー、生成AIモデル、生成AIプロダクト)における開発事業者間のパートナーシップについて、生成AI関連市場の公正かつ自由な競争の維持・促進の観点からどのように考えるべきですか。

(1) OpenAIとMicrosoftのパートナーシップは、学習の可否や対価を公正な取引により特定していく「対価市場」の成立を妨げました。OpenAIは非営利団体の管理下として活動し、研究であるとしてWeb上のコンテンツを一方的に学習しました。EUでは非営利の研究のための学習は著作権侵害になりません。しかし、そのような学習が成果を生み出すと、それをMicrosoftが使ったのです。Microsoftは、非営利団体が支配するOpenAIを経由することで、データ保有者に対価を支払わずに、そのコンテンツの成果を日々利用して利益を上げています。
 パートナーシップについては、研究と商用利用、さらにビックテックによる使用との関係に注目し、ビックテックへの規制をお願いします。例えば、研究や非営利であることによる著作権の例外を適用しないことと同様の義務付けをすべきです。

(2) パートナーシップは、責任の所在を不明確にしつつ、独占による利益を分け合うことができる垂直関係であることに注目してください。
 例えば、生成AIユーザーがディープフェイクとなる生成AI画像を出力し、SNSで拡散したとします。その生成AIシステムがディープフェイクを出力しなければ良かったのであり、SNSが掲載を拒否するかすぐに削除すれば良かったのです。しかし、全ての関係者が何もせず、ディープフェイクがただ拡散し、広告収入が拡大していきます。この広告収入は、SNSのプラットフォーマーが総取りするか、一部はアップした生成AIユーザーに支払われます。学習された元画像のクリエーターには1円も入らないどころか、ディープフェイクが自分の作風の場合、無関係であることの告知にコストや時間がかかり、ブランド価値が毀損されます。
 パートナーシップについては、生成AI出力物の流通過程やバリューチェーン全体を観察し、生成AIシステムの事業者のみならず、SNSや広告の事業者に対する規制もご検討ください。

第4 おわりに(公正取引委員会の今後の対応)
おわりに[設問]1. これまで本ディスカッションペーパーが触れていない事項で、生成AI関連市場(インフラストラクチャー、生成AIモデル、生成AIプロダクト)の現状などについて公正取引委員会として注視すべきことはありますか。

(1) クリエーター(データ保有者)として、学習データについて、対等な立場での交渉により契約をしようとしても、Microsoft (OpenAI)、Adobe、Google、Xなどプラットフォーマー(特定の事業者)が強固な地位を構築しており、一方的な規定や結論を押し付けられてしまっています。
 つまり、プラットフォーマーが強すぎるため、クリエーター、声優や俳優、新聞社、出版社等は、学習を禁止したり正当な対価を得るなどの公正な交渉や取引ができません。

 生成AI以前に、プラットフォーマーがデータ保有者との誠実な交渉の場にでてくる程度には、米司法省によるAppleやGoogleへの提訴や、EUのデジタル市場法のような競争法の実効性を確保する規制や取り組みを、日本においてもお願いします。

(2) プラットフォーマーのサービスのユーザーが問題を起こすことに対して、プラットフォーマーが迅速に対応しないことで公正な取引がなされなくなることがあります。ユーザーの問題なのかプラットフォーマーの問題なのかわからず、区別できません。このため、生成AIについても、事業者とユーザーを明確に切り分けることなく、現状の事実(問題)を把握すべきです。

(3) 創作性の高い分野で、生成AI出力は社会や市場で受け入れられておらず、生成AIの発展は見込まれていません。クリエーターや出版社等の大多数は創作性の高い分野での生成AIの利用に反対しています。これは創作物の市場のユーザーの声を反映した結論です。似たような表現であっても、生成AIと明記すると売れません。手仕事や人間の本物の声が好まれ続けています。このような市場の事実について、引き続きの調査や注視をおねがいします。

おわりに[設問]3. そのほか、生成AIに関して御意見等何かございましたら、公正取引委員会に情報提供をお願いします。

「データの支配が競争上の優位性や力の源泉となる」(デビッド・ガーバー[著]・白石忠志[訳]『競争法ガイド』第12章「競争の変容と競争法の変化」第182頁)、という競争法の変化での規制には、いくつかの入り口があります。

第1はプライバシーと自動決定です。データや生成AIの利用により人間性に直接関係する事項について、自動決定すべきでないという欧州憲章やGDPRによる要請です。この点、日本は競争法としてとらえることも考えられます。

第2は児童性的虐待画像CSAMです。データの支配者は、このような人権の問題について迅速な対応をしておらず、生成AIモデル事業者も、CSAMを含まない学習をすることはできないという立場であり、何らかの規制がなされることが想定されます。現在では、生成AIユーザーの出力がアップされるサイトに対してクレジットカード決済が提供されないという事象を生み出しています。究極的には、プラットフォーマーの対応姿勢の問題と整理でき、その場合、競争法の課題となります。

第3は著作権です。EUやカリフォルニアで生成AIの学習についての同意や、拒絶の意思表示が議論されています。著作権法や不正競争防止法に委ねられる部分を委ねつつ、生成AIシステムのための学習の対価市場が正常に機能するような、競争法上の洞察に基づく施策が必要です。

現状、プライバシー、CSAM等社会的な要請、著作権というそれぞれの切り口が錯綜しておりますが、根源的な中心はプラットフォーマー規制であり、自由市場のための理想像を示し、その理想に向けたリーダーシップを担うのは公正取引委員会だろうと、理解しております。

いいなと思ったら応援しよう!