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担保法制中間試案の事業担保権と特許権の関係など。

法務省民事局参事官室殿は、任意の意見募集で2ヶ月間の期間設定と、すばらしい。担保法制の見直しに関する中間試案の補足説明も丁寧で要点が絞られている。

2023/3/20までだったが、未明の2023/3/21 1:11にメールにて意見提出させていただいたため、正式な意見にはならなそうだが、めげずに提出した。

特許権など産業財産権を資産としてみたい知財の人たちは、担保というまさに固定資産を扱うこの法制度に対して、多様な意見を提出してくれたことだろう。補足説明等には特許権や特許を受ける権利への言及もある。いや、もちろん、知財関係者はほぼだれも提出していないだろうとは思うが。金融庁の事業成長担保権の方は特許庁の方がオブザーバーで参加していらっしゃるようで心強い。

そして、久しぶりに担保法制や執行の文献を書棚から手にしてみたところ、道垣内弘人『担保物権法』は手元は第2版で、未入手の最新は第4版。東京地方裁判所民事執行センター実務研究会編著だった『民事執行の実務 債権執行編 下』は手元が第2版で、未入手の最新は第5版だった。
意見を提出するには不勉強すぎるが、しかし、特許法との接続について参事官室に私なりに情報をお届けしたかった。

金子康則著『2023年からのバーゼルIIIQ&A : RWAの新しい測定手法』(中央経済社,2020)はたまたま別件で浅く読んでいた。

未公表の発明に係る物が差押禁止財産であることを書き忘れてしまった。倒産法制と出願手続の中止中断の関係も整理できなかった。無念。

心象風景は写真の通りで、遠くもぼやけていれば、近くも焦点があわず、しかし、美しくなりそうなつぼみが視野の中心に入っている。そういう、担保法制と特許権の結合性のつぼみ。実はいま、100年の一度の機会ではある。

提出した意見は次の通りです。

担保法制の見直しに関する中間試案に関する意見

法務省民事局参事官室 御中

意見を提出する機会を賜りありがとうございます。

氏名 鈴木健治
性別 男
職業 経営コンサルタント・弁理士

参考文献 中山[2019] 中山信弘『特許法』(第4版、2019、弘文堂)

第27について

 特許権は、動産及び債権以外の財産権であり、現状、質権の目的とできます(特許法95条)。登録が効力発生要件です(特許法98条1項3号、その理由は移転について中山[2019]第528頁)。
 「特許権を目的とした質権は権利質であり、実質は抵当権に似ている」(上掲中山第530頁)。旧特許法(大正十年法)から新法(昭和三十四年法)への改正時の工業所有権審議会答申では、質権を抵当権と改めると述べられていたが、立法の過程で競売に関して問題が指摘され、旧法と同じ質権という語が用いられた経緯がある(上掲中山第530頁注2)。
 例えば、特許法95条は、特許権を目的として質権を設定したときは、質権者は、契約で別段の定をした場合を除き、当該特許発明の実施をすることができない、と規定しており、担保の目的物を使用収益(特許発明の実施)できないのに質権という、動産質権から類推できる内容とはずいぶんと異なります。

 もしも、第27にて引き続き検討をいただけるのであれば、特許法の改正で質権を抵当権と改める可能性もご検討ください。
 抵当権とすることで、例えば「抵当権消滅請求」などの民法改正に際して特許法の見直しがなされやすくなり、ありがたいです。
 また、動産質権では第二質権をイメージしずらいため、特許権でも第二質権は使われないどころか話題にもなりませんが、特許権の経済的価値がその製品市場の拡大によって高まるなら、その特許権の第二質権も回収可能性を高めます。用語として、特許権への第二抵当となった方が、理解を広げるコストが低いと思われます。

第23以下の事業担保権と特許権の共有との関係について

 特許権が共有の場合、他の共有者の同意なしに質権を設定し、また共有持分を譲渡することができません(特許法第73条1項、理由は中山[2019]第328頁以下)。
 事業担保権を実行しても、設定者が有する特許権の持分は、他の共有者の同意がなければ買受人に移転しません。同意がなければ、信託設定で受託者への移転もなされないと思われます。
 特許権の共有持分の民事執行では、他の共有者の同意なく差押えはできても、譲渡はできないと考えられています(『民事執行の実務 債権執行編
第2版』(2007, きんざい)182頁)。
 第23の3(1)に「全ての財産に及ぶ」とありますが、他の法令で譲渡に条件がある財産権については、及ばない可能性もあることに、ご配慮頂きたく、お願い申し上げます。

第24の4について

 事業担保権設定者は、株式会社であれば株式会社という法人と理解しました。株式会社の経営成績は利益であり、そのためにリスク管理します。事故を起こしそうな古い自動車を処分するという経営判断が合理的かどうかは、自動車の処分価格と使い続けた際の事故がもたらす損害との対比で判断できますが、経営者に裁量性を認めてプロセス・チェックをする考え方もあります。
 基本的に、金融機関ではなく株式会社に処分権限を認める方向に賛成です。特許権の場合にどうなるかの論点をお伝えするために 条文の用語で特許制度を説明します。

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 産業上利用することができる一定の発明をした者は、特許を受けることができますが(特許法第29条柱書)、特許を受けようとする者は、発明を説明した明細書や図面を添付した願書を特許庁長官に提出しなければなりません(特許法第36条1項1号)。この特許出願の後、出願審査の請求があると(特許法第48条の2)、特許庁長官は審査官に特許出願を審査させなければなりません(特許法第47条)。
 審査官は、一定の特許要件の審査をして、満たさない場合には特許出願を拒絶査定しますが(特許法第49条)、その前に、審査官は、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければなりません(特許法第50条)。
 特許出願人は、拒絶理由に対して意見を述べる他、権利範囲を確定する「特許請求の範囲」を補正することができます(特許法17条の2)。
 審査官は、特許出願について拒絶の理由を発見しないときは、特許をすべき旨の査定をしなければなりません(特許法51条)。第一年から第三年までの特許料は、特許をすべき旨の査定があつた日から三十日以内に納付しなければならず、特許料が納付されると、特許原簿(特許法第27条)に登録され(特許法66条2項)ます。この設定登録があると、明細書や特許請求の範囲は特許公報に掲載されます(特許法66条第2項)。
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 株式会社は、新たな特許出願をすることで、現金を減らすことがあります。特許出願をしたものの、その製品市場が立ち上がらず、特許権を取得しても意味が無いと判断して出願審査の請求をしないこともあります。拒絶理由が通知された際に、権利範囲が想定より狭くなることを理由に意見書や補正書を提出せず、拒絶査定を受け入れることもあります。しかし、そのように捨ててしまった特許出願の技術が、実は後日、市場の変化で急に注目される技術になり、大きく稼ぐ可能性があったことが明らかにあることもあります。将来予測はとても難しいですが、少なくとも、金融機関よりも事業をする株式会社の方が、判断をするための知識や情報を有しているため、株式会社に処分権限を持たせることが適切と考えます。
 もちろん、経営者や担当者の詐害行為を取り消したり、担保価値を維持する義務(第3の5)を課すことは適切と考えます。
 [1] 株式会社が利益を得るための合理的な行動であったか、
 [2] 判断の手順や基準が担保権設定前から理由無く変わっておらず、内部統制されていて適正な手続きかどうか、の2点が実質的に吟味されるような規律を希望します。

第24の2(2)登録制度がある個別財産権

[1] 不動産

 担保制度ですので、バーゼル規制との関係性が気になります。債権(融資)の価値(資産性)に信用リスクの程度でウェイト(重み付け)をつける際に、不動産担保融資は、比較的有利に扱われます。詳細は金融のリスク管理の実務家にお問い合わせいただきたいのですが、不動産担保の方が、他の担保よりも、同額の融資の際に必要とする資本金(リスクを配賦する資本、リスク資本、バッファー)を少なくすることができます。
 おそらく、事業担保権は、信用リスクが高いです。企業への格付が採用されるとすると、主に想定している中小企業の信用リスクは高いです。一方、同一の土地の価値は、所有者が中小企業であっても大企業であっても、変わりません。このため、不動産の担保としての有用性は高いです。
 仮に、個別財産についての登記・登録なく、事業担保権の商業登記簿への登記のみで、個別財産権についても第三者対抗を得ることができるとしても、その事業担保権は不動産担保を徴求しているとバーゼル規制による自己資本比率の算出で認められないならば、事業担保権の魅力は半減します。
 逆に、事業担保権の商業登記のみで個別の登記・登録に優先できるのであれば、その後の不動産担保の価値は半減します。日本の金融について、事業担保による融資総額と、不動産担保による融資総額のどちらに経済的影響力があるかという現実を考慮しつつ、優先劣後構造を設計すべきと思料します。
 不動産担保のリスク・ウェイトを現状より悪化させるような法改正は望ましくありません。同一の不動産について、事業担保経由で資金調達し、別途個別登記で資金調達できてしまうと、二重取りであり、不動産担保の信頼性や価値が低下します。その場合に日本の信用リスク管理の計算が複雑化し、ひいては国際的な信用を毀損してしまうことを懸念します。

[2] 産業財産権

 例えば特許権は、譲渡(特定承継)については登録が効力発生要件です(特許法第98条1項1号)。事業担保権の商業登記簿への登記で、特許権の登録と同様の効果を発生させるには、特許法の改正が必要と思われます。
 実務的に、特許庁は出願人・権利者を特許庁が付番する識別番号で管理しており、国税局や法務省の法人番号とは異なるため、個別の特許権の特許権者について自動的に商業登記された事実を登録するなどが難しいと思われます。
 特許庁には、日本国内に住所を有しない海外の個人法人からも多数の手続きがなされており、現地語がカタカナになる際の表現は収束しておらず、同一人の名称や住所が異なるカタカナ表記であったり、同一のカタカナ表記が異なる主体であったりと、特許権者の名寄せは不可能に近く、事業担保権の商業登記簿への登記のみで対応する個別の登録を事後的に特定すること大変に困難で、登録制度の機能低下が懸念されてしまいます。
 事業担保権を登記していただきつつ、担保権実行時に移転したい産業財産権については、個別に特許原簿に登録をしていただく仕組みが望まれます。

第25

事業担保権の実行について、根拠の薄いアイデアが1つあります。
実行された際に、対象の財産を有する株式会社が会社分割により新設されたとして、その新設された新会社が買受人に一般承継されたとみなすことで、許認可等やライセンス契約の地位等が承継されたとできないでしょうか。単純化のために第23の2(2)では設定者を株式会社に限定して考えます。

特許権等の共有持分の譲渡には他の共有者の同意が必要ですが、会社分割による承継については、特許庁では、現状、同意書不要としているようでした。
https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/iten/tetsuzuki_09.html

新会社が買受人に承継されるのがなぜ一般承継なのかは、論理的な理由はありません。特許権等のライセンス契約の地位も承継しやすく、従業員の転籍もスムーズになるため、一般承継と扱えたらスムーズだなというアイデアです。
例えばデット・エクイティ・スワップがなされて、担保権の実行により、新会社のエクイティを買受人が取得すると整理するなど、なにか整理はできそうにも思われます。

1時間すこし遅れてしまいました。乱文で申し訳ありません。信託法学会で道垣内先生のお話を聞きながら、この意見を書かなければと思いつつ、先送りとなっていて、基本的な文献も読み込めていない状態で、恐縮です。

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