見出し画像

AI事業者ガイドライン案への意見

意見1 創作者の尊厳

第2部 A基本理念 1 人間の尊厳が尊重される社会(Dignity)
(1) 人間の尊厳が尊重される社会(Dignity)(p.11)
人間の尊厳が尊重される社会では、創作者の尊厳が尊重され、AI事業者ガイドラインに創作者(データ提供者)が重要な関係者として取り扱われる筈である。著作権者であるデータ提供者やWebコンテンツの創作者の尊厳への配慮がないまま、人間の尊厳が尊重される社会であることを基本理念に掲げることはできず、掲げるのであれば、AIが生み出せない新しい科学的知見、技術やコンテンツを生み出す人たちへの尊厳をガイドライン中で具体的に記述すべきである。
たとえば「D-2)i. 適切なデータの学習」(p.27)の記載にて、データ提供者等である著作権者の尊厳への配慮がわかる記述へと更新すべきである。

意見2 創作性の尊重

「AI 事業者ガイドライン案」本編 第2部 B原則 C. 共通の指針 1) 人間中心(p.13)
意見 人間中心の最初に、人間の創作性の尊重を掲げるべきである。
理由 著作物を創作し、発見や発明をする人間の能力を尊重することが、人間中心である。AIを利活用して生産性を高めるのも人間であり、AIがあるだけでは生産性は高まらない。人的資本の役割に注目すべきである(人的資本可視化指針参照)。

意見 創作性の尊重として、AI開発者はデータの学習に対して著作権者に対価を支払うことが原則であり、適切なデータの学習として(別添 3. D-2 i.,p.71)、著作権者による承諾、学習の対価額、購入時の契約内容の管理をすべきである。
理由 AIシステムの質は学習するデータの質に依存しており、AIシステムサービスの価値の源泉は学習データの表現や内容の創作性にあるから、対価が必要である。

意見3 ステークホルダー

「AI 事業者ガイドライン案」本編 第2部 B原則 C. 共通の指針 6) 透明性 (p.17)
1 検証可能性の確保、4 関連するステークホルダーへの説明可能性・解釈可能性の向上
意見 学習されたコンテンツの提供者である著作権者、機械学習やデータ解析の研究者を重要なステークホルダーとして明記すべきである。
意見 生成AI出力の購入者や、生成AI出力を含む広告を見せられる人たちや、さらに広くインターネット等での情報空間を重要なステークホルダーとして明記すべきである(参考 別添 1.第 1 部関連 A. AI 事業者のパターンp.10図5)。
理由 AIシステムの動作に必須な存在や、AIシステムの動作に巻き込まれる人をステークホルダーとして明記すべきである。生成AIのプレーヤーは、購入者、広告対象者、情報空間などへの責任がある。

意見4 システミックリスクと著作権保護

「AI 事業者ガイドライン案」本編 第2部 B原則 C. 共通の指針 1) 人間中心 3 偽情報等への対策(p.14)
意見 AI が生成した偽情報等が社会を不安定化・混乱させるリスクを「システミックリスク」ととらるべきである。
意見 EU AI法と同様に、AI開発者等(AIモデル提供者)に対して、事業者としての義務的な登録、学習データの開示(EU AI Act 52c条1項(d) )、学習に著作権者の許諾を必要とし(前文60i(1))、オプトアウトも強化(同52c条1項(c)することで、システミックリスクの低減をはかるべきである。
理由 著作権者やそのファンが侵害品を見つけ排除しようとする自主的で民間の活動が、偽情報を減らし、システミックリスクを軽減する基盤となる。

意見5 著作権侵害の損害額の認知度向上:「販売することができた物」

本編 第2部 B原則 C. 共通の指針 1) 人間中心 3 偽情報等への対策(p.14)
意見 システミックリスク低減策の一環として、著作権侵害の損害賠償額の計算例を周知すべきである。特に、侵害品は1枚のイラストだが、著作権者の販売が減少したのはイラスト集の書籍である場合など、著作権法114条1項1号「著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物」(イラスト集)に対して侵害品が部分(1枚のイラスト)の仮想事例も、文化庁、知財法学者や弁護士等に講演や解説を依頼し、理解を深め、周知すべきである。
理由 表示回数の増加による収入等の増加を図るユーザーは、災害や戦争など注目される主題で偽画像を生成し、有名な著作権の侵害画像も生成する。著作権侵害者の生成AI利用を抑止することで、他の偽画像の発生も抑止できる。

意見6 著作権侵害の損害額の認知度向上:海賊版

意見 著作権侵害の損害額の算定方法を周知し、著作権侵害となる生成AI出力の公開や販売の多くが、割に合わないことを周知し、追加学習による生成AI利用も抑止することで、偽画像の増加等のシステミックリスク(本編p.14)を低減すべき。
理由 令和5年著作権法改正で、海賊版対策等のため損害賠償額の算定方法が見直され、相当利用料率(114条1項2号、3項)にいわゆる侵害プレミアム(114条5項)が加算される。
生成AIの出力に学習元データの全体又は一部がそのまま残っている場合があり、創作的表現が共通する場合には侵害となる。文化庁素案p.6にも「当該クリエイターの作風を共通して有している場合については、これにとどまらず、表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべき」という。

意見7 偽情報と著作権侵害

本編 第2部 B原則 C. 共通の指針 1) 人間中心 3 偽情報等への対策(p.14)
意見 偽情報の拡散について、差止請求権や刑事罰もある著作権侵害として抑止すべきである。この場合、偽情報であるが故に、学習データとなったイラストや写真の全体ではなく一部が再生されているだろう。この創作的表現の部分的再生が、偽画像の本物らしさを生み出してしまう。このような学習データの表現の一部が、生成AI出力に含まれている場合の著作財産権の侵害についての考え方を、例えば税関職員や警察等にも判りやすく整理、著作権侵害による拡散抑止を図るべきである。
理由 ガイドラインによる協力要請は、偽情報の拡散を禁止する実効性がない。AIに関する規制法の新法が望ましいが、ガイドラインのままでも、偽情報対策、システミックリスク対策として著作権法を活用することができる。

意見8 情報空間への責任

別添 1.第 1 部関連 B.AI による便益/リスクp.12
意見 「販売促進」「集客」での利用による情報空間への悪影響について、学術的なアセスメントをすべきである。歴史のねつ造、存在しない生物のリアルな画像、博物館のチラシで学術的に正しくない表現(恐竜の歯の数がおかしいなど)のイラストの利用など、外来生物の混入以上に不可逆的な変化が、情報空間に生じている。
少なくとも、機械可読型の電子透かしについて、高度なAIシステム事業者のみならず、幅広く義務付けるべきである。さらに、AIシステムについては、事後的なオプトアウトが技術的に難しいため、当面、人間が読めば判る表示も参照すべきである。 つまり、事前許諾ないコンテンツの利用を控えるか、事前許諾のないコンテンツを学習していればその旨AIシステム利用者や社会一般に開示すべきである。

意見9 公正競争確保

第2部 B原則 C. 共通の指針 9) 公正競争確保(p.20)
意見 公正な競争環境の確保は重要であるため、個別の法律の解釈に依存せず、公正な競争環境の確保それ自体を目指し、例えば米国FTCのような活動も求められる。
理由 各法律は、情報解析によって学習したコンテンツと同じ種類のコンテンツが出力されるような生成AIを想定していない。例えば、著作権法30条の4ただし書きの「著作権者の利益」についても条文の文言からイメージされるような保護はなされておらず、学習されたコンテンツの著作権者と、生成AIユーザーとの競争が不公正となっている。本ガイドラインで公正競争の確保に言及があることは大変に素晴らしく、関係省庁への働きかけ等が望まれる。

意見10 高度なAIシステムの対象

D. 高度な AI システムに関係する事業者に共通の指針 IX) 世界の最大の課題の優先(p.24)
意見 「世界の最大の課題、特に気候危機、世界保健、教育等(ただしこれらに限定されない)に対処するため、高度な AI システムの開発を優先する」という考え方に賛成します。
 生成AIはエネルギー使用量も大きく、環境の負荷があります(別添p.15)。
 イラストや写真のような出力に使うのではなく、世界の最大の課題解決で実績を出して欲しいです。
理由 偽画像には、ポルノや、クリエーター(権利者)の既存の作品そっくりのイラストや、存在しない生物の画像や、災害や戦争の報道写真であるかのように見せかける画像などがあります。このようなことに電力を使うのではなく、世界に役立つことをして欲しいです。

意見11 知的財産の保等

D. 高度な AI システムに関係する事業者に共通の指針 XI) 適切なデータインプット対策を実施し、個人データ及び知的財産を保護する(p.24)
意見 知的財産の保護と利用について、実効性のあるガイドを定めてください。著作権法のみで保護されるものではなく、不正競争防止法や、民法の不法行為など、文化庁では議論しきれない法域があることにご配慮ください。
意見 適切なデータインプット対策など、広島プロセス国際行動規範を別添から本編に移すべきである。広島AIシステムの議長国として、この内容を中心として推進すべきである。
可能であれば、条約とすることで、AIに関する広島AIプロセスやそれを推進した当時の議長国である日本の貢献を歴史的な成果とするべきである。

意見12 AI 提供者の損害賠償責任

第4部 AI 提供者に関する事項(p.32)
意見 キャラクター名など著作物を指定する用語をいれていないのに、生成AIモデルが著作権で保護された内容を出力する場合、AI提供者に著作権侵害の損害賠償責任があると解される。損害賠償額が巨額になる可能性があるため、AI提供者の登録制度及び資本金規制の導入が望ましい。
理由 著作権の「侵害し得」から目をそらすこと無く、法律から予想できる未来を想定し、必要な対策を早めに行うことで、秩序を保つべきである。

意見13 AI利用者の損害賠償責任

第5部 AI 利用者に関する事項(p.35)
意見 特定の著作権者の作品と共通性のある出力を目指したプロンプトで、著作権で保護された内容を出力した場合、AI利用者に著作権侵害の損害賠償責任があると解される。公開後、販売された数や、ダウンロードされた数、インプレッション数に応じた広告収入がある場合にはそれらの数に応じて損害賠償額が増加するため、透明性要件として、記録しておくガイドラインとしておくことが望まれる。
理由 AI利用者の損害賠償責任がどのように生じ、著作権侵害の損害額がどのように計算されるかのガイドラインは、生成AI利用による偽画像や著作権侵害画像の安易な生成・拡散を実効性高く抑止することがでる。

意見14 AI利用者へのEU法の適用可能性

意見 EUのAI ActはEUからアクセスできるWebサービスに生成AIによる出力画像をアップロードし、または販売するdeployer(デプロイヤー,配備者)に対しても、各種の義務を課し、EU著作権指令の遵守も求めている。日本国内の生成AIユーザーに対して、日本法の公序良俗に反しない範囲で、EUの規律が適用される可能性がある。これら海外法の適用可能性や内容について、可能な範囲で、政府による情報収集と周知がなされることが望ましい。

意見15 ハイリスク

別添 1.第 1 部関連 B.AI による便益/リスクp.12
図7の「人事面接の対応」でのAI利用はハイリスクにすぎる。本編pp.13 - 14のAIによるプロファイリングであり、個人の尊厳との関係性について吟味が必要なケースと思われる。

意見16 別添ガバナンス部分

別添 2.「第 2 部 E.AI ガバナンスの構築」 関連
本編で充分ではなかろうか。つまり、別添からは「第 2 部 E.AI ガバナンスの構築」(p.18 - p.69)全体が不要と思われる。
本編からの詳細の参照先は、別添ではなく、会社法、コーポレートガバナンスコード、価値協創ガイダンス、人的資本可視化指針等とすることが望ましい。事例企業も業種が偏っており各社のPBRも高くないため、ガバナンスの好事例ではない。
この「第 2 部 E.AI ガバナンスの構築」全体を削除するとして、会社法やコーポレートガバナンスコード等からは通常には想定できないような、どうしても残すべきことは、本編にいれるべきである。

意見17 透明性報告書

「透明性報告書」本編p.30, 別添p.92, p.106等
意見 透明性報告書について、どのような章立てで何を記載するのか、法律、政省令で定めるべきである。特に、学習データの一覧やアクセス先および時期について、透明性報告書として、四半期や年度で開示する義務付けが強く求められる。
理由 別添 3.AI 開発者向け 6) 透明性に関する留意事項(p.101)は、透明性報告書との関係がわからず、一方、 広島プロセス国際行動規範の別添p.92, D-7) ii. 開発関連情報の文書化では透明性報告書への言及がある。「透明性報告書」は、AIシステムの今後の進化や、社会への浸透(ソーシャル・ライセンス・トゥ・オペレート)としても極めて重要であり、開示負担を軽減しつつ必要な情報が公開されるよう、開示項目の整備をすべきである。任意にしてはいけない。

意見18 用語等

意見 本編p.7の文書構成に、別添9として 海外ガイドラインとの比較表が先である。比較と内容確定は並行作業することが望ましく、可能な限り相違を少なく、相互運用性(Inter-Operability)を確保することをお願いしたい。

意見 本編p.5 AI利用者(AIBusinessUser)は、EUではdeployerがあり、生成モデルからの出力を公開したり販売する主体についての解像度が高い。相互運用性を確保する観点から、AI利用者のみの概念によらず、諸外国との対話に応じて海外に対しても分かりやすいガイドラインとすることが望まれる。

意見 本編p.10のAIモデルは、現在、生成モデル (generative model)の方が分かりやすいのではないだろうか。技術の進歩や変化に応じて柔軟に用語から見直すことをお願いしたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?