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追悼 山田弘子(弘子の一句)


寒夕焼蹄の音の遥かより   弘子

(「円虹」2009年3月号)

 
 山田弘子さんが生まれ育ったのは兵庫県和田山町(現・朝来市)である。小学生の時から短歌や俳句を詠み、地元の児童文芸誌『草笛』(昭和20〜26年)に投稿した。その頃の『草笛』を開くと、<杉葉かきふと残雪を見かけたり 谷本弘子>(『草笛』24号、昭和24年)などの作品が見える(谷本は旧姓)。以後、山田さんは18歳まで和田山に暮らした。

 それから約60年を経たある時、ご一緒した句会で掲句が出た。童謡のように郷愁を想わせる作品で、昭和期に故郷を離れた方の句に感じられた。選に採ると、名乗りの際に「弘子」という声が響いた。

 句会が終わった後の酒宴の際、「寒夕焼の句は和田山の頃を詠まれたのでしょうか」とお聞きしてみた。山田さんは「そう、最近昔のことが懐かしくて」と笑いながら仰った。

 山田弘子さんが亡くなられたのは、その一年後だった。
 

(初出:「俳句研究」77-3号、夏号、2010.6.1、p.191)

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