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趣味や音楽、写真、ときどき俳句15 秋に聴きたくなる曲

秋になると聞きたくなる音楽がいくつかある。それは秋から冬にかけて聴きこんだ音楽が多く、少し肌寒くなり、虫の声が澄むように響き始めるとその曲を聴きたくなるのだ。

例えば、リュートの曲やフェルデナン・ソルのギター曲をよく聴いていた時期があり、今も秋にこれらの曲を聴くと秋の澄み通り始めた空気感や、夜長の静けさがしみじみ感じられる気がする。

ただ、これらの曲は個人的に好きということもあり、秋以外にも聴くことは少なくない。一方、秋以外はあまり聴かないが、なぜか10月から11月にかけて無性に聴きたくなるのがアメリカのポップ・バンドのBeach Boysで、それも彼らが1960年代半ばに制作しようとしたアルバム”SMiLE”の楽曲群を聴きたくなる。

一時期、このアルバムに収録予定だった曲を秋から冬に至るまで延々と聴いていた時期があり、それで秋頃になると聴きたくなる癖が付いてしまったのだ。

ビーチ・ボーイズは1960年代初頭にアメリカでデビューしたグループで、”Surfin’ USA”等で一躍人気ポップ・グループになった。彼らはアメリカ西海岸の夏の海を陽気に歌った曲で人気を博し、それがパブリック・イメージとして定着したが、1960年代半ばになるとそのようなイメージから大きく離れた”SMiLE”というアルバムを制作している。

“SMiLE”はグループ率いるソングライター、ブライアン・ウィルソンが制作しようとした野心的なアルバムで、彼はThe Beatlesの画期的なスタジオ・アルバム”Revolver”(1966.8)に触発され――逆にビートルズ側はビーチ・ボーイズのアルバム”Pet Sounds”(1966.5)に衝撃を受け、より実験的なアルバムに仕上げたのが”Revolver”だった――、“神に捧げるティーンエイジのポケット・シンフォニー”というコンセプトで曲を制作し始める。

ブライアンは楽曲群を壮大なシンフォニーのように関連させつつ、アメリカ史を浮き彫りにする目論見もあったようだ。

しかし、”SMiLE”は従来のビーチ・ボーイズのパブリック・イメージ、つまり西海岸の夏を謳歌するポップグループといったイメージからかけ離れており、メンバーやレコード会社の理解を得られず、孤立したブライアンはやがてアルバム制作を続けられなくなる。

しかも、ブライアンが苦悩していた1967年にライバルのビートルズが「架空のバンドのショウ」というコンセプトの”Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band”を発表したため、「実験的かつポップなコンセプト・アルバム」の実例として完全に先を越されてしまい、ブライアンは精神が極度に不安定になり、”SMiLE”は完成することなく頓挫してしまう。

その後、ブライアンは長い間暗い闇を彷徨う日々を送ることになる。

結果として”SMiLE”収録予定だった曲群は膨大な没テイクが散乱したままになり、ロック史上最も有名な未完成アルバムとして知られ、大量のブートレグが出回ることになった。その昔、私が秋から冬にかけて聴き続けたのは”SMiLE”の各種ブートレグで、特に”Hero’s and Villains”や”Vega-Tables””Cabin-Essence”あたりをよく聴いたものだ(もちろん、”Good Vibration”も)。

どの曲も奇妙な曲調が多く、例えば“Heroes And Villains”は「A-G-A-D」を繰りかえす中でフラットの音を強調しており、不安定な雰囲気が濃い。音階に敏感な人はあまり良い心持ちがしないかもしれない。

そんな“Heroes And Villains”を聴きながら、静かな狂気の漂う小説を読むのも素敵な秋の過ごし方(?)かもしれない。下記は2000年代に作られたMusic Clipで、なかなか怖い雰囲気がある。
  

 


(初出:「セクト・ポクリット」2021.10.14)


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