9月26日から30日

9月26日

久しぶりに遠くの公園へモネのお散歩へ。この公園は周囲にビルがないお陰で、いつもの公園よりずっと向こうまで空が続いている。モネは色んな植物の根本のにおいを嗅ぎながら時折マーキングの手紙を添え、二人で延々と続く芝生を歩く。地面を踏むたびに足元で水を含んだ草たちがキュッキュと鳴いている。

こうやって多くの木々や植物に囲まれながら高い空を見て、モネと歩くのはとても久しぶりだ。6月に自殺未遂してから初めてかもしれない。沢山歩いたせいで足がだるくて帰宅してからモネと布団で体を休めた。いつも、疲れて横になる時は鉛のようになった体の奥まで疲労が押し寄せぐったりしているのだけど、今日は緑や空に全身を洗われたようでさっぱりした気分だった。

9月27日

今日から生理が始まりとても眠くてだるい。毎回、生理が始まったとたんに体のあちこちが固まって痛みも悪化する。生理中は、いつも体にまとっている鎧がさらに重く、固くなってしまう。

こうなると日常の景色がどんよりくすんできて、ちょっとしたことでため息をついたり、頭を抱えたりする。すべてにウンザリしてしまって机に突っ伏していると、涙腺の手前で涙がスタンバイして、出番は今かと待っていた。

夜、またあの日のことが何度も頭でリピート再生される。案の定スタンバイしていた涙がこぼれだし、ずっと部屋で声を殺して泣いていた。

9月28日

午前、痛み止めの点滴へ行く。母が今日もついてくる。

最近まで、すごい剣幕で私の領域を犯してくる母が怖かった。

「消毒しなさい!」と、エレベーターのボタンや改札機に触れたというだけで私の手をぐっと掴み、スプレーを吹きかけてくる母。「なんで話さないの!?」と電車で音楽を聴いてる私に迫ってくる母。常に迫りくる母にどんどん私は追い詰められて、息がうまく吸えなくなっていたのだけど、最近の母はそういうことを徐々にしなくなってきた。お陰で徐々に息ができるようになってきた。

点滴を終えると、毎回クリニックモールの中庭のベンチに二人で座りお弁当を食べる。そこに座ったとたん急に私はあの日に引きずり戻されてしまった。胸がぐりぐり抉られて、痛くて苦しくてたまらなくて、涙がどっと溢れだす。開けたお弁当を膝に抱えたまま嗚咽して涙をふく。沢山のスーツを着た人たちが中庭でお弁当を食べていて、きっと皆驚いた顔してみてるのだろうけどそんなこと構っていられなかった。なんせ、この空間で私だけあの7月19日からはい出せなくなっているのだから。9月の今に戻ってこようにも、涙が溢れれば溢れるほど、あの日の感覚はリアリティを増してきて、ぐちゃぐちゃの顔になりながらも泣くのをやめられなかった。

あの人はなんで私が死にそうになってるときにただ傍観していたのだろうか。なぜその後背を向けて去っていったのだろうか。怖いと思うと同時にあの人を悪く思いたくない思いが沸き上がり身が引き裂かれそうになってくる。

少し顔を上げると私たちの足元に、小さな真ん丸の雀が見えた。どうやら食べ物が落ちてこないかと泣いてる私をずっと見ていたようだ。「スズメ、かわいい」と母はご飯粒を投げてやると、スズメは二本足で小さく飛びながら近づいて、落ちたご飯粒を咥えそのままさっと木の根元に行き見えなくなった。まだ私が泣き続けていると、また同じスズメが足元に寄って来て私たちを凝視した。また母がご飯粒を落としてやる。さっきよりずっと私たちに近い所に落ちたのだけど、スズメは何の躊躇もなく寄って来て地面に落ちたご飯粒を小さな嘴でつついている。しばらくして食べ終わり、満足気に木々の向こうへ飛んで行った。私は、スズメが去った後母が作ったお弁当を、まだ頬を時折伝ってくる涙を拭きながら食べた。


9月30日

モネの服を2/3ほど編めたので試しに体にあてがってみたら、全然胴回りが足りなかった。持ってる服を採寸して、それに合わせて編んでいったのになんでだろう。これは失敗。まあ、最初だしそういうこともあるのだろう。今度編み物教室に行った時に、寸法の取り方を先生に聞いてみよう。

気を取り直して、次は動画を見ながらハンドウォーマーを編んでみる。大分編みなれてきてスムーズにきれいに編めるようになってきた。まるで自分の手と毛糸がダンスをしているようだ。

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