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収益認識 百貨店等の商品券に関して その2

百貨店などの商品券発行会社を見ていく続きです。前回は、三越伊勢丹について調べて行きました。今回はそのほかの百貨店について見て行きます。

高島屋、丸井、阪急阪神、近鉄、松屋、さいか屋について取り上げます
(2023年1月作成時点のデータをもとに記載)

高島屋

まず、高島屋です。高島屋も国内主要都市に店舗があるため、ご存じの人も多いと思います。

前回の三越伊勢丹や、IFRSの例で取り上げたJフロントリテイリングの中核の大丸松坂屋、H2Oリテイリングの阪急阪神百貨店などのように、百貨店業界も近年合併・統合が目立ちますが、高島屋は大手との合併はせずに独立体制でいます。
実は過去にはH2Oリテイリングと資本提携をしていて、経営統合を目指すという時期もありましたが、その方向は現時点では消えたようです

そして、高島屋も自社の商品券に加えて、全国百貨店共通商品券などの販売を行なっています

そして、決算期は2月であり、収益認識基準の適用期限は2023年2月期となり、現在の進行期から適用しています。

収益認識の処理

前述のように、2023年2月期からの収益認識基準の適用であり、現時点(2023年1月)では有価証券報告書が出ていないので、詳細は不明な点が多いですが、わかる範囲で調べてみます。

第2四半期報告書の記載をベースに内容を見て行きます。

第2四半期報告書 注記

ここで商品券に対する記載がありますが、今までにないパターンの記載となっています。
従来の方式が「将来未使用見込み分を発行時に収益として認識」とあります。つまり、未使用分について以下のような変更があったと文面からは読み取れます。

  • 従来:発行時に将来未使用分を収益に計上

  • 変更後:顧客が権利を行使する可能性が極めて低くなった時に収益計上

これを図式化すると、従来の方式は下記のようになるでしょうか

注記情報をもとにした従来の計上イメージ

発行時に未使用分の見積もりを収益計上するのは、かなりタイミング的に早い感じがするのですが、金額的にあまり重要性がないものとして、そういった会計処理をしていたのでしょうか。少し興味があるところです

税制の改正前の原則方法が、発行時に益金計上だったので、それに寄せた処理だったとも考えられます。

一方、変更後に関しては、収益認識基準に沿った形で、三越伊勢丹と同様の方式のようです。なので、未使用分に関しては、従来より収益計上が遅くなる方向に動いたという感じでしょう。

JICPA 基本論点Q&A 論点10より

前回もあげたJICPAの資料を再掲しますが、こちらのパターンですね

BSの状況

BSの負債の部は下記のような形です

第2四半期 連結BS
第2四半期報告書 注記

前年度まであった「前受金」科目をなくし、「契約負債」に新規に残高が発生しています。「商品券」勘定に関しても、一部が契約負債となったようですが、まだ多くの残高が計上されています。

自社発行分の商品券は「契約負債」として、共通券などは従来と同様に「商品券」の計上を継続しているのかなと考えられますが、現時点での開示情報からだとまだ詳細は把握できません。
ちなみに、PLの方は下記の通りですが、こちらからはこれといった科目の変化が読み取れません。

第2四半期 連結PL

このように、四半期報告書しかない現時点ではあまり詳細なところまでの分析ができないので、有価証券報告書などが出た時点で改めて検証できればと思います。

丸井

丸井は首都圏を中心に店舗がありますが、丸井グループとして上場しています。丸井も、自社の商品券を発行するのに加えて、他社のものも取り扱っています

収益認識の処理

丸井グループは3月期決算であるため、2022年3月期から収益認識基準を適用しています。この期の有価証券報告書をベースに調べます。まず、注記情報を見てみます

有価証券報告書 注記
有価証券報告書 会計方針の変更

このように、「商品券」については特に言及がありません。
おそらく、丸井グループにとって、商品券はあまり大きな金額でないため、そこまで重要性がないということで、記載はしていないのではないかなと推測します

BSの状況

念のため、BSの科目も見てみます。

連結BS 負債の部
注記

BSには、「商品券等引換損失引当金」という科目があり、引当金の注記に説明があります。こちらの記載はこのようになっています

一定期間経過後に収益に計上した商品券等の引換に備えるため、過去の実績に基づく将来の引換見込額を計上しています。

従来も、収益認識基準適用後も特に変わりはないようです。実際、金額の変動もほぼありません。やはり、自社発行分があまりないのかもしれません。

阪急阪神

次に、阪急阪神百貨店ですが、冒頭にも少し触れましたが、H2Oリテイリングとして上場しています。ちなみに鉄道を運営しているのは、阪急阪神ホールディングスで、別法人として上場しています。(阪急阪神HDがH2Oリテイリングの株式の約2割を保有して、持分法適用会社です)
このような商品券を発行しているようです

収益認識の処理

同社は3月期決算であるため、2022年3月期から収益認識基準を適用しています。有報から記載をチェックしていきます。

有価証券報告書 注記
有価証券報告書 会計方針の変更

商品券の未使用分に関しては、回収率に応じて収益を認識すると書いています。やっと出てきたパターンですね。
JICPAの資料で言うと、こちらの左側のパターンですね

JICPA 基本論点Q&A 論点10より

ただ、会計方針の変更の箇所の記載があるので、従来とは処理方法が違うとは思うのですが、従来どのように会計処理していたかについて記載がありません。(会計方針の変更の場合、変更前の処理について書かなくていいんだっけ?)

BSの状況

次に、BSの表記です

連結BS
有価証券報告書 注記
有価証券報告書 会計方針の変更の注記より

ここで、自社商品券と共通券に関して、このような記載があります。

自社商品券については契約負債、他社でも利用可能な全国百貨店共通商品券等については金融負債として処理しております。

これは三越伊勢丹のところで見たので同じ考え方ということでしょう。
「商品券」「前受金」「商品券等回収引当金」といった科目があります。
開示上の科目としては「契約負債」ではなくて「前受金」、「商品券等回収引当金」は他社は流動負債に区分しているのに対して、固定負債に計上しているのが特徴でしょうか。
一定期間経過しても商品券を利用されないので、この先もあまり使われないので、固定負債という解釈にしたのでしょうかね

連結PL

営業外費用に、「商品券引当金繰入」が計上されています。共通券の処理は引き続き引当処理を行なっているので、この科目があるのでしょう。

近鉄百貨店

近鉄百貨店は関西エリアを中心に店舗展開しています。阪急阪神と同様に、鉄道運営の方は近鉄グループホールディングスという別法人があり、上場しています。ちなみに、近鉄百貨店は、近鉄グループHDが約7割保有している子会社となっています
近鉄グループで利用できる商品券があるようです

収益認識の処理

同社は2月期決算なのですが、2022年2月期に早期適用しています。その期の有報から記載を確認します。

有価証券報告書 注記
有価証券報告書 会計方針の変更

このように、記載には商品券関係の記載が特に見当たりません。

BSの状況

BSの計上は下図のようなものです

連結BS
有価証券報告書 会計方針の変更

従来、「商品券」「預り金」「その他」に計上していた内容を「契約負債」に区分した形ですね。「商品券等引換損失引当金」に変更はないようです。

有価証券報告書 注記

注記上の説明はこのようになっています。
商品券の処理に関して何か変わったのかは読み取れないですね

松屋

松屋は銀座などに店舗があります。松屋銀座のビルは銀座によくいく人であれば知っていると思います。
(ちなみに、牛丼の松屋の方は、「松屋フーズホールディングス」です)

収益認識の処理

同社は、2月期決算の会社であり、現在進行中の2023年2月期から収益認識基準を適用しています。

高島屋と同様に、まだ有価証券報告書が出ていないので、詳細の開示が少ないところではありませすが、第2四半期報告書から見てみます

第2四半期報告書

こちらは、回収率に応じて収益計上するパターンですね。阪急阪神と同じ方式です。従来どのように会計処理していたかについて記載がなく、不明です

BSの状況

BSは下記の形です

連結BS
第2四半期 会計方針の変更注記

このように、「商品券等回収損失引当金」の計上があり、一部が「契約負債」に移り、新しい期でも残高があることから、自社発行分は契約負債に計上され、共通券の分が引き続き「商品券等回収損失引当金」に計上されているのではないかと推測できます。
また有価証券報告書が出たら、詳細をチェックしてみたいと思います。

さいか屋

さいか屋はちょっとローカルなので知らない人も多いかもしれませんが、神奈川県エリアで展開している百貨店です。(昔は川崎駅前に大きなビルがあったのですが)
過去には業績不振から、事業再生ADRを行い、債務免除などを経て規模を縮小しながら現在まで至っています。

収益認識の処理

同社は、決算期を直近で2月期から8月期へと変更しています。
つまり、2022年内に、2022年2月期と2022年8月期決算が存在し、2022年8月期の半年間の変則決算に係る有価証券報告書があります。
そして、2022年8月期から、収益認識基準を適用していますので、この期の有価証券報告書を見て行きます。

有価証券報告書 20022年8月期 注記
注記

ここは、従来と変更後の方式をちゃんと書いてくれていますね。未使用分については以下のような形です。

  • 従来:一定期間経過後に集計計上。商品券回収損引当金も合わせて計上

  • 変更後:顧客が権利を行使する可能性が極めて低くなった時に収益計上

また、従来は、一定期間経過後に営業外収益に計上していたところ、変更後は、売上に計上する形です。
これは、三越伊勢丹の時と同じですね

BSの状況

BSは下図の形です

連結BS
有価証券報告書 会計方針の変更

また少し他社と違った形です。「商品券」「商品券回収損引当金」の表示をなくして、「契約負債」にまとめられていますね。
商品券の販売は、自社発行分のみということなのでしょうかね。
開示情報からだけだと、ちょっとそこまで読み取ることができません。
PLの方もこれといった特徴的なものはありませんでした。

まとめ

以上、主な百貨店と商品券関連の会計処理について見てきました。
ざっくり表形式で従来の方式と変更後について整理します

各社の商品券未使用分の会計処理の変化

このように、やはり同じ業種と言っても、会社ごとに会計処理は異なります。
また、今回はまだ収益認識基準適用後の有価証券報告書が出ていない会社もあるので、今後詳細などわかるようでしたら、追加で調べてみたいとも思います。

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