ムギコちゃんの粗相と60円の珈琲
ムギコちゃんは世界で一番かわいい柴犬であるが、柴犬というのは所詮犬畜生であるからお世辞にも知的能力に優れているとは言い難い。だからまあたまには家の中でお漏らしをしてしまうのも仕方のないことだ。
いや、まるでムギコちゃんが我々万物の長たるホモ・サピエンス・サピエンスに比べてこらえ性のない下等生物であるかのような書き方をしてしまったが、ムギコちゃんは毎日平均して10時間くらいは一人でお留守番をしていて、その間一滴のアンモニア水を漏らすこともなく忠実に家を守っているのであった。対する俺はといえば、もうすっかり頻尿おじさんであるから、3時間に1回くらいはトイレに行ってしまうわけで、ムギコちゃんと同じ日々を過ごしていたら平均して毎日3回くらいはお漏らしをしている計算になるから、やはりムギコちゃんは俺なんかよりよっぽど高等な動物かもしれない。いや、でもよく考えたらムギコちゃん用のトイレも一応用意してやっているのにそこで用を足せないあたり所詮は犬畜生だな。俺にはサピエンスがあるからきちんと場所を選んで用を足すことが出来るのであってその分やはり俺のほうが高等である。サピエンス万歳！
さて、そういうわけで今日はムギコちゃんのなけなしのサピエンスも機能しない日だったようで、俺の留守中に粗相つかまつっていたらしい。問題は俺がその事実に気づいたのが深夜1時を回ってからということである。結構な大物に対して粗相ぶちかましてくれやがったわけで、家の洗濯機で洗えはするものの、乾燥はちょっと無理という感じ。明日の昼に干してもいいんだけど、できれば今日のうちに乾かしてほしい類のもの。そもそもこういうイレギュラーに対する対処は可及的速やかにやっておかないとどんどんダルくなるしな……
というわけで洗濯だけ回したら、乾燥機をぶん回しにコインランドリーまで夜のドライブだ。さんざんムギコちゃんに悪態をついたが、こういう不慮のドライブというのはちょっとだけ楽しい。最寄りのコインランドリーは閉店しているので、15分ほど車を走らせる。徒歩でも自転車でも自動車でも、丑三つ時に夜道を闊歩するのは心が躍る。
見慣れぬ道を走らせて目的地に到着する。ブツをぶち込んで待ち時間を確認。30分ちょっとか……まあ、ちょっと待ってりゃ佐久間宣行のANN0も始まるし車の中でのんびり待つか。となると、何か温かい飲み物が欲しいな。馴染みのない場所の深夜の自販機ってのもこれまた風情があるんだよな。お、しかも何か色んなメーカーがちゃんぽんになってるタイプの怪しげな自販機じゃん、これだよ、これ。男の子って結局こういうのが好きなのよ。
……………！！！？？？
は？60円？？？自販機の缶コーヒーが60円？なに、この自販機、昭和からタイムスリップしてきたの？まあサンガリアだからな……って、サンガリア以外も安いな……ネクターもウェルチも100円で売ってるやんけ……すげえな、この自販機に入れたらマクドのハンバーガーも58円になるんじゃねえの？いやあ、これは新鮮な喜びだ。こんなもん60円のコーヒーを買うしかないじゃん。
ぶち上がるテンションのまま、100円玉を突っ込んでボタンを押す。すごい、100円しか入れていないのに釣り銭がジャラジャラ鳴る音がする。
一口飲む。うおー、不味い！美味しくないのではない。はっきりと不味い。くぅー、こうでないとな。60円のコーヒーが美味しかったら大問題なのである。60円だから全然惜しくも何ともない。クオリティコーヒーだからな、ハイクオリティとは言っていないから、別に不味くったって優良誤認になりはしないのだ。
60円のコーヒーの不味さに感動していると予定通りANN0も始まった。少しだけ聞いているとハッピーバースデーが流れて佐久間さんが誕生日を祝われていた。佐久間さん、おめでとう。
ムギコちゃん、ありがとう。君がお漏らしをしてくれたおかげでクソまずい激安コーヒーに出会えて、佐久間さんの誕生祝いにもリアルタイムで立ち会えたよ。クオリティが低くても一応ちゃんとコーヒーたったらしく利尿作用のダイレクトアタックを受けているから、あと少し待って乾燥が終わってお買い得なウェルチを2本ほど買ったら急いで帰るからね。