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新潟県内の銭湯5湯をめぐった件

先日、出張で新潟へ行く機会があった。
2泊3日の日程で訪問した客先は上越市と村上市に分かれていて、新潟県内の地理をご存じの向きには「なんでそんなことを?」と思われそうな行程だった。ちなみに横浜から自走である。

ともあれ、せっかく新潟に(人のお金で)行くのである。ついでに銭湯にも入れれば最高である。
客先の位置と銭湯の位置を勘案しつつ行程を組んだ結果、2泊3日で5湯のお湯を借りることができた。出張がてらにしてはなかなかの戦果だったと思う。
本稿はその簡単なレポートとなる。


1.燕市「玉宅湯」

玉宅湯外観。屋号は2階?の窓の部分に見える。

上越市の客先を辞した後、まだ日が残る時間に訪れたのが燕市の「玉宅湯(たまたくゆ)」さん。燕市最後の一般公衆浴場だ。
商店街の中にあるのだが、その商店街の道路が2車線なのに一方通行でかつ左車線は路駐可能というユニークな運用だったので、お言葉に甘えて?近くに路駐をして銭湯に向かう。

建屋はモダナイズされた町屋づくり風とでも言えばいいのだろうか。
のれんの奥の引き戸を開くと土間があり、土間の左右に下足場と脱衣場。男湯側は下足場から脱衣場の間に仕切りも何もなく、左手の女湯側はさすがに下足場の手前に長い暖簾が下がっている。

受け付けは番台。
小規模な脱衣場は外壁側に金属板のカギを差し込むタイプのロッカーがある。カギのサイズは普通サイズ。番台の近くには脱衣かごも積まれており、おそらく常連さんはそちらを使うのだろう。

脱衣場から浴場に入ると、浴場の床のほうが脱衣場の床よりも高いことに驚く。(そのため?脱衣場の浴場側50cmほどは床がタイルになっていて水がこぼれてきてもいいようにはなっている)
湯上りに番台のおかみさんに伺ったところでは、この60年ほどの間に行った2度の床タイル貼り替えの際、どちらの工事でも古いタイルを剝がさずに、上から新しいタイルを貼られてしまって嵩が高くなってしまったとのこと。(そうはならんやろ)と思ったが現になっている。不思議なつくりである。

そんな浴場は手前に洗い場、奥に湯舟の関東型レイアウト。
ただし、全体的に細長いために印象はあまり関東型らしくはない。

洗い場は左右の壁のみで島はなし。左右の壁それぞれに洗い場が5か所ずつあり、都合10か所。
向かって右、外壁側の洗い場のみシャワーあり。また、左手の壁にシャワーだけの洗い場?が3つある。カランは独立式でお湯はかなり熱め。
前述の床が後から高くなってしまった影響で鏡が低い。

湯船は浴場が細長いために奥から手前に細長く伸びる形になっている。
湯舟は頭が水中に没している仕切りによって大きく二つに分かれていて、手前が浅く、奥が深い。お湯は白湯だがたまに薬湯にもなるようだ。湯温は42度ほどか?心地よい熱さ。深い側にはシングルタイプのマッサージバスの吐出口が二つ。思ったよりも圧が強め。

浴場の断面は肩が斜めになった凸の字型だが、細いうえに全体に占めるでっぱりの部分の比率が大きいために若干教会風にも感じられる。
また、一番奥の壁には何かの踊りを踊る女性の絵が描かれている。

ところでこの玉宅湯さん、男湯にトイレがない。(脱衣所右手奥にある扉は建屋裏手の生活空間に続くもののようであった)
筆者が手洗いを借りようとトイレの場所を聞いたところ、番台の女将さんは「いま女湯に誰もいないからこっち使っていいよ」と女湯の脱衣場のトイレを案内してくれた。銭湯に通うようになってしばらくたつが、女湯の脱衣場に入る日が来るとは…。

2.新潟市「朝日湯」

朝日湯外観。外回りには屋号を示すものは特に見当たらなかった。

燕市から下道で新潟市に入り、新潟駅前の宿に投宿した後で訪れたのが「朝日湯」さん。
新潟駅の万代口から南西方向に徒歩10分ほどか。大きめの通りから路地を入ったところにある、宮型に近い建屋の銭湯。

入り口の引き戸を開けると土間がスロープ状。それを上がりきったところにさらに引き戸。
奥の引き戸を開けると板張りになるので、引き戸のところで靴を脱いで扉の向かいの下足箱に靴を入れるよう。(バリアフリー対応?でスロープと床に段差はない)
入り口からみて左手にフロントがあり、お金はそちらで支払う形。
番台式からフロント式に改めるにあたって脱衣場を少し狭くして、ロビー的な空間を作ったように思われる作りだった。

脱衣場に入ると天井は高めの折上天井。ロッカーと脱衣籠が用意されている。奥には休憩コーナー的な一角もあり、本棚に大量のコンビニコミックが並ぶ(普通のコミックスもある)。

脱衣場から浴場に入るところも浴場側に点字ブロックの貼られたスロープがあってこちらもバリアフリー対応か。この点字ブロックについて湯上りに番台のご主人に伺ったところ「点字ブロックは滑り止めと足つぼ健康法だよ」と冗談めかしておっしゃっていたが。

浴場は手前に洗い場、奥に湯舟の関東型のスタイル。奥の壁に富士山の絵があるのも南関東の銭湯のような雰囲気。

洗い場は左右の壁と島の両面で都合22箇所。シャワーがあるのは男女の隔壁沿いの12箇所のみ。島の洗い場はカランの下に溝が切られていなかった(代わりに浴場の床は中央が高く、周縁部が低い形になっている)。

湯舟は左側(外側)1/4ほどがラドン浴(壁際に鉱石の入った籠があり、その籠からお湯が供給されるもの)。右側3/4ほどが白湯。
白湯側はさらに手すりで2つに仕切られていて、中央部の深いエリアがマッサージバス、右側(内側)が浅いエリア。
白湯側はそこそこ熱めで43度前後か。ラドン浴側は40度前後と思われた。

浴場の天井は男女の隔壁の上にピークがあるかまぼこ形。中央に明り取りの塔が設けられているかたちで、ここだけはあまり関東風ではない。

中に入るとずいぶん情報量の多い銭湯だったなという印象が残る。

3.新潟市「小松湯」

小松湯外観

2日目の現場に入る前、朝湯でお邪魔したのが新潟港の近く(新日本海フェリーのりばから直線距離で1kmほど)にある「小松湯」さん。
朝8時30分開店の銭湯だが、筆者がお邪魔した日は平日ながら朝8時15分頃には店の前に開店を待つ常連さんの列があった。浴場の規模を思えばけして狭くはないはずの駐車場も開店前にほとんど埋まっているという盛況具合。

建屋は外から見るとアパート風にも見える造り。
のれんのかかった引き戸をあけて中に入ると、昔ながらの銭湯の入り口まわりなど大幅にリフォームしてロビーのような空間を作っていることがわかる。

ロビーのような空間から入り口を入ると受付は番台式。脱衣場には天井が高く、脱衣籠と鍵のかからないロッカーのような棚がある。

浴場に入ると、奥の壁の真ん中から浴場中央に向かって縦長の湯船が配置され、左右の壁に洗い場があるという関西風のレイアウト。
洗い場は湯船を挟むように外壁側(左側)に6箇所、男女の隔壁の脱衣場側に2箇所。外壁側の洗い場にはシャワーあり。カランは水お湯独立型で、お湯はかなり熱めだった。
浴場に用意されている洗い桶は洗い場の数より少し多めだが、椅子は明らかに数が少ない。混んでいる時間帯は椅子なしを覚悟したほうが良いだろう。(筆者は椅子を確保できなかった)

湯船は手前から1/3ほどのところに仕切りがあり、手前が深く、奥が浅め。お湯はどちらも白湯で、温度は41-2度か。
手前の深いエリアにはシングルタイプのマッサージバス吐出口が2つ。縦長の湯船かつ、吐出方向が奥から手前に向かってという、広島以外ではあまり見かけない形式だったのが意外だった。(さすがにお湯の中に2段の段差があるような作りではなかったが)

浴場右手奥(男女の隔壁のあたり)にサウナ室の入口がある。
基本料金内で利用可能なスチームバスで、サウナ室はバックヤード側にはみ出るように作られている。
スチームバスとしてはかなり熱く感じられたのと、ベンチや壁面に木部が多くあるのが不思議な感じがした。
残念ながら水風呂はないのだが、かわりに?サウナ室入口手前にひとつ、カラン無しでシャワーのみが壁についている箇所があった。

浴場の断面は凸型。肩の部分の傾斜がほとんどない(水平ではなく、わずかに外に向けて下がっている)ので、本当に凸の字のように見える。

4.新発田市「いいでの湯」

いいでの湯外観

村上市内の客先を訪れたあと、2日目の夕方にお邪魔したのが新発田市最後の銭湯「いいでの湯」さん。
JR新発田駅と新発田城址の間、新発田市役所の付近に延びるアーケードのある通り(県道32号線)から細い路地をすこし入ったところにある小さな銭湯。古くからの市街地に建つ銭湯だが(銭湯自体も1930年代に創業されたもののようだ)数台分の駐車場がある。もっとも、平日でも空いているかどうかはなかなか分の悪い賭けだなと思われる人気ぶりではあったが。

こちらの銭湯は2011年に漏電火災により創業以来の建屋が失われたものの、翌2012年にそれまでよりだいぶコンパクトに再建され、営業を再開したものだという。

入口を入ると正面に男女共用の下足箱(鍵はかからない)。下足箱の左右に小上がりがあるが、ロビーまでは男女共通なのでどちらを通っても良いだろう。
ロビーに入ると下足箱のすぐ裏がフロント。レイアウト的には番台風とも言えようか。お金は直接そのフロントに支払う方式。フロントの向かいにはテレビとソファのある小ぶりな休憩スペース。

脱衣場の入口はロビーの手前側の左右。男湯は右手にのれんがある。
脱衣場はロビーが食い込んでいるために┐型の通路のようなかたち。縦棒部分にロッカーがあり、横棒の奥に洗面台。ロッカーの鍵は小さな金属板。
天井は銭湯だと思うとあまり高くない。

浴場もコンパクト。手前に洗い場、奥に湯船という関東型のレイアウト。

洗い場は左側(男女の隔壁側)3箇所、右側(外壁側)4箇所の都合7箇所。島はない。すべてシャワーあり。

奥の壁に沿うようにスチームサウナのサウナ室と二つに仕切られた湯船がある。スチームサウナがあるのが一番左手(内側)。その隣(中央)が深い湯船、一番外側が浅い湯船となっている。
浅い湯船にはいい感じに強めのマッサージバスが2組。

スチームサウナは基本料金内で利用できるのがありがたい。サウナ室は小ぶりながら座面が木のベンチが対向式に置かれていて、詰めれば3〜4人は入れそうか?という規模感。
室温はスチームサウナとしては高めで、どんどん汗が出てくる。
そして、ベンチに腰掛けてしばらくするとなぜかふくらはぎのあたりが猛烈に熱くなってくる。(椅子の下から蒸気が供給されているんだと思われた)
先客がベンチの上で体育座りをしていたので不思議に思ったのだが、すぐに自分もその真似をすることになった。
水風呂がないので洗い場で水をかぶるくらいしかできないのがもったいないようにも感じた。

浴場の天井はへの字型の切妻天井。浴場全体の中央部だけ明かり取りのために高くなっている。また、湯船の上の壁面には地元のお祭りの写真が壁に直接あしらわれている。

冒頭にも書いたように、いいでの湯は2012年に火災から再建された銭湯だ。そのため建物そのものは新しいのだが、浴場の天井まわりなどの全体の造りや、ディテール(ロッカーの鍵など)が絶妙に昔ながら。最近オープンしたり建替えされた銭湯の多くが従来型の銭湯の作りからは離れているように思われる中(*)では他には見られないユニークな建屋とも言えようか。

*近年、建屋をまったく新たにしてオープンした銭湯で、いわゆる街場の銭湯とは大きく異なるレイアウトを持つ例としては「萩の湯」(東京・鶯谷/2017年改装オープン)や「ちどり湯」(島根・松江/2017年新規オープン)などがあげられるか。

5.新潟市「金の湯」

金の湯外観

今回の新潟行きで最後に訪れたのが新潟市の「金の湯(かねのゆ)」さん。朝10時30分からオープンとのことので帰りがけに立ち寄ることができた。
こちらでまず特筆すべきは駐車場の広さだろうか。建屋の脇(写真で煙突の出ているあたりの右手)、道を挟んだ向かい(上写真はその向かいの駐車場から撮影)、少し離れた場所(Googleマップで金の湯駐車場として出てくる場所)と3箇所合計で公称40台が駐車可能。

入り口の暖簾をくぐると下足場。その奥にロビーとフロントがあり、お金はフロントに直接支払う形。

脱衣場の天井はそれなりに高め。ロッカーはワンサイズ。

浴場に入ると随分と広いなという印象を受けた。
奥の壁の真ん中から浴場の中央部に向かって縦長の湯船があり、左右の壁に洗い場があるという関西風のレイアウト。左奥角にはスチームサウナのサウナ室も。
また、浴室手前右手の扉から外に出られるようになっていて露天風呂と水風呂、外気浴エリアが設けられている。

洗い場は都合16箇所。いずれもシャワーあり。カランは独立型。カランからでるお湯は少しぬるめに感じられた。

湯船は大まかに3つのエリアに分かれている。

一番手前側に80cmほど?設けられているのが足湯エリア。銭湯で足湯があるのは浅学にして初めて見た。
足湯はさらに二つに分かれており、いずれも水深は30cmほどか。左側(内側)がお湯、右側が水。足湯の交互浴を推奨する但書きも。底には丸石が敷かれており、足踏みで足つぼを押せということなのだろうか。

その奥が一番広いエリアで、熱め(43-4度か?)の白湯が張られているエリア。手すりでそれとなく仕切られている手前側が浅く、奥は深くなっている。
深くなっているエリアの右手側と奥側の壁にはシングルタイプのマッサージバス吐出口が都合5つ。同じ湯船に┐型にマッサージバスの吐出口があるのもなかなか見ないレイアウト。

一番奥は薬湯。こちらはぬるめで40度ほど。

外の露天風呂は確かに外気はよく通っていたが壁も天井もあり、あまり露天風呂感はない。おそらくは雪対策なのだろう。
露天風呂の湯船は広めかつ浅め。お湯もゆったりと浸かりやすい40度ほどだった。
もうひとつ露天風呂エリアに設けられている水風呂は冷たすぎない温度でこちらもゆったりと入りやすい温度。

さてスチームサウナである。気温は50度以上はあるだろうか。そこそこ熱い。室内には対向式に2本のベンチと、奥に単独のイスが一つ。頑張れば6〜7人は入れそうなサイズ感。ただ、前日に訪れたいいでの湯さんのスチームサウナがそうであったように、この金の湯さんのスチームサウナもしばらくするとふくらはぎのあたりがかなり熱くなってきて、体育すわりを強いられるので実質2〜3人用だろうか。
決して冷たすぎない水風呂とのマッチングは非常に良好。

浴場の天井は頂部が平らになった切妻天井。中央部分に縦方向に長めに、明かり取りで一段高くなった箇所がある。

バラエティ感が楽しい銭湯だった。

6.結びに変えて

浴場組合のサイトを信じるなら、現在新潟県内で営業中の銭湯は16湯(ほかに休業中の銭湯が4湯あるようだ)。
今回、5湯入れたことで新潟県内で営業中の銭湯のおよそ1/3を巡ったことになる。

総体として印象に残るのは、関東型と関西型のレイアウトが拮抗していたことだろうか。(関東型=浴場の奥に湯船があり、手前に洗い場があるレイアウト。関西型=浴場の中央に湯船があり、周辺に洗い場があるレイアウト)

例えば筆者の地元である横浜では圧倒的に関東型のレイアウトが多いように、地域によってどちらかが多いということはあれど、あまり大きな差がない、という状況には初めて遭遇したように思う。
何か歴史的な背景があってこうなっているのだろうか。

機会があればまた新潟の銭湯を訪れ、そのあたりの謎に近づけたらとは思う。

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