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「イエローサブマリン音頭」秘話
ビートルズの1966年の作品「イエロー・サブマリン」の日本語カバーである「イエロー・サブマリン音頭」は、大瀧詠一がプロデュースし、民謡歌手の金沢明子が歌ったことで話題を呼んだ。
だが、当初は竹内まりやでデモ・テープが制作されて、その後もお笑い芸人の山田邦子が歌い手に想定されるなど、金沢明子によってカバーされるまでに紆余曲折があったというのだ。
「イエロー・サブマリン音頭」の企画者として知られる音楽プロデューサーおよび作曲家の川原伸司さんが2019年春にアップリンク吉祥寺で行われたトーク・イベント「藤本国彦プロデュース ビートルズの世界 Around the Beatles」で明らかにした。
川原さんの大瀧との出会いは78年にまでさかのぼる。ビートルズの音楽にはユーモアがあるという意見で、ナイアガラのメンバーともなる杉真理とも意気投合。2人で「イエロー・サブマリン」を音頭にしてみてはどうかと盛り上がっていたという。
そこで竹内まりやにデモ・テープで歌ってもらったのだが、肝心のまりや自身が乗り気でなかった。「どうしてビートルズがこうならなきゃいけないの」、「ビートルズを冒とくしている気がする」と彼女は「ほとんど泣きそうになってしまった」(川原)。
ビートルマニアとしても知られるまりやは「真面目」だった。
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思わぬ「抵抗」にあった川原たち。
同プロジェクトは2、3年間とん挫する。
次に「イエロー・サブマリン音頭」の歌い手候補として白羽の矢が立ったのが芸人の山田邦子だった。山田がかわい子ぶって歌うラップがそこそこヒットし、次の企画として「イエロー・サブマリン音頭」を山田でやったら面白いだろうと思ったと川原は言う。
そしてプロデュースを大瀧詠一に任せることにした。戦後の民主主義教育が欧米的なものを美しいと刷り込んでいったが、和のもの―ダサいもの―こそがかっこいいと分かっている大瀧こそビートルズの楽曲の音頭化に適任だと思ったのだった。
だが大瀧は「歌い手が山田邦子だと最初からコミックソングだと思われてしまう。他の人でないと真面目に受け取られない」と却下。
大瀧は大真面目だった。
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そこで登場するのが「民謡界の百恵ちゃん」こと金沢明子。
川原は新興音楽出版の草野昌一専務に「イエロー・サブマリンを音頭にして金沢で出したい。詞は松本隆」と直談判、了承を取り付けたという。
川原は言う。「今では企画段階で断られてしまうだろう。今のビートルズをカバーする基準としては、似すぎていてもダメ、似なさすぎてもダメ。皆、サラリーマン化してしまってトラブルに巻き込まれたくないので、今では通らない」。
大瀧が音頭路線に進むきっかけとなったのは78年の「ナイアガラ音頭」だったが、この時に三味線を弾いていたのが本條秀太郎だった。その本條の弟子の一人が金沢であったという因縁もある。
金沢は、大瀧が松田聖子の楽曲も手掛けていたことから「私も聖子ちゃんのようになれる」と期待したものの、「もっとコブシを入れろ」と言われたり、歌った途端にスタッフ全員が椅子から転げ落ちたりと、自分のイメージとは違ったという。
川原は言う「アン・ルイスにも言われたよーふざけすぎだって」。
しかし、ナイアガラまわりのビートルズ好きの面々――杉真理、伊藤銀次、佐野元春らも参加。
大瀧の声も「逆回転で入っている」(川原)という。
82年に「イエロー・サブマリン音頭」はヒットする。
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このカバーをどうとらえるか? ビートルズに対する真面目なオマージュととらえるか、不真面目だとみるか――これは「あなたはビートルズをどのように好きですか?」という一種の「踏み絵」なのではないか、とビートルズ研究家の藤本国彦は言う。
確かに、ビートルズというバンドは真面目に不真面目をやってきたユーモアセンスの持ち主であった。
バンドの事実上最後のアルバムのラストが、女王陛下をからかった「ハー・マジェスティ」だし、解散前の最後のシングルのB面がおふざけ満載の「ユー・ノウ・マイ・ネーム」であることからもうかがいしれよう。
川原は言う。「ポール・マッカートニーの福岡公演を観に行った。すると開演前に会場に流されるDJミックスで『イエロー・サブマリン音頭』が流れていた。思わず『やった!』となったね」。
(一部敬称略)
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