「ゴッホと静物画」展を観た
フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)。
日本でも大変人気のある画家だ。代表作《ひまわり》を日本企業が購入したのもこの国での高い知名度を当て込んでのことだろうし、くるくると渦巻くような夜空の絵、自らの耳を切り落とした狂気のエピソード・・・
そんなゴッホらの静物画を一挙に紹介する展覧会「ゴッホと静物画 伝統から革新へ」が2024年1月21日(日)までSOMPO美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1)で開催中だ。
ゴッホといえば《ひまわり》ではないだろうか。1987年春に安田火災海上(現損害保険ジャパン)が、ロンドンのクリスティーズで2250万ポンド(当時のレートで約53億円)で落札。今回の静物画に焦点を絞った展覧会でも目玉の一つとなっている。
そして次に人気を集めているのは並んで展示されているゴッホの《アイリス》だ。1890年5月11日、まもなくサン=レミ=ド=プロヴァンスでの療養生活を終える頃、ゴッホは弟のテオ宛ての手紙に、紫色のアイリスのとても大きな花束の絵を2点描いていると書いた。
ゴッホはこの絵について「全く異なる補色の効果」と語ったように、黄と紫を対比させる色彩の試みとして描かれたと考えられている。
今回の展覧会の狙いは、ヨーロッパの静物画の流れのなかにゴッホを位置づけようということ。ゴッホが先人たちから何を学び、それをいかに自らの作品に反映させ、さらに次世代の画家たちにどのような影響を与えたのか。
ゴッホは37年の生涯に約850点の油彩を描き、うち静物を扱ったものは190点近くにのぼった。その中からの作品そして他の画家たちの静物画を通じて、伝統から革新へ連なる静物画の豊かな広がりが楽しめる。
ドラクロワ、マネ、モネ、ルノアール、ゴーギャン、セザンヌ、シャガールといった名だたる画家たちの静物画も紹介されている。
第1章「伝統 17世紀オランダから19世紀」ーヨーロッパの美術史の中で、静物画が絵画の分野として確立するのは17世紀のこと。市民階級が台頭し経済的に発展したネーデルランドやフランドル(現在のオランダ、ベルギー)で盛んに描かれた。身の回りの品々は勿論、富の豊かさを示すような山海の珍味、珍しい工芸品、高価な織物などが描かれた。一方で、火が消えたロウソク、頭蓋骨など人生のはかなさや死を連想させる事物を寓意的に描き、人々を戒めるための作品も描かれた。
第2章「花の静物画 「ひまわり」をめぐって」ー静物画の中で最も好まれる主題は「花」ではないだろうか。花は人物とならんで人気の高い主題で、静物画の黄金時代である17世紀には花を専門に描く画家も活躍していた。ゴッホが活躍した19世紀、フランスの中央画壇では静物画は絵画のヒエラルキーの下位に位置づけられていた。だが、花の絵の需要は高く、多くの画家が花の静物画に取り組んでいた。ゴッホの死後には彼が描いた「ひまわり」そのものがゴッホのアイコンとして描かれるようになった。他のアーチストたちによる「ひまわり」を描いた作品を紹介する。
第3章「革新 19世紀から20世紀」ー「絵画における事物の再現」という考え方は印象派でピークを迎えたといえよう。「見たままを写す」という印象主義の考え方に疑問を抱いた画家たちは、色や形といった絵画の要素に注目し、それらを使っていかに二次元の絵画で自己を表現するかを追求する。ゴッホ、ゴーギャン、ポール・セザンヌら「ポスト印象派」と呼ばれた画家たちは、静物画でも新しく自由なスタイルを展開する。その姿勢は20世紀の画家に受け継がれていく。
休館日は月曜日(ただし1月8日は開館)と年末年始(12月28日から1月3日まで)。開館時間は午前10時から午後6時(最終入館は閉館30分前まで)。観覧料(日時指定制)は一般1800円、大学生1100円。当日券はそれぞれ2000円、1300円。
展覧会の公式サイトは https://gogh2023.exhin.jp 問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)まで。
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