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「モネ 睡蓮のとき」展

 印象派を代表する画家のひとりクロード・モネ(1840-1926)。一瞬の光をとらえる鋭敏な眼によって、自然の移ろいを画布にとどめた。後年になると、その芸術はより抽象的かつ内的なイメージへと変容する。
 モネの晩年は、最愛の家族の死や自身の眼の病、第一次世界大戦といった多くの困難に直面した時代だった。その中で最たる創造の源となったのが、ジヴェルニーの自邸の庭に作られた睡蓮の池に、周囲の木々や空、光が一体となって映し出されるその水面だった。
 この主題を描いた巨大なカンヴァスによって部屋の壁面を覆いつくす”大装飾画”の構想が、最期のときに至るまでモネの心を占めたのだった。
 この試行錯誤の過程で生み出された大画面の<睡蓮>の数々が中心となる「モネ 睡蓮のとき」展が2024年10月5日(土)から2025年2月11日(火・祝)まで国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7-7)で開催される。日本初公開作品7点を含む、およそ50点が来日する。

 この展覧会は全4章から成る。
○第1章「セーヌ川から睡蓮の池へ」ー1890年、50歳になったモネは、7年前に移り住んだノルマンディー地方の小さな村ジヴェルニーの土地と家を買い取り、これを終の棲家とする。これはちょうど彼が、同一のモチーフを異なる時間や天候のもとで繰り返し描く「連作」の手法を確立した時期でもあった。1890年代後半に主要なモチーフとなったのは、ロンドンの風景や、彼の画業を通じてつねに最も身近な存在であったセーヌ河の風景だった。1893年、モネは自邸の庭の土地を新たに買い足し、セーヌ河の支流から水を引いて睡蓮の池を造成する。この“水の庭”が初めて作品のモチーフとして取り上げられたのは、それから2年後だった。池の拡張工事を経た1903年から1909年までに手掛けられたおよそ80点におよぶ〈睡蓮〉連作において、画家のまなざしは急速にその水面へと接近する。

クロード・モネ《ジヴェルニー近くのセーヌ河支流、日の出》1897年 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ(エフリュシ・ド・ロチルド邸、サン=ジャン=キャップ=フェラより寄託) © musée Marmottan Monet / Studio Christian Baraja SLB


○第2章「水と花々の装飾」ー「大装飾画(Grande Décoration)」とは、睡蓮の池を描いた巨大なパネルによって楕円形の部屋の壁面を覆うという、モネが長年にわたり追い求めた装飾画の計画。最終的にパリのオランジュリー美術館に設置されることになるこの記念碑的な壁画の制作過程において、70代の画家は驚嘆すべきエネルギーでもって、水面に映し出される木々や雲の反映をモチーフとするおびただしい数の作品群を生み出した。1914年以降の大装飾画に関連する制作を決定づけるものは、第一にその画面の大きさだ。この時期の〈睡蓮〉は多くの場合、長辺が2メートルにおよび、1909年までに手掛けられた〈睡蓮〉と比べると、面積にして4倍を超える。巨大化した作品のサイズに応じ、モネは新たに広大なアトリエを建設した。そしてこのアトリエで、戸外で描かれた習作をもとに、しばしば幅4メートルにも達する装飾パネルの制作に取り組んだ。

 クロード・モネ《睡蓮》1914-1917年頃 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ © musée Marmottan Monet
クロード・モネ《キスゲ》1914-1917年頃 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ © musée Marmottan Monet


○第3章「大装飾画への道」ー「大装飾画(Grande Décoration)」とは、睡蓮の池を描いた巨大なパネルによって楕円形の部屋の壁面を覆うという、モネが長年にわたり追い求めた装飾画の計画。最終的にパリのオランジュリー美術館に設置されることになるこの記念碑的な壁画の制作過程において、70代の画家は驚嘆すべきエネルギーでもって、水面に映し出される木々や雲の反映をモチーフとするおびただしい数の作品群を生み出した。

クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》1916-1919年頃 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ © musée Marmottan Monet


○第4章「交響する色彩」-モネの絵画は、その色彩が生む繊細なハーモニーゆえに、同時代からしばしば音楽にたとえられた。1908年ごろからしだいに顕在化しはじめた白内障の症状は、晩年の画家の色覚を少なからず変容させることになる。悪化の一途をたどる視力にも関わらず、モネは1923年まで手術を拒んだ。1918年の終わりごろから最晩年には、死の間際まで続いた大装飾画の制作と並行して、複数の独立した小型連作が手掛けられ、そのモチーフとなったのは、“水の庭”の池に架かる日本風の太鼓橋や枝垂れ柳、“花の庭”のばらのアーチがある小道などだった。

クロード・モネ《枝垂れ柳と睡蓮の池》1916-1919年頃 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ © musée Marmottan Monet


○エピローグ「さかさまの世界」

 開館時間は午前9時半から午後5時半(金・土曜日は午後9時まで)。入館は閉館の30分前まで。
 休館日は月曜日、10月15日(火)、11月5日(火)、12月28日(土)-2025年1月1日(水・祝)、1月14日(火)(ただし、10月14日(月・祝)、11月4日(月・祝)、2025年1月13日(月・祝)、2月10日(月)、2月11日(火・祝)は開館)。
 観覧料は一般2300円(2100円)、大学生1400円(1300円)、高校生1000円(900円)、中学生以下無料。(カッコ内は前売り券:6月12日(水)から10月4日(金)まで販売)
 12月12日(木)から27日(金)は高校生無料観覧日。入館の際に学生証を提示する必要がある。
 問い合わせ先は050-5541-8600(ハローダイヤル)。展覧会公式サイトは https://www.ntv.co.jp/monet2024/  国立西洋美術館の公式サイトは https://www.nmwa.go.jp/

 この展覧会は2025年3月7日(金)から6月8日(日)まで京都市京セラ美術館、同6月21日(土)から9月15日(月・祝)まで豊田市美術館へと巡回する予定。


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