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マニア目線でビートルズ!

 【スピリチュアル・ビートルズ】ビートルズが制作主演した1967年のテレビ映画「マジカル・ミステリー・ツアー」(MMT)と同名アルバムをマニア目線で縦横無尽にぶった斬った。刀を振るったのはポール・マッカートニー研究会だ。
 のっけから梅市雄策さんは宣言した「裏街道を行くテーマを研究し続けるポマ研」。すると相棒のNobu Nakaiさんは「67年に(彼らが)ものすごくよい音作りをしていることに気づいて、MMTを音源的に総ざらいしたいということが一つ。私自身が一番好きなLPがMMTであること」。
 Nobuさんは続けて「映画があまりにひどいという話もあえて振り返っていくというポマ研らしい企画です」と話した。
 梅市さんとNobuさんのナビゲートで音源、映像、トークが三位一体となった「マジカル・ミステリー・ツアー」が2023年11月25日(土)、26日(日)の両日、イベントスペース「Rock Cafe Loft is your room」(東京都新宿区歌舞伎町1-28-5)で開かれた。


 一番最初はジョージ・ハリスンのソロ楽曲「FAB」のプロモーション・ビデオを見た。これはジョージが、かつて「FAB4」と呼ばれたビートルズのことを自ら歌った87年の『Cloud Nine』収録曲でシングルにもなった楽曲だ。観終わるとNobuさんは「いろんな人が出てきましたが、セイウチは誰でしょうか。これは間違いなくジョンだと思います。ベースを弾いているのは「グラスオニオン」ではポールと歌われていますが、違うんですね」。
 「『All the Best』のプロモーションで都合がつかなかったんで自分は出ていないとポールは言っているんです。MMTの映画でセイウチはジョンでした。この映画にはジェフ・リン、レイ・クーパーが出ていて、ニール・アスピナールも出演しているようです」。
 荷車を引っ張っているのは「ポール・サイモンだといわれているし、エルトン・ジョンもいます。ポールはもともと出ていなかったけれど、映像を追加する時にポールの映像を突っこんだというのが真相のようです」。
 でもMMTと「FAB」のセイウチは大きく違うという。Nobuさんによると、「マスクやセーターが違うし、靴が革靴になっている、ズボンもスラックス。着ぐるみじゃなくなっている」。
 なぜジョージはポールを分かりにくくさせてしまったのか?Nobuさんと梅市さんの仲間のコイコイさんの説は「「All those years ago」でもポールやリンダが参加したのにミックスしてボーコーダーをかけて分からないようにしたり、ジョージはポールにおいしいところを絶対に持っていかせない」。

Nobu Nakaiさん(左)と梅市雄策さん


 話はMMTに戻った。「大失敗の映画と大成功のサントラを分けて考えないと取り扱いが難しい」とNobuさんはいう。
 67年8月27日、マネージャーのブライアン・エプスタインが急逝。9月1日に急遽MMTを制作する話になる。9月11日、「ちょっと無謀なスケジュール」だったがスタートした。
 「「Our World」はみんなに本当に大丈夫かと思われていた(スケジュールだった)けれど、ジョンがやってのけちゃった。それもあってでしょう」(Nobuさん)。
 アメリカのレコード会社「キャピトル」がサントラを急ぎたがり、11月7日にはサントラが完成。12月8日にサントラEPが全英で発売され、サントラLPが全米発売されたのは11月27日だった。
 12月26日、英国ではボクシングデイの夜にBBC1でカラーではなく白黒で放送された。Nobuさんは「あれを白黒で見るのは辛かったと思います。25日より前にすでにBBCに納品されていたはずで、どうしてこれじゃダメだっていう人がいなかったのか」と疑問を呈した。
 再びコイコイ説ですー東京から鴨川シーワールドへの社員旅行を映画化したのがMMT。夜はチークダンスを女子社員に強要。バーで社員同士が取っ組み合い。朝食からビール。それを映画化してしまった。
 MMTと「ヤア!ブロードストリート」は同様だとNobuさんは考えている。梅市さんはポールのその映画を「一人MMT」と呼ぶ。コイコイさん曰く「203高地の防人の詩」。しかし、そのあとでビートルズは「Hello Goodbye」の素晴らしいプロモを作ったり、ポールも「ブロードストリート」のあとに「Say Say Say」や「Pipes of Peace」という名作プロモが誕生している。
 「プロジェクト・マネージャーを絶対立てないといけない。一人は絶対にダメ。ところが映像、サントラ、予算、営業などを全部ポールがやってしまった」とNobuさんがいうと梅市さんは「その道を極めた人が別の道を究められるとは限らない。長嶋茂雄みたいですね」と話した。

MMTからの一場面


 ポマ研は、サントラから考えて再構築した「シン・マジカル・ミステリー・ツアー」を制作した。マラソン、砂浜などの退屈シーンを排除。さらにはジェシーおばさん、陰気なおじさんらも極力退場してもらった。また「Flying」で眠気がくるんじゃないかと考え、違うプロモと差し替えた。
 「今回使った映像は一番最初に作られたレーザーディスクです。間違いなくきれいです。次に出したレーザーディスクは色が白くなっている。それがブルーレイ化された時には赤くなっちゃってる」(Nobuさん)。
 しかし、サントラは大成功だった。「映像と違ってサントラは好きな人が多いのではないでしょうか。映像に才能ない人の仕事でWの悲劇。そして、サントラにも悲劇が起きます」とNobuさん。
 説明が続いた。アメリカではそれまでに2枚ビートルズでEPを出したが全く売れなかったので、MMTも全く売れないEPというフォーマットで出すことが出来ないと判断したので、どうしてもアルバムを出さざるをえなかった。
 当時、「Strawberry Fields Forever」は66年12月にステレオだけが作られて放置されていたものを英国から米国に持ち帰って米国盤LP「MMT」に入れたり、これまた「Penny Lane」も疑似ステレオで、つまり「All you need is love」まではステレオ・ミックスが作られなかったので疑似ステレオが作られているのだとの解説があった。

英国盤シングル「Strawberry Fields Forever」


 Nobuさんはいう「キャピトルはどうしても9月に出したいからと、「I am the walrus」も最初の音が6つでなく4つしか鳴らないものになった。青盤のバージョンは71年10月にジョージ・マーティンが作ったもの」。
 「アメリカで疑似ステレオが入ったMMTが作られましたが、72年2月の西ドイツでリアル・ステレオによるMMTのLPが出ました。これが今でも人気で、14年くらい前に4000円ぐらいだったものが、今ではディスク・ユニオンで2万円を切ることはない。人気の西ドイツ盤です」。
 71年にジョージ・マーティンが使う目的がないままに作業をしたのは、モノラルに納得がいかなかったから。この時のステレオ・ミックスが赤青盤に入っているが、それを先出ししたのが西ドイツのMMTだという。
 「73年にイギリスではカセットでリアル・ステレオを出している。ここからイギリスではリアル・ステレオを使っている。EPは昔の音のまま。カセットだけリアル・ステレオでひっそりと出たのです」とNobuさん。
 そしてイギリスでMMTのLPが出ると最初の悲劇が起こる。「西ドイツにステレオMMTがあったのに、イギリスはアメリカからマスターを取り寄せた。それによってアメリカ盤と同じMMTがイギリスで出ちゃいました。評判のいい音を出せばよかったのにUSを出してしまった」。
 最高の音質といわれるモービル・フィデリティのステレオ盤を作ったが「MMTはモービルの中で一番人気がない。実態はこういう流れでした」。
 ネガティブな話ばかり続いたが明るい話としては、初めてビートルズを聴く人に勧めるアルバムとしてはMMTがいいのではという声もある。サイケ感、ステレオ感、短い曲間、豪華な見開きジャケットとブックレット。

マジカル・ピアノで歌うポール


 MMTの曲をポールがライブで歌う確率は「6割3分6厘。11打数7安打。オープニング・ホームランが2本ー「Hello Goodbye」と「Magical Mystery Tour」。MMT最強だと思ってます」(Nobuさん)。
 87年に初めてCD化された時には1曲目から7曲目までは最強の67年ステレオ・ミックスを使っていた。だが、アメリカの「Hello Goodbye」のシングルB面、EP,LPともにテイクが違っている。「All you need is love」のB面「Baby you're rich man」も出だしのカウントがテイク違い。
 ここで「今日の目玉音源」だとして「Penny Lane」のアセテート盤の音をみんなで聞くのだが、その前に解説があった。
 ジェフ・エメリックとジョージ・マーティンは69年末まで「Strawberry Fields Forever」の作業をした後、正月あたりから「Penny Lane」を作り始めたが苦戦して、モノラルを作り直した。当時はステレオは作らずモノラルだけで終わりにした。「67年にモノラルでここまできっちり作る技術ってすごいなって思います」とNobuさんは感嘆の声をあげた。
 そのあと、「Only a northern song」「All together now」「Baby you're rich man」「It's all too much」「Hello Goodbye」の音の解説が続いて、休憩を挟んでのべ5時間近くのイベントが終了した。

 
 

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