見出し画像

デイヴィッド・ホックニー展

 現在、世界で最も人気のある作家の日本における27年ぶりの大型個展『デイヴィッド・ホックニー展 DAVID HOCKNEY』が11月5日(日)まで東京都現代美術館(東京都江東区三好4-1-1)で開催中。120点余りの作品によってホックニーの世界をまさに体験できる機会だ。
 ホックニーは1937年、イングランド北部で生まれた。64年、ロサンゼルスに移住。アメリカ西海岸の陽光あふれる情景を描いた絵画で一躍脚光を浴びる。60年以上にわたり美術表現の可能性を探る試みを続け、現在はノルマンディーを拠点に活動している。
 日本で初公開中なのが、ホックニーの故郷イギリスのヨークシャー東部で2011年制作の幅10メートル、高さ3.5メートルの油彩画《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》。同じく日本で初めてお目見えした大判サイズのiPad作品12点とともに紹介されている。
 同美術館はホックニー作品をおよそ150点所蔵している。1996年の版画の回顧展に続き、今回は2回目のホックニーの展覧会となる。

今展覧会の2つの意味とは?
 楠本愛(くすもと・あい)東京都現代美術館学芸員は今回の展覧会には2つの意味があるという。「60年以上の制作の根底にある一貫性を紹介したい。モチーフはいつでも目の前にある身近なもの、親しい友だち、家族、スタジオの中の様子、旅先の風景などです。同じモチーフでも何度も何度も描いています。どう絵画という平面的なものに移し替えているのか」。
 「2020年3月、ちょうどコロナ感染拡大が始まった時期にオンライン上で公開された作品のタイトルが《春が来ることを忘れないで》というホックニーからのメッセージでした。毎日不安なニュースが流れる中、非常に鮮やかな色彩ですっくと伸びる花の絵に励まされました。日本で展覧会を開くのならば、この作品をまず紹介したいと考えました」と楠本さんは展覧会開幕前日に行われたプレスレクチャーで語った。

 この展覧会は全8章で構成されている。
 第1章「春が来るのを忘れないで」ー展覧会は2つの小さな花から始まる。一つは1969年のエッチングで花瓶に入ったラッパスイセンが描かれている。もう一つが2022年にiPadなどで描かれたラッパスイセン。楠本学芸員は、コメントにあるように強く印象づけられたという。
 第2章「自由を求めて」ー1959年、ホックニーはロンドンの王立美術学校に入学した。抽象表現主義やポップ・アートが欧米の美術を席巻していた当時、さまざまな作家や様式に学び、その影響を作品に反映させる一方で特定の動向に与せずに表現を切り開こうとして時代の寵児として躍り出た。

「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023 年 © David Hockney 《三番目のラブ・ペインティング》 1960年 テート美術館蔵 ⓒDavid Hockney

 第3章「移りゆく光」ー1964年、ロサンゼルスに移住したホックニーは南カリフォルニアの開放的な空気のなか、明るい日差しが降り注ぐプールの水面やスプリンクラーの水しぶきを描いた。刻々と変化する光の反射や水の動きをいかにとらえるかという造形上の試みは新たな画材や題材の探求へとつながっていった。

「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023 年 © David Hockney 《スプリンクラー》 1967年 東京都現代美術館蔵 ⓒDavid Hockney

 第4章「肖像画」ーホックニーは多くの肖像画も手がけている。代表作《クラーク夫妻とパーシー》(1970-71年)のように、「ダブル・ポートレート」と呼ばれるふたりの人物が描かれた構図はその代名詞。ホックニーが目を向けるのは家族や恋人、友人たちといった近しい関係の人。目の前にいる人をじっと見つめ内面までとらえようとしている。

「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023 年 © David Hockney 《クラーク夫妻とパーシー》 1970-71年 テート美術館蔵 ⓒDavid Hockney

 第5章「視野の広がり」ー反復を嫌うホックニーは、自らの芸術を次々と変貌させた巨匠ピカソを敬愛する。1980年代、ピカソのキュビスムや中国の画巻を参照しつつ生み出された「フォト・コラージュ」や《ムーヴィング・フォーカス》シリーズは「見る」という現実の経験をそのまま平面上に再現した画期的な作例。こうした複数の視点の統合というアプローチは「フォト・ドローイング」やマルチ・チャンネルの映像作品に引き継がれた。
  第6章「戸外制作」ー本展後半で展示される作品はすべて日本初公開。97年からおよそ15年間、ホックニーは幼少期に慣れ親しんだヨークシャー東部の自然や風物を叙情豊かに描いた。破格の大きさを誇る油彩画《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》(2007年)は、複数のカンヴァスを戸外に持ち出し自然光の下で制作された。

「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023 年 © David Hockney 《四季、ウォルドゲートの木々 春 2010年》2010-11年 作家蔵 ⓒDavid Hockney 
「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023 年 © David Hockney 《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》 2007年 テート美術館蔵 ⓒDavid Hockney

 第7章「春の到来、イースト・ヨークシャー」ー2010年4月の発売と同時に手に入れたタブレット型端末iPadはホックニーの創作に新境地を拓いた。大型の油彩画とiPadドローイングで構成される《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》シリーズは、日毎に劇的な変化を遂げる世界と向き合い見事に描き切った彼の卓越した力量を物語っている。
 第8章「ノルマンンディーの12か月」ー2019年、フランス北西部ノルマンディーに拠点を移した後、未知の感染症の予期せぬ拡大によって世界中が「一時停止」する。だが。辺境の地で影響をほとんど受けることなく、周辺の自然や季節の移ろいを真摯に見つめ続け、ついには全長90メートルの《ノルマンディーの12か月》(2020-2021年)に挑んだ。

 休館日は月曜日(ただし、7月17日、9月18日、10月9日は開館)。7月18日、9月19日、10月10日は休館。開館時間は午前10時から午後6時まで(展示室入場は閉館30分前まで)。7月21日、28日、8月4日、11日、18日、25日は午後9時まで開館を延長する。
 観覧料は一般2300円、大学生・専門学校生・65歳以上1600円、中高生1000円、小学生以下無料。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?