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フォーク歌手 中川五郎

 フォーク歌手の中川五郎さんは言葉の人である。そしてそれ以上に心の人である。歌に心が込められている。歌は人なり。人は歌なり。
 1960年代に活動を開始し一時期の休みを経て再びライブ活動を精力的に行っている五郎さんが2024年1月20日(土)、「李世福のアトリエ大スペース55gogo」(横浜市中区山下町232金太ハイツ)に降臨した。
 高石ともやさんの伝説的ヒット曲「受験生ブルース」。この歌はもともと五郎さんの作品でともやさんがカバーしたのである。
 ピート・シーガーといったアメリカのフォークシンガーに影響を受けて歌手活動を開始した五郎さん。1970年代に入ってからは、いわゆる「わいせつ裁判」もあって、音楽に関する文章や歌詞の対訳などが活動の中心に。
 90年代に入ると小説の執筆や米作家・詩人チャールズ・ブコウスキーの作品やボブ・ディランの歌などさまざまな翻訳も行うかたわら、再び社会的あるいは政治的なテーマを積極的に歌っている。
 昨年は関東大震災から100年目。震災後の混乱の中、朝鮮人らが虐殺された事件に関係した五郎さんの歌「福田村の虐殺」が話題に。
 聞き手は前田健人さんが務めた。

中川五郎さんと前田健人さん(右)


 五郎さんは「日本は歴史でも負の歴史は学ばなかったし、教えなかった。間違ったことをやったのならば、それを学んで、二度と繰り返さないようにしないといけない。ところが、取り上げないし、隠そうとしているから、同じことが繰り返されるのではないだろうかと思います」と話した。
 さらに現在自民党議員がキックバックで大金を不法に受け取っていたことが明るみになり派閥の解散につながっている。
 「権力がある人は何をやっても裁かれない。一方、普通の人が何かしでかすと厳しいことが待っている。みんなそういうことに気づいている。何千万円、何億円、不正操作でもうけたとしても罪にならない。こんな国でいいのかと思ってほしい」と五郎さんは語った。

はみだし君
 ここから歌に入った。人と違う異質な人を受け入れられる社会かどうかという観点から1曲目に選んだのは「はみだし君」という歌。これはビートルズの「Nowhere Man」に五郎さんが日本語詞をつけたもの。
 「僕と同じ世代には「ひとりぼっちのあいつ」というタイトルを記憶している人がいるかと思いますが、それでは美しすぎるような気がして、はみだし君としています」と五郎さんは説明した。

中川五郎さん 


 続く曲は「ぼくとギター」。3曲目は名古屋市が進めている名古屋城の「史実に忠実な復元」をめぐる問題を歌にした「空飛ぶ金のしゃちほこ」。
 これに続いたのは、こちらも日本における権力者の在り方を糾弾する「石原伸晃さんが医科歯科大学に入院した」という作品だった。
 5曲目は新聞の投書欄をヒントに作られた「勝子さんの77本のバラ」。中川さんのコーナーの最後は「ミスター・ボージャング」だった。

中川五郎「ぼくが歌う場所」(平凡社)

 時間を巻き戻す。ライブはまず李世福&前田健人で始まった。李さんは横浜三大ギタリストの一人。健人は李さんの弟子にして、音楽ライター兼イベンターと三足のわらじを履いている。
 最初に歌われたのは「ヘビードリンカー・ヘビースモーカー」。2曲目はザ・ゴールデン・カップスのギタリスト、エディ藩さんが書いた人気曲「横浜ホンキ―・トンク・ブルース」だった。
 横浜中華街を拠点とする李さんは、かつて横浜にあったオリジナルジョーズという名の飲食店やPXとよばれた米軍専用のデパートの話、初めてストロベリーシェイクを飲んだ時の思い出などを話した。
 続いては松田優作さんとの共作「灰色の街」。李さんの曲に優作さんが李さんのオリジナルの歌詞を変えて出来上がった歌だ。
 中国色が強いインストゥルメンタル曲「芥子の花」「アイランド・ドリーム・香港」と続いた後の締めくくりは「ルート66」だった。

前田健人さんと李世福さん


 2番手として登場したのはタロリアンダクミックバンド。ギターのタローさん、もう一人ギターのダーク高橋さん、そしてボーカル兼キーボードのミクさんのトリオから成るバンドで、昭和歌謡が主なレパートリー。
 松田聖子の「Rock'n'Rouge」からスタートした。続くはアグネスチャンの「ひなげしの花」。ここでボーカルがダーク高橋となって浜田省吾の「19のままさ」。再びミクが歌う、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」。最後は猿岩石の「白い雲のように」だった。

ダーク高橋とみく 
タローさん


 次に登場したのはシンガーソングライター杉山賢人さん。「今年初めてのライブです」と言って歌い始めたのは「生活「仮」」。続けて「雨の日に咲く花」。杉山さんの長崎の身内が第二次大戦末期に原子爆弾によって人生を一変させられたことを念頭に書かれた「彼にはもう会えません」。
 ここでカバー曲。ボブ・ディランの「ハッティ・キャロルの寂しい死」を賢人さんの日本語詞で歌い上げた。渋谷が再開発によって「ぐるぐる回り続けてどこにも出られない」ことになったことを歌った「出口を探して」。
 次は「トンネルを走れ」。現在の自民党の「政治とカネ」問題について話をした後に「君はブルースを歌えない」を歌った。ギターのほかにハーモニカを使う演奏スタイルだ。

杉山賢人さん

 そして中川五郎さんの「前座」の最後はmibuloさん。
 「酒が好きだ」と話してから歌ったのは「One scotch one burbon one beer」。次は大ファンであるドアーズの「Hello I love you」をカバーした。
 続くはボニー・レイトの持ち歌「Angel fly from far away」。
 オリジナル曲の「緑の中に」。「作曲:ボブ・ディラン、訳詞:中川五郎」とのコメントの後、ディランの代表曲のひとつ「風に吹かれて」をmibuloは歌った。
 「横浜なので」といって次に歌ったのは「ベイサイド・ラブ・ストーリー」という曲だった。

mibuloさん

 本来、mibuloさんに続いたのは中川五郎さんだった(この記事の冒頭部分)。五郎さんのパフォーマンスが終わるとmibuloさん、杉山賢人さん、タロリアンダクミックバンドのメンバー3人が加わり、ボブ・ディランの「I shall be released」でこの日のライブは終了した。 

最後はみんなで歌った


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