『暇つぶし方とネット社会』
「もしもし? おう、どうだ。調子は」
「どうもこうも、流行り病のせいでまだ気軽に外に出れたもんじゃねぇよ。会社もうちはまだテレワークだ」
「うちもだ。会議もリモートで行なってるよ」
「こうなってくると、今後もこの状況は終わりそうにねぇな……となってくるといい暇つぶしが必要だな。お前、家で何してんの?」
「俺? 俺は暇つぶしっていうと、もっぱらネット動画だな」
「ああ、ネットか……まぁ悪くはないが、いまいち俺はそういうのに疎くてなぁ」
「そうなの? 今時は年寄りだって見てる時代だぜ? 最近はテレビは信用ならねぇって、ネットや動画で情報を得ているって話だ」
「若者のテレビ離れってやつか……。しかしそれはなんとなく分かるが、娯楽としてはそんなに魅力的なものなのか?」
「まぁ、見る分にも楽しいけど……動画に関していえば、自分で動画を作って投稿することもできるからな。視聴者が一定数つけば、広告が入って収入が得られるってのも魅力の一つかね」
「ああ、実際それで食っていくとか聞いたことがあるが……実際どれくらい稼げるもんなんだ?」
「そうだなぁ……。人気が出りゃあ、下手すりゃ本業より稼げるって聞くな」
「はぁ〜本業より? もうどっちが副業が分からないな」
「もちろんそこまでとなると、人気がある一定数だろうけど。でも広告がつくようになれば、まぁ多少のこづかい稼ぎにはなるんじゃない?」
「ほう、なるほどな。それ簡単に出来るもんなのか?」
「作ろうと思えばスマホ1台で出来るよ。だが肝心なのは内容かな。多少画質や編集が凝ってなくても、内容が面白ければある程度視聴者は付くってもんだ」
「なるほど、そりゃいい。俺もちょっとやってみようかなぁ……」
この男、動画投稿を試みようと思ったが、これがどうにも難しい。三十路半ばの男の私生活を語ったところで、見向きもされない。
“先人”の真似事をしたところで所詮二番“煎じ”。
しまいには食べ物を無駄遣いしようとして、軽く炎上しかける始末だった。
「くそ〜どうしたらいいんだ? 娯楽で始めたはいいが、こうも評判が悪いとなぁ……」
最初こそ上手くいけば暇つぶしにはなるだろうと始めたが、こうも反応がないと悔しいものである。
コメントで『この動画、内容がないよう』なんて付けられた日にはスマホを投げつけたくもなった。
男は意地でも人気動画を作ってやろうと日々を費やしていた。
「こういうのは視聴者の気持ちになるのが一番だよなぁ……となると、“いったい視聴者は何を求めているか”、これが重要だ。今世間が一番知りたい内容だ……知りたい内容、知り合い内容……ああ、そうか、なるほど、閃いたぞ!」
そして数ヶ月が経った頃。
「おい、聞いたぞ。お前の動画伸びているそうじゃないか」
「ああ、なぁに。皆が知りたい情報を流したわけよ。ここ(頭)の使い方だな」
「……それにしても『流行病の最新情報の発信』とはなぁ。確かに皆が1番知りたい内容だ。それにしても、お前、そんなに医学知識に詳しかったっけ?」
「いや、全然? これっぽっちもないよ?」
「え? じゃあ知り合いに詳しいやつがいるとか?」
「俺の周りにそんなやついねぇよ」
「おいおい、なんだよ。じゃあデタラメか?」
「いや、ちゃあんと医療知識に基づいた情報だよ」
「は? じゃあ、お前、いったいどこからその情報持ってきてんだよ」
「てっとり早く最新情報が入るところがあるだろ」
「どこだよ」
「“テレビ”で専門家がしゃべってんだよ」
おしまい。
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