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落語日記 名人だった祖父が残した噺を寄席の初主任興行で披露した孫

浅草演芸ホール 11月上席夜の部 桂三木助 初主任興行
11月2日
桂三木助師匠の真打昇進後の初めての主任興行。2017年9月に真打昇進し、祖父と叔父が名乗った桂三木助を5代目として襲名。以来、4年目にして初の主任抜擢となった。
二ツ目時代から、馬生一門ファンとして様々な落語会や寄席でお馴染みだった三木助師匠。ここは、是非その晴れ姿を拝見しなければ、と出掛けてきた。
プログラムを見ると豪華なメンバーが顔付けされている。仕事帰りに行ったので途中入場となり、なんとか一朝師匠に間に合った。
この日は、3代目三木助(現三木助師匠の祖父)の弟子だったというご縁の木久扇師匠が出演、同じく笑点メンバーのたい平師匠、祖父同士が仲の良かったという花緑師匠、そんなご縁つながりで多くの人気者の出演となった。さすが、昭和の名人の血筋で名跡も引き継いでいる言わば落語界のサラブレッド。興行主や出演者からは、盛り上げようという機運が感じられる。そんな華やかさのある主任興行となった

春風亭一朝「鮑のし」
途中から。人は好いがどこか抜けている甚兵衛さんが活躍する噺。クスグリも定番ながら、いきなり笑わせてもらった。お祝いの口上を伝える場面は爆笑場面。まさに一朝師匠の技量の高さを実感できる高座。一席目から満足感マックス。

入船亭扇辰「一眼国」
見世物小屋の小屋主の悪徳さ全開の得意の一席。かなり鋭い悪人顔を見せる扇辰師匠。人情噺で見せる穏やかさとは違う怖い悪人顔。表情の豊かさを見せる扇辰師匠。

すず風にゃん子・金魚 漫才
やはり、にゃん金先生の漫才は、目の前でリアルに拝見してこそ面白さを味わえる芸。寄席らしさがあふれる漫才で、寄席の興行も元に戻りつつあることを実感。

金原亭馬生「猫の皿」
仲入り前の出番は、三木助師匠の師匠である馬生師匠。弟子の主任興行で露払いのアシスト。弟子の主任興行は師匠にとっても嬉しいに違いないが、淡々といつもと変わらない表情は、馬生師匠らしさだ。
姑息な悪知恵を隠したハタ師を、馬生師匠はフワフワと軽妙に描いているので、どこか憎めないし、茶店の親爺もとぼけた風情なので、悪党譚というより長閑な田舎の風景を描く楽しい噺となっている一席だった。

仲入り

林家木久蔵「勘定板」
ここからは、二世三世のおぼっちゃま軍団と笑点メンバーという華やかな出演者が続く。まずは、木久扇師匠のご子息、自らもお坊ちゃまと称している木久蔵師匠。
物を知らないお坊ちゃまキャラそのままの芸風。古典と言っても下ネタの滑稽噺。お坊ちゃまのゆるい雰囲気によって、下ネタの不潔さや下品さをうまく相殺している。

林家たい平「師匠こん平」
華やかさのある、たい平師匠。登場するだけで、高座が一段と明るくなったように感じる。
この日は、笑点の話から、自分が引き継ぐまでレギュラーだった師匠である亡き林家こん平師匠についての話題。可笑しくて笑えるエピソードが続くのだが、師匠を思うたい平師匠の熱い思いが垣間見えて、こちらも胸が熱くなった一席だった。

ダ-ク広和 マジック
ロープマジックを説明し続け、なかなか実演しない可笑しさ。これは、通行人を引き留める大道芸人の手法だ。その観客のうっぷんを、最後に晴らした見事なマジックだった。

柳家花緑「二階ぞめき」
三木助師匠と花緑師匠は、色々なご縁がある。先代小さん師の弟子が4代目三木助師、先代小さん師に可愛がられていたのが5代目三木助師匠、その先代小さん師の孫が花緑師匠。二人とも同じ、名人の三世同士。
木久蔵師匠だけでなく花緑師匠も、我々はお坊ちゃまキャラであることを宣言。
そして本編も、お坊ちゃまの我儘と妄想が爆発する若旦那が大活躍する噺。若旦那の一人芝居、見事に演じてみせた花緑師匠。さすがという一席、堪能させてもらった。

林家木久扇「明るい選挙」
この芝居、二日間だけの特別出演。木久扇師匠の最初の師匠が3代目三木助師で、師匠の死去に伴い林家彦六(8代目林家正蔵)門下へ移籍。なので、最初の芸名は桂木久男と言い、今の芸名にも3代目三木助師が付けてくれた芸名中にある木久の文字を残している。
この芸名の変遷をみても、3代目三木助師に対する木久扇師匠の強い思いを感じるのだ。そんな縁を大切にして、当代三木助師匠の初主任を祝うために出演してくれた。
ゆっくりと歩いて登場して、高座に用意された椅子に座っての一席。今年5月下旬に自宅で転倒し、左足の大腿骨骨折という大怪我をされた。現在もリハビリ中で、正座は無理のようだ。
表情は怪我前と変わらず、明るくにこやか。笑点の歴史から、田中角栄の物真似、彦六師匠の話まで、いつものような一席で、怪我を感じさせないお元気な様子に、観客もひと安心。初主任興行に見事に花を添えた木久扇師匠だった。

翁家社中 太神楽曲芸
膝替わりは、和助小花夫妻のほのぼの曲芸。寄席が初めての観客が多かったのか、かなりの歓声が上がっていた。

桂三木助「ねずみ」
さてさて、本日の主役が登場。マクラはまず、この初主任興行を迎えた感想から始まる。この日は2日目で、昨日の初日はけっこう緊張されたとのこと。今風の若者の風貌から、あまり緊張したという言葉は似合わないが、そこはやはり古典芸能の芸人らしさを感じさせる。
初日は抜け雀を掛けたそうだ。そして、この日は左甚五郎の登場する噺で、名人譚が続いた。名人の名跡を引き継いでいる三木助師匠。人知を超えた匠の技を繰り出す、名人と呼ばれた達人たちの活躍に、憧れを抱いているのかもしれないと思ったりした。

本編は、淡々と進めながらも物語の筋書きを上手く伝えてくれる一席となった。鼠屋親子の悔しさや哀れさも、二人が感情的にならず淡々と過去を振り返る。甚五郎も、鼠屋の主人の話を聞いて義憤に駆られるという風でもなく、どちらかというと、掴みどころの無い人物として描かれる。
この「ねずみ」という演目は、元は浪曲の演目で、3代目三木助師が落語にしたものと言われている。そう、三木助師匠のおじいさん所縁の噺。なので、先代、先々代に捧げる一席だったはずだ。
私は先代、先々代の「ねずみ」は聴いたことがない。なので、芸風を引き継いでいるかどうかは分からない。でも、当代としての「ねずみ」を確立しようとしていることは間違いない。祖父が形にした演目を、孫が承継して現代において披露している。これだけでも、寄席において歴史の流れを感じられるという、素晴らしい瞬間なのだ。

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