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社内ニートは どこから来たのか 何者か どこへ行くのか

 社内ニートバーで賑やかしとして作成したレポートになります。全文公開のうえ、100円で販売いたします。

 バーのお客様からnoteで有料販売したら?と提案されたものの、論考としてはお目汚し以外の何物でもなく、この雑文でお金を取るのは気が咎めていました。
 チャージを払ってご来店くださった方々への義理を欠くのではないかとも悩みました。

 一方で、有料販売の機能自体は試してみたいという気持ちもあり、なんとか折り合いを付ける方法はないかと思案投げ首した結果、全部公開する!面白かったら投げ銭してくれ!という形に落ち着きました。

 それではどうぞご笑覧ください。


 1. 社内ニートはどんな存在か

 社内ニートとは、「会社内で仕事や役割を失った無能者である」。
 そう雑に定義づけた記事は転職サイトのコラムなどで多く見かけますが、その認識は従来のニートの発生原因を自己責任にのみ帰すくらいいい加減なものです。
 無職や引きこもりが恥とされ、親類縁者や世間から疎外されるような扱いを、かつての(あるいは今も)ニートが受けていたのと同様に、社内ニートも他者からは見えにくい、霞がかった存在といえるでしょう。
 従来から言葉のあった「窓際族」との差異については、「会社から明確な整理対象となっているかどうか」がポイントであると考えています。
 以下のアンケート結果をご覧ください。

画像1

 引用 : エン・ジャパン. 2019. 「800社に聞いた「社内失業」実態調査
 ―『人事のミカタ』アンケート―*1」【図2】現在、社内失業状態の社員はいますか?(業種別) .
 2019年2月26日. 最終アクセス2019年10月28日.
 https://corp.en-japan.com/newsrelease/2019/16439.html

「いる可能性がある」と「わからない」を足すと全体の30%に達しています。
 一方、「いる」と断定している回答は10%も満たしません。
 窓際族が会社から無用の長物であるとの烙印を押され、上司や同僚から目に見える形で疎んじられてきたのに対し、本当に仕事をしていないのか判別しづらいという曖昧さが、社内ニートの特徴だと考えています。


 2. なぜ社内ニートは生まれるのか

 普通のニートの発生が自己責任よりもむしろ環境や構造的な側面が強いように、社内ニートも複合的な要因が重なり発生するものであると考えます。
 その要因を1つ1つ棚卸ししてみましょう。
 この先は僕の経験・推測と集めた資料からの引用とが混ざり合っています。主語に注意してご覧ください。
 「不正のトライアングル」みたいにすっきりとまとめたかった。
  
 ①個人の能力・人格に起因
  能力が足りていなかったり、協調性が欠けているタイプです。
  このタイプは社内ニートというより、単にこまったさんであるというほうが近いように思います。
  しかし、尖った能力が職務に適合していないだけだったり、職場の文化が肌に合わなかったり、生来の気質が周囲の理解を得るのに時間がかかる場合もあるため、
  一概に能力が足りない、倫理が足りないと切って捨てるのは不適当だと考えます。

  世の中には面白いデータをとる人がいまして、ソニーの早期退職者のうち、特許取得件数がトップ100にあたるグループは3割ほども辞めているそうです*2。
  この例だけでも、「会社のお荷物になるのは能力が著しく欠落したヤツだけだ」という見解は無理解だということがわかるでしょう。


 ②職場環境に起因
 ・人によって仕事量に偏りがある
  仕事を発注する人からすれば、実力の不明瞭な人よりも実績のある人のほうが安心して仕事を任せられます。任された人が期待に応えるとますますその人に仕事が集まってきます。
  アイデアや裁量を十全に発揮できる一握りの面白い仕事はデキる人に偏り、つまらない仕事はその他大勢に回る。たとえ自分はもっとできると思っていても。

  ほかの人に代替容易な仕事に長く勤める日々が続けば、飽き飽きするのも詮方無いことでしょう。

  やる気はあるのに上司が仕事を振ってくれないなどのパターンもあります。
  2012年に朝日新聞のコラムに掲載された、自称社内ニートの派遣社員女性の訴えもこのパターンでしょう。

 私は今、「社内ニート」状態です。
 派遣社員として今の会社で働いて1年。当初は「本日は手が空いています。お手伝いできることがあれば」と上司に言いました。年4回の面談でも訴えました。それでも仕事は増えません。上司の評価が低いからだと感じ、自分からは言えなくなりました。
 仕事は日々発生し、上司自らしています。それでも私に振らないのは、派遣社員に担当させたくないのか、評価されていないからか。雰囲気の良い職場なので、私からは絶対に辞められません。
 (東京都 30代女性)
 引用:朝日新聞 2012年11月23日 33面コラム 『職場のホ・ン・ネ 「仕事を振られない」』より

 ・教育不足
  職場が忙しすぎたりして仕事を教えられる人がいない場合に陥ります。
  例えば新入社員が入ってきたとして、担当業務が定型的でヘタに独創性を発揮すると怒られるタイプの作業なのに誰も教えてくれる人がいない場合、途方に暮れることになります。そもそも何をすればわからないような状態です。
  「何かお手伝いできることありますか」と言ってもせいぜい「これ読んどいて」とマニュアルだけ渡されて放置されるパターン(実体験)。マニュアルも雑に書かれていて行間やコツが抜け落ちていたりします。

 ・人間関係が悪い
  馬の合わない先輩であったり、意地の悪い上司と当たったりするよくある場合です。
  完全に反目するような関係であれば真剣に転職することも考えるでしょうが、何となく就職した人にとっては踏ん切りがつかず、死んだ魚の目で過ごす可能性が高まります。
   
 ・将来が見えない会社である
  給料が安く昇給の見込みがない、技術力のある先輩が客先に無理難題を言われている、作業環境や設備が貧弱、更新予定もなさそうなど、会社の上役が社員をどのようにみなしているかが透けて見える場合、やる気がなくなります。
  ただし辞めるほどキツくもないのでダラダラと居着いてしまい、飼い殺しの状態になります。
 

 ③法律などを含めた構造的な問題
 ・カジュアルにクビにしたり雇ったりできない(整理解雇がしづらい)
  日本ではよほどのことがない限り正社員をクビにできないため、採用には慎重になりますし、解雇する際は従業員が自ら辞めるよう仕向けるのが会社側の正解の一つになります。

  結果として起こるのがパワハラやイジメ。それを大っぴらにできないところであれば、追い出し部屋や閑職に回すといった人事的不利益です。

  正規・非正規の壁もあり、僕の職場のように半端にコンプライアンスが整っている企業だと、責任・予算、意思決定に係わる仕事は、たとえ不向きであっても正社員のみ、決まりきった定型作業は、正社員並みの能力があっても非正規社員にだけやらせる、というミスマッチがしばしば発生します。
  ITのSierとか地獄絵図が見られて面白いですよ。

  先に引用した朝日新聞の例もこのパターンである可能性がありますね。
  実は労働者派遣法と社内規定に従っているだけの遵法意識の高い上司なのかもしれません。

 ・会社自身が仕事を持っていない
  不況などで会社にあまり仕事が存在しないという場合があります。
  技術革新でそうなる場合もあります。

  「雇用保蔵」という用語があります。会社が労働力を持て余している状態を指します。
  リクルートワークス研究所の調査によれば、雇用保蔵率は2005年には2.1%、リーマンショック後の2010年には8.3%にまで跳ね上がっており、2020年予想でも8.0%とほぼ横ばいです*3。
  会社に来ても仕事そのものがあんまりないのだから、社内ニートになるのもむべなるかな。

  ちなみに、雇用保蔵というのは理想と現実の差からはじき出した推定値です*4。つまり、はっきり社内失業者だとはわからないということです。当たり前ですね。「あなた社内ニートですか」なんて質問したらパワハラになりますから。やはり社内ニートは曖昧。


 以上のように抜きん出た能力を持っている人でも、その能力を正しく理解してくれる上司や同僚がいなければ簡単に仕事はなくなりますし、そもそも会社の中に十分な仕事があるのか?という問題もあります。
 社内ニートは誰にでも起こりうる症状だということをご理解いただきたいと思います。


 3. 社内ニートの行動と心理の推移

 僕が社内ニートに陥ったケースを例に、行動と心理がどのように腐っていくのかを見てみましょう。楽して給料もらってると思われがちだし、実際そのとおりですが、案外しんどいですよ。
 
 ①罹患前
  仕事についたばかりであり、覚えることが多く、毎日を必死で過ごす。

 ②予兆
  仕事に慣れ、周囲や業務を見渡す余裕ができる。
  業務の不合理な内容(無意味に多い検印とか)に気づき、作業環境のショボさに嘆く。RAMが2GBしかないデスクトップPCで作業しろとか冗談だろ。
  必死で作業した技術力のある先輩が客先の無理解に引き裂かれる様を横目で見る。現場上長も目先の予算をつまみたいのか相手にお追従だ。勉強しても、能力を発揮しても、ここはエンジニアの報われる場所ではないことを悟る。

 ③懊悩
  すわここから抜け出そうと考えるものの、職場の居心地自体はよく、労働以外の生計手段を知らないため、転職する勇気もない。かといってやる気を出して仕事を増やしても面倒が増えるだけ。
  一方、現在の仕事内容は多くても午前いっぱいで終わるものであり、退屈そのもの。漸増する暇に呼応するように無力感も増大し、退屈を紛らわすためにとうとうネットサーフィンに手を染める。気が咎め、罪悪感を抱きながら。
  社内ニートの誕生。

 ④罹患後
  ネットサーフィン程度では罪悪感を抱かなくなる。頻繁にトイレに駆け込み、Twitterや私用メールを済ます、職場の敷地を無意味に散歩する、バーの企画を練る。
  バレない程度にやりたい放題。
  しかし、時間だけは拘束されており、仕事をしているふりはする必要があるため、本当にやりたいことには集中できない。次第に不満が募り、健康をも冒されていく。


 4. 社内ニートから抜け出すために

 「ボーアウト 社内ニート症候群」という本によれば、社内ニートを脱出する方法は「見返りを得ること」だそうです。
 具体的にはやりがい、時間、収入の三要素が仕事に関する満足感の主な要素なんだとか*5。
 まず、収入とやりがいについて考えてみます。

 収入は単に金銭の多寡よりも、生活コストを回収できる報酬があるか把握したほうがいいでしょう。
 実家住まいで両親の理解もあり、金のかかる趣味はない、生活投資をする余裕もあるなら構いません。
 将来への漠然とした不安だけで職に執着するのは破滅が加速します。やめましょう。
 問題を具体的に言語化して、有効と思われる方法を実践していくのが大事です。

 次にやりがいです。反駁したくなる労働者諸兄、多そうですね。
 ですが、「興味のある仕事は何か」「自分が面白いと感じる要素は何か」「本当は何をしたいのか」を考えることだと捉えると重要です。
 自分は今の職場(居場所と置き換えても構いません)で満足できているか、自分で理解する必要があります。

 最後に時間です。おそらく社内ニートであれば時間だけは豊富にあるでしょうから有効活用しましょう。
 問題や興味を正確に捉えるためには情報と知識が必要です。調べましょう。
 社内ニートが感じている無力感と退屈に苛まれながら考えるのはきっと気骨が折れるでしょう。ですが一番の問題は、本来面白いものも面白く感じられなくなることです。自分のアンテナ感度が鈍ってしまうのがもっとも怖い。

 就職指南本みたいな語り口になってしまいましたけど、これらは本当に重要なことです。本当に。


 5. それでも社内ニートをしたいなら

 自分の置かれた状況や欲求を理解し、考え抜いた結果、「社内ニートでも構わない」と結論づけられたのであれば、それも一つの判断です。
 よりよい社内ニート生活を続けるために、以下の点を意識してみましょう。

 ・職場の人とコミュニケーションをとろう
  積極的におしゃべりする必要はありません。同僚に会ったら明朗に挨拶をしましょう。何かしてもらったら大げさにお礼を言いましょう。やらかしてしまったら平蜘蛛のように謝りましょう。お土産を配るというのも有効です。魔法の粉がかかったお菓子なんかがおすすめです。
  とにかく敵を作らないのが大事です。あまり良く知らないけどなんとなく感じのいいヤツだよなと思ってもらえればこっちのものです。
  職場の雰囲気がいいことは、つまらない仕事を面白くしてはくれませんが、耐えやすくはしてくれます*6。

 ・社内ニート8つの裏技*7
  おそらくすでに社内ニートの方は使いこなしているでしょうが、先に引用した「ボーアウト」がまとめてくれている方法を列挙します。
  字面で想像できると思いますので解説はしません。

  ①書類でせっせとカムフラージュ
  ②滅私奉公パフォーマンス
  ③短期集中でやっつける
  ④ローラー作戦で引き伸ばす
  ⑤まわりの人の仕事も進まないようにする
  ⑥HOL-仕事を家に持ち帰る
  ⑦「私はバーンアウト」と自己申告
  ⑧意味もなくガタガタ音を立てる
 
 最後になりますが、社内ニートはあくまで一時的な状態であることを忘れずに。機会を見つけて、自分の状態をあらためて考えてみてください。
 自分の本当にやりたいことを、救われることを見つけてください。
 どうかあなたに実り多き人生を。


 ● 参考文献・脚注

*1 有効回答数が801件しかなく、それもエン・ジャパン登録下の企業にしかアンケートを取っていないため、母集団に偏りのある可能性がります。また、どの部署が回答したのか明確ではないため、根拠として説得力があるかどうかは不明であることを念のために注記しておきます。不勉強でごめんなさい。

*2 清武英寿.『切り捨てSONY リストラ部屋は何を奪ったか』 講談社 (2015年) p. 29

*3 リクルートワークス研究所. 2019. 『【2025年予測】 経年推移・シナリオ比較グラフ集』p. 10. 2015年12月25日. 最終アクセス2019年10月31日.? https://www.works-i.com/research/works-report/item/150731_yosokugraph.pdf (リンク先PDF注意)

*4 同上の資料では、「雇用保蔵者とは、企業の業績などから想定される必要な人員と現実の雇用者数を比較して、過剰に雇用していると思われる雇用者のことを指しています」と説明されている。

*5 フィリップ・ロートリン、ペーター・R・ヴェルダー. 『ボーアウト 社内ニート症候群』. 平野卿子(訳) 講談社 (2009年) pp. 141-142
  この本は出典が明記されていないので何を根拠に書いているのかを知りたいところ。

*6 同上. p. 154
*7 同上. pp.39-53

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