介護殺人:追いつめられた家族の告白 スゴ本オフ会用の紹介原稿

 本読みの間では著名なブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の中の人ことDainさんが主催する読書会、通称「スゴ本オフ」に先日参加してきました。

 今回のテーマは「自分に合わない本」、いわゆる「Not for me」な本を紹介するという一風変わった趣向でした。参加者のみなさんが自分の肌に合わない本について軽快なディスを踊らせたプレゼンをする中、僕は介護殺人の本をネタにひたすらシリアスを投擲しました。

 僕が紹介したのは「しんどい気持ちになるのは必定だが目を背けてはいけない」系の本であり、肌に合わないどころか、ある意味自分の気持ちにどストライクな本だったのであります。
 文章を嗜好するくせに会の趣意を微妙に取り違えていて汗顔ですね。

 紹介用原稿も用意しましたが、そこまで肩肘張らなくても問題ありませんでした。せっかくだからnoteの肥やしとして再利用します。

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 皆さんこんにちは。
 神奈川県から参りました、空洞丸と申します。普段はネットワークエンジニアに擬態して社内ニートとして過ごしております。ついでにNEET株式会社の取締役も務めております。

 今回はこちら本をご紹介いたします。
 「介護殺人 追い詰められた家族の告白」

 この本は介護殺人の加害者やケアマネジャーさん、介護施設関係者などへの取材をまとめたものです。
 皆さんは介護殺人を犯した人に対してどんなイメージをお持ちでしょうか。地も涙も通わない酷薄な人物だと思うでしょうか。少なくともこの本に出てくる加害者はそうではありません。

 長年連れ添った糟糠の妻を、力強く頼りがいのあった夫を、大好きだった母親を、自分が守るのだという強い責任感と覚悟で、真剣に取り組んだ果てに、介護殺人という凶行に行き着いてしまったのです。

 とりわけ胸が締め付けられたのは、重い脳性麻痺の40代の息子さんを、お母さんが絞め殺したケースです。障害があっても我が子と思い、40年以上献身的に介護してきました。しかし、息子さんが成長して大きくなる一方で、老いていくお母さんは体力的に厳しくなります。
 食事・洗濯・入浴・1日7,8回のおむつ交換などの身の回りの世話に時間がかかるようになりました。車いすに載せたり降ろしたりするのが辛くなり、腰や膝の痛みに苦しみました。息子さんが布団から這い出てくることがあるので夜もぐっすり眠れません。他人に預けるのが不安で、あまり福祉サービスも利用しませんでした。

 そして、心身ともに追い詰められたある日、息子さんの気持ちよさそうな寝顔を見てこう思いました。

「このまま楽にさせてあげたい」

 そう思って、気がついたら着物の腰ひもを使って、息子さんの首に手をかけていました。40年以上手塩にかけて育てた息子さんを、愛情を込めて絞め殺したのです。残ったのは深い後悔と自責の念でした。

 僕はこの本を図書館で偶然目にして恐る恐る手にとったんですが・・・、声を殺して泣きながら読んでいました。
 介護殺人を犯してしまった人にもっと知識があれば、福祉サービスにもっと頼ることができれば、介護者同士で集まって気持ちを吐露する場を見つけられれば、ケアマネさんにもっと権限があれば、介護保険制度がもっと利用しやすい形であれば、介護関連の技術革新がもっと浸透していれば、世の中の、ハンデを負った人への侮蔑的な意識がもっと薄かったらと思わずにはいられません。

 そして何より、この本に書かれていることは自分にも起こり得た未来なんだと心を切り刻まれるような痛痒を感じました。
 僕自身も、クモ膜下出血で倒れて「高次脳機能障害」という障害を負った父を、母親と一緒に介護しております。今はなんとか安定した生活環境を整えられましたが、過去には手を上げそうになったこともあります。
 その時は「親父の障害についてあまり知らないまま嫌うのはフェアじゃない、ちゃんと理解した上で嫌おう」という理性をなんとか働かせられました。人生最大級のファインプレーだったと思います。

 しかしこれも、父親の症状が比較的軽かった、家の経済状況が比較的余裕があった、父親が僕を殴ったことがない、僕が両親・祖父母から穏やかな形質を受け継いでいるなどいろいろな要因があると思いますが、結局のところ運が良かったとしか言いようがないのです。ほんの少しのボタンの掛け違いで、僕も介護殺人を犯してもおかしくなかったのです。
 将来起こりうるかもしれない、あるいはあったかもしれない未来を直視するのが怖くて、今まで介護系の本にあまり手を出してこなかったのかもしれません。
 今は読みたい本がたくさんあり、たいへん結構なことです。

 介護はある日突然やってくる台風のようなものです。しかし、気象予測技術の発達や過去の事例をもとに備えができるように、介護も制度や情報収集、関係者との連携を行うことで、棺桶への急降下を軟着陸に制御するくらいのことはできると思います。
 例えば、役所の福祉課や地域の包括支援センターなどが最初の窓口になる、介護者は不眠に陥りやすいため、ケアマネさんなど他人の手を借りて自分自身のケアを心がける必要がある、とにかく家の中だけで介護を完結させないなどといったポイントを押さえているだけでもだいぶ違うでしょう。

 正直なところ正視するには堪える一冊です。しかし、介護殺人の犠牲者・・・加害者も被害者もです。彼らの悲痛な営為が、せめてみなさんの生活の中で豊かになる形で活かされることを願ってやみません。

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