じつはハードじゃなくて……

 のっけから宣伝めいて恐縮ですが、昨年の4月、ポプラ社より『ルームメイトと謎解きを』という小説を上梓しました。
 全寮制男子校で発生した殺人事件を同室の凸凹コンビが解決するというお話で、いわゆる「キャラクター小説」的な愉しさも盛りこみました。
 作風自体は私がそれまでに発表してきた作品と全然変わるところがないのですが、ひとつだけ、以前の私の刊行物と決定的に異なっている部分があります。それは「単行本」で出たこと。
 この本よりも前に書いたものはすべて「文庫書き下ろし」の形式で出版していただいていました。

 単行本という言葉を乱暴に説明すれば、「文庫本よりも大きくて表紙の紙がしっかりめで、背表紙や裏表紙のデザインも一冊ごとに異なっているやつ」のことです。
 文庫本は文庫本で、安価で持ち運びやすく、本棚に並べると統一感があって……とたくさん良さがありますが、単行本は単行本で、カバーを外したときのデザインまで凝っているなど、「ならでは」の魅力がたくさんあります。
(ちなみに、『ルームメイトと謎解きを』の担当さんから伺って「なるほど」と思った単行本の良さは、耐久性の高さ。図書館でたくさんの人が読んでも、文庫本よりもずっと壊れにくいのです)

 というわけで。
『ルームメイトと謎解きを』が刊行される前後、家族や友人にこの本の話をするときは「今度の本は単行本で……」と言いがちだったのですが、そのとき知ったのは、「単行本」という言葉は意外と通じにくい、ということです。
 つまり文庫じゃないやつのことで……と説明すると、何人かの人から、
「ああ、ハードカバーってこと?」
 という反応がありました。

 ところが、違うのです。『ルームメイトと謎解きを』はハードカバーではなく、ソフトカバーなのです。
「じつはハードじゃなくてソフトカバーで……」と説明すると、「ソフトカバー」を知らない人も、けっこういました。

「ハードカバー」は、「hard」という英単語が含まれているように、硬いカバーです。おそろしい喩えをしてしまうと、表紙を無理やり折ろうとしてもなかなか折れないのがハードカバー。
 対して「ソフトカバー」は、単行本サイズではあるけれど、表紙の紙はさほど硬くありません。「soft」なので。本を開いて読もうとすると、本文に使われている用紙と同じくらいに表紙も丸く反れます。

 ただ、単行本の種類はこのふたつだけではないので、上記の定義だけでは不十分といえます。日本で流通している単行本だと、他に「仮フランス装」という形式があり、単行本はこの3種類が主流のはず……です。
 すみません、私の造本の知識だとこのあたりが限界なので、正確なところは調べていただければ。

 話を戻すと、「小説の単行本=ハードカバー」と認識している人はけっこう多いらしい、ということです。
 これはべつに、知らないことが駄目という話ではなくて。
 私も世間知らずなもので、興味・関心のある領域を一歩踏み出すと、知らないことだらけです。「ハードカバー」問題にしても、この文章を書きながら、しっかりとした説明ができないことに気づきました。以前、それぞれの本の造り方の違いを編集者さんに教えていただいたこともあるのに……。ちゃんと言えるようにしなきゃ。

「ハードカバー」以外だと、そういえば、ごくたまに「新書」という言葉も誤解されることがあります。
 新書ってつまり「講談社現代新書」とか「ちくま新書」とかの、細長いサイズの書籍のことですね。学術的なことが一般向けにわかりやすく説明されている本や、自己啓発みたいな内容の本が多いかな。
 ですが、ときどき「新書」と言うと、「新刊の書籍」のことだと思われることがあるのです。これもまた、知らないからといってなにも悪いことはなく、そっか、新書と聞くとそう思う人もいるか、という程度の話です。

 しかし、「『単行本=ハードカバー』じゃないんです」ということを言おうとして書き始めた文章なのに、書きながら自分の勉強不足を認識しました。ハードカバー/ソフトカバー/仮フランス装って、じつはもっと詳細な定義があるのですが、とっさに言えない。
 知っているぞ、と思っていても、物事はちゃんと説明できないこともある。だからちゃんと勉強しようね……という教訓を得ました、私自身が。


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