見出し画像

2周年

 きっと二年前の私はもう18日の学校に備えて寝ているだろうし、きっと、そこで何をするか覚悟を決めていたと思う。
 高校の入学祝いで買ってもらったトレンチコート。お洒落に疎い私には、最期を飾る衣装はそれくらいしか思いつかなかった。『最近寒くなってきたから』なんて周りに言い回って、実行に移す前に、少しでも異変に気付いて欲しかった。止めて欲しかった。
 一時間目から移動教室だった。この機会を逃したら多分今日は飛べなくて、これが三年も続いてしまう。
 二時間目、忘れ物をしたと言ってそのまま授業をサボった。体調が悪いから授業を休むとは言わなかった。もう覚悟は決めたから、そんな思わせぶりなことはやめようと、変なプライドがそうさせた。
 特別教室が並ぶ人通りの少ない、別棟の窓にしようと思った。ただ、人通りが少ないせいで、窓の辺りには使われていない机や椅子がバリケードのように積まれていた。まずいと思った。
 音を立てないように、壊さないように、邪魔なものは全て避けて窓の鍵に手をかけた。

声をかけられた。
 
 無視しようか少し迷った。ただ、運の悪いことに私の持病を知っていて、いつも気にかけてくれている先生だった。
 馬鹿みたいな話だけど、私が飛び降りたら彼の立場はどうなるのか考えてしまった。
 どうせここから飛び降りてもしなないだろうと薄々勘づいていた。私の気持ちを考えない親やカウンセラーに自分の気持ちを行動で表そうとしただけだった。
 嫌いな先生だったら迷わず飛び降りて、迷惑をかけようと思ったのに。自分勝手な私のせいで彼が罪悪感を感じてしまったら、責任を擦り付けられたらどうしようかと考えてしまった。
 帰宅してすぐ母親に掛けられた言葉は「飛び降りたら、痛いんだよ。」そんなことわかってるし、その痛みでお前らに私の気持ちをわかってもらえるなら安いものだ。父親に至っては何も言わなかった。恐らく『思春期の娘のすることに父親が首を突っ込んだら良くないってわかってます。』みたいな理解のある父親アピールをしたかったのか、自分に責任はありませんとでも主張したかったのだろう。気色悪い。
 そこから色々と環境が変わった。私は頭がおかしい事を周りに理解してもらえたし、学校も変えてもらえた。勉強が楽しくなった。
 それから2年の時が経ち、私も成人女性として扱われるようになった。戸籍上大人になった。
 それでも希死念慮はまだ消えない。恐らく一生消えないだろう。しぬこと自体が人生の目標になっている。

誕生日おめでとう。
しぬまでにちゃんとしねたらいいね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?