I – 1 自粛生活(Life Voluntarily Refrained)

3周遅れ(A Way Behind)
世界中が新型コロナ感染症の蔓延防止という同じ課題に対して、各国政府はそれぞれ独自の対策を講じている。メディアが各国の新型コロナの感染状況と対策を毎日伝えるので、視聴者は居ながらにして新型コロナウィルス感染症対策の比較ができる。
報道される各国の感染状況は置かれた状況が違うので、対策の巧拙を直接に反映するものではない。収束に向かっていると思える国もあれば、感染爆発が収まらない国もある。対策がうまくいくかいかないかはリーダーの資質に依っているように見える。効果的な対策が取りたくても資金、設備、人材などが十分ではない国もある。
メディアが伝える世界の状況を聞いていると、要請と自粛に頼る日本型対策だけで日本は大丈夫だろうか、収束できるのだろうかと心配せざるを得ない。日本の感染対策には緊張感とスピード感がないように感じられる。
新型コロナウィルス感染症の感染を判定するPCR検査の実施数は諸外国と比べて圧倒的に少ないので、無症状の感染者が市中にどれほどあふれているかわからないし、爆発的な感染が繰り返し起きる可能性が否定できない。いろいろな国の変異株が感染の主体となっている状況はワクチン接種の遅れと相まって大きな懸念となっている。
コロナ感染症に対するワクチンの供給で日本はなぜ遅れているのだろうか。ワクチンの入手時期は外国の製薬会社の製造計画頼みで、入手のために日本が先方に支払う額は少なくとも7,500億円とも言われている。なぜ日本ではコロナワクチンの開発は欧米先進国、あるいはロシアや中国並みに進まないのだろうか。ワクチンの製造国でなくても、早期の接種開始が可能になった国もある。ワクチンの開発と接種の遅れは日本が遅れているのではないだろうかと感じられる理由の一つでもある。
日本の新型コロナ感染症対策が全般的に遅れている理由として、社会運営システムの周回遅れをメディアは報道している。先進諸国や東南アジア諸国と比べて、日本の行政手続きやIT利用の遅れを具体的に報道しているのだ。新型コロナ感染症関係のニュースは、日本の社会運営がもはや先進国とは言えないことを伝えている。
日本型の対策は民度が高いわけでもなく、先進国として最先端を行っているのでもない状況は現実味を帯びてきている。このままでは日本は先進諸国から遅れるばかりで衰退の道を歩むことになってしまうのではないだろうか。
新型ウィルス感染症の対策として呼びかけられている自粛や在宅勤務、テレワーク、リモート授業は現実にはなかなか進んでいない。IT技術の多くの分野で最先端を誇る日本(5Gなどの最先端ではない分野もある)が、なぜ業務のデジタル化の分野で遅れたのだろうか。
IT技術を世界の流れに合わせた形で社会の運営基盤に取り込むには至っていないのは、高度成長期の成功体験が忘れられなくて日本型に固執し続けてきたからではないだろうか。世界に誇ってきたモノづくりの技術を中心とした日本型の延長として、社会システムを運営してきたことが遅れを招いた主原因と断定できる。
行政におけるデジタル化の遅れを認識し社会のデジタル化が叫ばれ始めているが、業務のデジタル化は手段でしかないので、遅れは本当に取り戻せるだろうか。業務の基本を見直して執行手順を基準化し社会で共有することが必要ではないか。作業をデジタル化することは、使い勝手のよい組織を越えた共通の業務執行基準にしなければ意味がない。
伝統的に日本は世界の流れをそのまま導入するのではなく、少し変更を加え日本型として導入してきた。あるいは独自の日本型を新しく開発してきた。しかし、モノづくりの技術を支えてきた技術と技能にも陰りが見えてきているのだ。
優れた品質管理の下で作られた製品は、価格は高くとも価値があるとして支持されてきた。しかし、自動車や電源開発などの分野で世界の流れから遅れ始めているのではないかと危惧され始めているように、多くの製造業は先端ではなくなりつつある。最先端技術を持っていると思われてきた日本の製造業界が後れを取り始めている。
高品質のモノがつくれる技術を持っていることは、日本の社会全体が世界の最先端にあるような錯覚を生んできた。ところが、今回の新型コロナウィルス感染症対策を講じるなかで、日本社会と彼我の差はIT分野の成熟度をはじめ社会の運営システム全体が最先端ではないことが明らかになってきた。
特に、社会運営システムと組織運営でのデジタル化の遅れは、周回遅れというようなものではない。他国のデジタル化された事務処理が普通の社会に比べて、IT活用の面では周回遅れ以上の遅れを実感している。モノづくりの技術(Hard Technique)中心の日本型は、組織運営の技術(Soft Technique)においては世界の流れほどに質の高いものではない。
このように、遅れの実態は欧米先進諸国に限らずヨーロッパの小国や東南アジアの国や地域に比べて、少なくとも3周(30年)は遅れている。新型ウィルス感染症蔓延の下で日本の政治、経済、社会の組織運営システムはどれをとっても先進国はおろか、東南アジア諸国と比較しても3周遅れといわざるを得ない状況にあるのだ。
3周遅れの本当の理由は、日本の社会運営システムの質の劣化が遅れを招いた原因といえる。一つ目は技術大国日本の品質管理業務の劣化で、作業の複雑化に追いつかない業務執行が品質管理業務の劣化を招いている。二つ目はあいまいな運営規則の乏しい倫理観による組織運営にある。法律を犯すか犯さないかが倫理の境目の伝統的な組織運営が遅れの原因といえる。品質管理の劣化と拙い組織運営の結果として、日本の信頼性が揺らぎ3周遅れの日本を招いている。

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