I – 3 遅れの原因(Reasons for Delay)

透明性の欠如(Lack of Transparency)
新型コロナウィルス感染症の蔓延は、新型コロナウィルスと共生するという新しい条件の下での生活様式を考えて社会運営システムを見直し、見直した業務執行の様式を導入するまたとない機会といえる。見直しの第一歩は組織運営の透明性の確保だ。
日本社会を運営している組織の透明性は諸外国と比較して高いとは言えない。組織運営の透明性が高くないのは、情報が十分に開示されていないからだ。結果として、日本の組織は十分に信頼されていない。情報開示に疑問があり透明性を欠く状況が組織運営の信用を無くしている原因となっている。
運転免許や健康保険などの情報をID カードで一元管理すれば、社会生活が便利になるだろうことは想像に難くない。しかし、日本版IDカードの普及が進まない理由の一つとして、個人情報を信用ない組織に管理されると何をされるかわからないということへの心配がある。昨今の情報取り扱いにおける透明性の欠如は3周遅れの日本を招いている一因なのだ。
それぞれの立場をわきまえて忖度しながら組織を運営するということは、運営実態を外へ見せない、つまり情報を開示しないことと同じといえる。組織内だけに通じる論理に浸っているのは、責任者も構成員も「今のままが気持ちいいので、今が続くことだけを願う生活」を夢見ているようなものだ。毎日の生活は自分達には気持ちがいいが、気が付くとどうにもならない状況になっている「ゆでガエル」と同じ状態といえる。
国内だけに目を向け世界の状況を見ないで今のままがいいという生活を続けてきたために、世界からこれほど遅れていることに気がつかなかったのだ。組織の透明性欠如は3周遅れの今を招いた大きな原因だ。
組織の運営に透明性を欠いている組織では責任者が嘘をついていてもわからない。後になって責任者の言葉がウソであったことがわかっても、責任者が何を語ろうとも言論の自由だから法律さえ犯さなければなにを話しても許されるといった風潮がある。
しかし、法律を犯しているかもしれないことを問題なしとして説明するのは組織の信用を無くす行為だ。嘘も方便で責任者がすべてを語らないことはすべてが悪いとは言い切れないし、ウソでもいいから今の生活は変えないでほしいという雰囲気もある。しかし、道義的責任があるのにもかかわらず、法を犯したわけではないからというのはウソをついてもいいという理由にはならない。責任者が嘘をつく組織は信用を無くし、信用されない責任者が国際社会で対等の交渉をすることは期待できない。
3周遅れを取り戻すには失った組織の信用を取り戻すことから始まる。組織の運営と責任者が信頼できることを証明する必要がある。信頼を取り戻すためには組織の運営にかかわる情報の公開が必須だ。情報を公開して組織運営の透明性を図ることが組織の信用を得る唯一の手段だ。
組織がその運営の信用を得るためには、どのように組織を運営してきたかを示す組織運営の過程と、どのように物事を決定してきたかを示す組織決定の過程を公表する必要がある。第三者が組織運営の記録を検証して信用できるものであることが証明できれば組織の信頼を取り戻すことができる。
情報公開の規則は情報公開の範囲を第三者の検証に合わせて修正し続けることが必要だ。情報公開が十分ではなければ組織運営の透明性が確保できないので、計画の立て方に限度があり想定の幅が狭くなる。想定の幅が狭くなるということは、業務がうまくいったときの想定結果とうまくいかなかったときの結果が合理的に想定できないということを意味する。
将来の業務の目的達成が合理的に想定できないということは、業務がどのような過程を経て結果に至ったのかの過程を検証できないことだ。業務が合理的に検証できないと、組織は信用されなくなる。組織に信頼がおけないのは組織の業務運営の内容が保証されていないからといえ、組織運営の内容が第三者に対して公表されていないことから生じている。
3周遅れの日本に今、最も求められていることは、組織の信頼を取り戻すことだ。信頼を取り戻すためには組織運営の内容を公表し、公正な運営がなされていることを証明する必要がある。公正な組織運営内容を証明するためには、組織運営過程の一コマ一コマを記録して残すことから始まる。

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