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モノマネの終点に辿り着いてしまった男

モノマネの歴史は古く、時は紀元前。元来は(中略)

ハリウッドザコシショウってすごいな、という話と、もはやモノマネというジャンルの到達点が見えてしまったのではないか、という雑記です。

一年前にも触れていました。我ながら何言ってんだこいつ

テーマ1 モノマネのどこに笑うのか

私はモノマネで滅多に笑いません。嫌いなわけではない…はずです。似てる、上手いモノマネを見て「よく特徴を捉えているなぁ」と感心はするのですが、面白さや笑いに繋がるという感覚がよくわかっていませんでした。上手いけど…何?と。

これは私の感覚がズレているのかもしれませんが、周囲が笑っているからなんとなく合わせているだけで面白いと思っていない人も多いんじゃないですか?(突然の踏み込み

たけしのモノマネさせて何か面白いんですか?(縮地

コロッケ氏の『特徴を誇張したモノマネ』を初めて見た時、笑うのはこういう方向か、と納得した記憶があります。壊れたロボット、目が逝っちゃってる、呂律が回っていない、etc

コロッケ本人が「これはモノマネではなく、おかしい人の発作だと思って欲しい」と静かに語っていました。モノマネ芸人としての矜持がそのひと言に込められていて、カッコいいと感じました。同時に、私は面白い発作を見て笑ったのかと実感しました。

そしてその後、発作どころかモノマネの怪物と出会うことになる。ハリウッドザコシショウ。その衝撃は大きかった。

コンビでは無くソロとして初めて見たネタが何だったか忘れてしまいましたたが、アシュラマンの頃はまだ「モノマネ芸人」として認識していました。チープな工作と大きい声、アシュラマンの特徴を捉えたセリフ回し。隠れゆでたまごファンの私も納得のクオリティでした。アシュラ魚雷に対するキン肉地雷のスッキリしなさ、よくわかります(何?

頭角を表し(?)気がついた時には、モノマネを超えた何かになっていました。誇張とか、似ているとか、そんな尺度は通用しない世界の生き物になっていた。


テーマ2 出力の怪物

例えば古畑任三郎の特徴的な喋り方を真似することはあっても、「ハンマーカンマー」を連呼する、という形にはなかなか行き着かない。

半沢直樹のマネをする時に、何かが壊れていなければ「ピピピピピピピピ……ピィ〜ーピピピピピピピッ!!」 とは言わない。

福山雅治のマネをする人間が、謎のおもちゃを身につけて高速で瞬きを連打し、「あ」とは言わない。その風貌は弾幕ゲーのボスだ。体力が高くてなかなか死なないやつ。おもちゃの瞳の奥、本人のかっぴらいた目ん玉とこちらの目があった時、あぁこの人はマジなんだなと畏怖を覚えました。

こっちから見えないんだから目をそんなに開かなくていいじゃん、とか、もう誇張じゃなくて嘘じゃんとか、野暮なツッコミは瞳に呑まれました。啓蒙が高かったら発狂するんじゃないでしょうか。ブラッドボーンの人攫いより圧を感じました。


比較用 ブラッドボーンの人さらい君 フィジカルが強い


ブラッドボーンにこいつが出てきたらまず迂回すると思う。圧が違う。

仮にこのネタを思いついたとしても、なかなか実行に移せない。彼は真摯にやり続けます。そして恐ろしい事に、改良を重ねます。エヴァンゲリオンの真の主役、碇チンボウのネタを見ると分かりやすいですが、どんどんバリエーションが増えて「エバーに乗せようとする親父」から「酒が飲みたいだけの距離感がおかしい不審者」になっています。シン・エヴァンゲリオンです。こんな父親ならシンジ君はもっと早い段階で自立できたかもしれません。

奇行にしか見えないのに、ネタに真剣に向き合ってブラッシュアップし続ける。そして12年前から(!?)YouTubeに動画を上げ続けている。その真面目さが今の彼を作っていると思うと恐ろしいです。パワーが怪物なのではなく、出力し続ける事、の怪物だったのです。


テーマ3 モンスターマシンで、正しくブレーキを踏めるか


彼を語る上で外せない存在、Rー1グランプリ……そう、野々村竜太郎元議員です。


過去に書いてました。我ながら何言ってるんだろう

私は今でも野々村竜太郎元議員のファンです。まさに暴力的な面白さ。オモロの怪物です。コシショウさんは、このモンスターの面白さを見事に乗りこなして見せたのです。ただ竜ちゃんのマネをするだけでは優勝はなかったでしょう。そこに己の積み重ねを乗せることができた。

そしてコシショウさんのネタは、さらに磨かれていきます。時事ネタシリーズというモンスターマシンを乗りこなし始めます


誤解を恐れず言いますが、素材が面白すぎる。レギュレーションギリギリです。プラズマダッシュモーター、王将モーターみたいな奴らです。公式レースでは反則とされています。

素材が面白いんだからモノマネも面白くなるかというと難しい所です。仮に、高クオリティの松居一代のモノマネをする人が突然現れて「おかあちゃん…おかちゃん…!」と電話するネタをやったとして、笑いが起きるでしょうか?

「えっあなたそれネタにして大丈夫なの?」という妙な空気が流れると思います。

そして注目すべきは、そんなに誇張していないというか元ネタの方がヤバい という点でしょう。コシショウさんといえばアクセル全開誇張全開で奇行をする人というイメージが強いでしょうが、実は静かで丁寧なモノマネもできます。今回のように、素材がモンスターの時は誇張する必要はないんです。添えるだけ。

お題フリップを捲って、松居一代の名前が出て拍手が起きるのはコシショウさんだけじゃないでしょうか?ついにやりやがった!待ってました!と笑っても良い空気、実績を作った彼の独壇場です。

みんな内心面白いと思いつつも、触れちゃいけないんだろうな、笑っちゃいけないんだろうな…というラインを、彼は駆け抜けたのです。


漫画、湾岸ミッドナイトでポルシェに乗る金持ちが「早く走れるのは、アクセルを踏む奴ではなく正しくブレーキを踏める奴だ」という旨を語っていました。まさにコシショウさんはそれです。下手したらスピンしそうなモンスターマシンに乗り、正しくブレーキを踏んでいる。アクセル全開では辿り着けない見事な走法です。

まとめ モノマネの終点説

特徴を誇張する、しないとか、似てる、似てないという尺度を超越してしまったコシショウさん。彼を見た後だと、他のモノマネ芸が物足りなく感じてしまいます。さんまに似てるからなんなの?美空ひばりと歌い方がソックリだからどうしたの?と。

AI美空ひばり!って言いながら歌いつつ回転ノコギリ状に変形して観客全員の首を刎ねてそのまま会場の外へ出て行くような迫力が無いと見ていられません。

もし貴方が、モノマネの精度を上げることが芸になると思って練習しているのであれば、一度考え直してみた方が良いのかもしれません。似ていたとして、笑いを取れるのでしょうか。或いは、模倣して感動を与えられるのでしょうか……その先に何があるのでしょうか。

もはや何でもアリの状態なのにブラッシュアップを続け、謎のグッズを使いこなすのが上手くなっていくコシショウさん。彼も永遠ではないでしょう。芸に終わり無し、深い世界です。



そんなわけで、私はこれからもお笑い界の史上最強生物、リアル範馬勇次郎こと野々村竜太郎元議員を応援しています。




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