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『空想科学「理科」読本』は、柳田理科雄が「教えたい心」を全開にした本!

柳田理科雄と『空想科学読本』を作るようになって25年経つが、一貫して2人の考えが合わないところがある。それは「科学的な内容を、どこまで理解してもらえる原稿にするか」という点。

僕は「いちばん大切なのは、理科は面白いと思ってもらうこと。理解させようと説明しすぎると、読者は途中で読むのをやめる」と思っている。周囲の理科アレルギーの人々を見ていると、「説明はほどほどにしないと、理科嫌いを増やしてしまう」とさえ思う(僕自身も理科が苦手なのだ)。
一方、柳田は「理科が面白いのは当然」と思っている。「だからこそ、きちんと説明したい。科学的なことが理解できれば、原稿も楽しめるようになるし、マンガやアニメへの理解も深まる」と主張する。そもそも彼は、学習塾の講師を務めていた期間が長くて、「教えたくてたまらない」のだ。

25年いっしょにやってきても、お互いの考えは変わらない。
その結果、毎回の原稿は、まず柳田が説明をいっぱい盛り込んだ第一稿を書いてきて、僕が「こんなに説明されたら、よほど理科が得意な人じゃないと、途中で脱落する」と反対し…という作り方になる。原稿のキャッチボールをしながら、説明を削る一方で、エンタメ要素を増やしていって「最低限の説明がありながらも、楽しく読める」というバランスを探る。
意外と手間のかかることをやっているのだ。笑

こんな感じで25年間やってきた。どちらかの考えが正しい…というわけではないだろうから、これはもう「スタイル」というほかない。
ところが、なかには例外があって、僕がまったく口を出さず、柳田が「教えたい心」を全開にして作った本がある。
このたび青い鳥文庫で刊行された『空想科学「理科」読本』の2冊(『エネルギー・地球編』と『粒子・生命編』)がそれ。もともとは2015年に大和書房から刊行された『学校では教えてくれない!空想科学「理科」読本』に加筆し、二分冊したものだが、これはハッキリと「中学1年の理科がわかる」ことを目指して作られた本である。

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理解が目的なのだから、僕は口を出さないことにして、柳田が「教えたい」「理解してもらいたい」という気持ちに沿って、のびのび作ったものだ。今回の青い鳥文庫化に際しても、僕がイメージを伝えたのは表紙だけで、内容には一切タッチしていない。
もちろん「空想科学」なのだから、マンガやアニメを入口にしているし、できるだけ楽しめる要素を盛り込んでいる。ある意味、柳田にとって理想的な本なのだと思う。

この本には、微妙にオモシロイ点がある。
企画の趣旨ゆえ仕方がないのだが、中1の理科要素をすべてマンガやアニメで説明するのは大変であり、ちょうどよい題材を探した結果、やたら古い作品を持ち出すしかなくなったりしているのだ。
たとえば、地学のパートに『サンダーマスク』や『仮面ライダーアマゾン』などが登場する。いまの中学1年生が決して知らないであらう作品で(われわれの世代にとってさえ、マイナーな作品!)彼らは「地層」を理解するために、まずは『サンダーマスク』を理解しなければならない! それはそれで楽しいと思うけど、この本を買った中学一年生がどう感じているのか、実際の感想を聞いてみたい…。

とはいえ、空想科学研究所の本のなかでも、真正面から「理科の勉強を教える」本は珍しい。僕の横槍が入っておらず、柳田節がストレートに炸裂している本でもあるので、興味ある方はぜひご一読を。小6〜中2くらいの人はもちろん、中1理科をやり直してみたいすべての人にオススメです。

【文/空想科学研究所所長 近藤隆史】

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