使えない千円札
消去できないメール、捨てられない手紙、そういうモノがありませんか?
僕の場合は千円札です。
僕には「ダッコのおばちゃん」という叔母がいまして、小さい頃からとにかくダッコをしてくれるので僕はこう呼んでいました。
僕が成長して高学年になってもおばさんは膝の上に乗せて成長を確認したいと言ってダッコをしてくるのが恥ずかしくなってもやはり大好きな存在でした。
そんな「ダッコのおばちゃん」がいつも別れ際に「お母さんに内緒」と言って四つ折りにした千円札を僕の手のひらに包み込むようにわたしてくれるのです、自分の手のひらの中にある几帳面に折られた新品の千円札はおばさんの人柄が出ていて今でも楽しい光景として覚えています。
僕も進学して部活やバンドなど自分の好きな事に時間を使う様に多くなり「ダッコのおばちゃん」と会う機会もなくなり、久しぶりにあったのが高3の時でした。おばさんは僕が住む街の市立病院に転院してきたのです。
おばさんは割と元気そうで調子がいい時は週末に僕の家に外泊しにきていて
「賑やかな時間が続けばいいな」くらいに思っていました。
ある日、学校が終わったら病院にくるようにと母親に言われたので僕は放課後に病院に向いました。
病室に入るとおばさんの子供たちや僕の母親がいて「こうちゃん、こっちにきてあげて」と呼ばれ
枕元に行くと、いろんな管がつけられて話す事もできない「ダッコのおばちゃん」がいて、固く結んだ左手を僕に差し出しました。
「受けとってあげて朝から用意して待ってたの」と周りに言われて僕がおばさんの手のひらを開くと
そこには四つ折りになったシワシワの千円札がありました。
どれだけまっていたんだろう、
なんでもっと見舞いに来なかったんだろう、
なんで家族がおばさんの家に行く時について行かなかったんだろう
人生で感じた事のない種類の後悔をしたのを覚えています。
いまでもその千円札は僕の机の貯金箱に四つ折りのまま入れてあって、僕は実家に帰るとお札を手にとる事があります。
いろんな気持ちがあるんですけど
使ってしまったら「ダッコのおばちゃん」がいなくなってしまう気がするからなんだと思います。
おばさんはサッサと好きな物に使ってほしかったのかもしれないんですが。
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