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迎え火

僕は幼稚園から小学校の3年生までの5年間稚内という街に住んでいました
稚内は日本最北端の街で有名ですが、僕が住んでいた頃はまだまだ田舎でした

遊びといえば近くの川で魚を捕ったり、廃材置き場で遊んでいて古釘を踏んで点滴をされたり、とにかく自然の中で遊んでいたわけです。
父さんが海上保安官だったので公務員住宅に住んでいて遊ぶ仲間もその町内の子供ばかりでした。

夏休みの終わり頃、明け方に目を開けると父さんが仕事着に着替えていました
仕事柄こういう急な出動はよくあったので僕はあまり気にせずそのまま寝てしまったのですが
いつもよりだいぶ早くに姉ちゃんに
「母さんが散歩にいくって」と起こされました、
母さんはたまに僕と姉ちゃんを散歩に誘い、帰り道に焼きたてのパンを買って帰るのが定番でした。
行き先はだいたいバスのロータリー、そこから先に行くと「坂の下」の海岸線が見えてきます。
「坂の下」は本当の地名でまさに坂の下にあり海岸線がきれいな漁師町でした。
海岸線に火が焚かれているのが見えて僕はキレイだなぁくらいに思っていました。

周りをみると町内の人が何人かいてFくんのお父さんが昨日釣りに出たまま帰ってきていないという事を聞きました、Fくんは同じ公務員住宅の仲間で学年は一つ下だけどいつも遊んでいました。
母さんはFくんの事はなにも言わずそのままいつもの散歩のように帰ってきました。
Fくんのお父さんはそのまま亡くなり新学期になってもFくんは学校には来ていませんでした。ある日の夕方にFくんとお母さんが転校の挨拶に来ました、
紙袋に入った鉛筆と消しゴムのセットを受け取って「バイバイ」くらいしか話せなかった気がします。

あの当時一つだけ気になった事があって
僕とFくんが家の近くで遊んでいた時にFくんのお父さんが車で通りかかって
「買い物にいくから一緒においで」ってFくんを誘ったんだけどFくんは「遊んでる」って断ったんです。でもその日の夜にFくんのお父さんは釣りにいったんですよね、あの時買い物に行っていたら、そんな心残りはなかったのかなとか。
一緒に買い物に行っていたとしても心残りはあるにきまってるんですけどね、

迎え火は行方がわからなくなった人の魂が迷わず陸に帰って来れるようにと照らす灯り、そこにはたくさんの願いや祈りが込められているんでしょう。

その時の思いがあっていまだに「ただいま、おかえり、おはよう、おやすみ」そんな言葉を一回でも多く伝えようとする習慣がつきました。

ちなみにこの時同じクラスだったスギモト君が20年後カスバーツで一緒にプレイする事になります
偶然って面白いものです。

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