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スカイ・クローザー

  昔から、空を見上げるのが好きだった。

 暑い時も寒い時も、歩いてる時も立ち止まっている時も。ガキの頃は暇さえあれば、私は空を見つめていた。何を見ているのか、と大人によく聞かれたが、あまりはっきりと答えたことはない。自分でもよく分からないからだ。鳥とか雲とか星とか、その場で目についたものを何となく見つめているだけで、特に目的なんてないのだ。

「またぼーっとしてる」

 おかしそうに笑う声で指摘され、私は視線を地表に戻した。腰掛けているボロボロのベンチから数歩先、ちんまりとした女がこっちをみて微笑んでいる。物心ついた時から、ずっと見てきた顔だ。

「悪いかよ」
「悪いなんて言ってないじゃん?」

 いつものようにやり合いながら、サヤはひと時も手を休めない。ちょこまかと動きながら、ビルの屋上にこさえた農園からじゃがいもを掘り起こしている。

「シノ、昔から変わんないなーって。子どもの頃も、暇さえあれば雲とか見てたよね」
「悪かったな、ガキのままでよ」

 くっちゃべってる間に、メッセージ受信のアラートが電脳に響く。さらりと流し見すると、私は何気ないふりを装いながら立ち上がった。
 胸の前にストラップで吊るしたアサルトライフルがガチャリと音を立てる。それだけで、サヤは顔を曇らせた。

「仕事?」
「ああ」
「ちゃんと帰ってきてね」
「当たり前だろ」

 振り返らず言い残して、私はボロボロになったコンクリートの階段を降りていく。

「バカバカしい」

 メッセージの内容を見直しながら、思わずそう呟いていた。

『人探しをしている。羽の生えた女だ』

 クソみたいな金持ちが、またくだらない遺伝子操作愛玩動物ジーンペットを創りやがって。
 私は装備をチェックしながらどんどんと下に、下に降りていく。

 人間に羽を生やしたところで、どうせ空を翔べはしないのに。

〈続く〉

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