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エスパーコントロール・デッキガイド by 井川 良彦

(※3/20 サイドボーディングや、今MTGAで使っているリストなど追記しました。詳しくは目次をご覧ください。)

 皆さんこんにちは。井川 良彦です。

 ご存知の方も多いかと思いますが、先日開催されたミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019にて、準優勝という好成績を残すことができました!

(マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイトより引用)

 自身2回目のプロツアーだったプロツアー・サンディエゴ2010でトップ8入賞をしてから9年。再び栄光の日曜日にたどりつけたこと、そして本当に多くの方からご声援をいただけたことをとても嬉しく思います。


 Hareruya Prosを脱退してから筆不精になっていましたが、"今回書かなくていつ書くねん!"ってことで、久しぶりにこうして記事を書くことにしました。今月末には同じ環境で開催されるマジックフェスト・京都2019もありますし、少しでも参考になれば幸いです。


1. デッキ選択の経緯


 昨年同様、チーム曲者のメンバーたちと一緒に調整を行いました(シーズン開始時にPTの権利が担保できていなかったので、チームシリーズには加入していませんが、昨シーズンから引き続き調整メンバーの一員として参加させていただいています)。プレイテストを行った結果、ミシックチャンピオンシップ(以下MC)直前での各アーキタイプの感想は以下の通り。

☆スゥルタイ・ミッドレンジ

 「アグロには《野茂み歩き》、ミッドレンジには《ハイドロイド混成体》」などデッキ構造ではなく単体のカードで他アーキタイプに対抗しているため、引きムラが激しくメインボードが弱い。サイドボード後は相手に合わせて最適化されるものの、大幅に有利な相手も少なく選択する利点は少ないというのが個人的な印象(すべての相手に4.5~5.5)。ただし直前のGPメンフィスでもトップメタ&前回のPTで人気があったので、メタゲーム的には上位。

☆青単テンポ

 GPメンフィスで大活躍。《プテラマンダー》《本質の把握》が入ったことによりデッキが2回りほど強くなったこと、MTG ArenaでAlexander Hayneが勝ちまくったことにより一気に環境のトップメタまで駆け上がった。MCではメタられる側になることが予想されるが、環境屈指のハメパターンがあるので上位に残ると予想。

☆エスパーコントロール

 GPメンフィスではトップ8に残らなかったものの、トップ32には複数入賞していた(参考:イゼ速)。《運命のきずな》デッキにはほぼ勝てないが、それ以外のデッキには安定して戦え、チームでの調整スプレッドシートでは最も成績が良かった。アグロを意識して除去を増やすとミラーやコンボに弱くなり、カウンターを増やすとアグロに弱くなるため、メタを意識した構築が重要。

☆白単アグロ(タッチ青含む)

 青単テンポ、イゼットドレイクといったデッキへのメタデッキとして急浮上しているが、デッキの地力を感じない。使っても当たってても弱く感じる。苦手な赤系=《ゴブリンの鎖回し》がGPメンフィスで台頭してきたのもマイナス。

☆シミックネクサス

 GPメンフィスで大活躍した原根さん・市川さんのリストは非常に洗練されており、メインボードの勝率は圧巻。MCでもある程度人気のアーキタイプになると予想。しかし彼ら曰く「単色デッキに不利、2色以上に有利」とのことなので、青単/白単/赤単が一定以上いるであろうMCでは勝ち組になりづらそう。


☆ラクドス/グルール・ミッドレンジ

 GPメンフィスで注目を集める。これらのデッキは青単/白単といったアグロに強く、ネクサス系やエスパーコントロール、ゲートなどに弱いため、メタゲーム的なポジションはエスパーコントロールの下位互換という認識。

 上記のような認識=「全部のデッキに勝てるデッキは存在しない (どのデッキにも天敵/裏目が存在しうる)」という考えだったので、最終的にもっとも手ごたえ/勝率が良く、「シミックネクサスにさえ目を瞑ればエスパーコントロールがベストデッキ」という判断のもと、今回のMCで井川・中村・井上の3人はエスパーコントロールを使うことにしました。

 基本的には何かのデッキを切る(捨てる)といった選択は望ましくないのですが、構築ラウンドを全勝する必要はない=ネクサス以外にほとんど負けなければ8-2~7-3の成績を残せるだろう、という考えでした。実際のMC本戦では、不運にもネクサスに4回(!!)当たってしまった中村さんは4-6と悲しい結果に終わりましたが、井上さんは7-3(門ネクサスに2-0、シミックネクサスは0回)、僕は7-2-1(予選ではシミックネクサス0回、準々決勝でシミックネクサスに勝利)と当たり運の良さもあり上々の成績で終わることができました。

2. カード選択と枚数について

 エスパーコントロールに手応えを感じた2月初頭から、成績優秀デッキとして公開されたデッキリストを網羅して観測し、リストごとの差異や傾向を調査していました(【Esper Analysis】を参照)。 こうしてデータとしてまとめる利点として、(1).デッキリストの変遷によりメタゲームの動きを感じ取れること、(2).個人の感覚で話すのをなるべく避け、データを見ながら論理的に話せること、(3).意外なカードの採用を見落とさないようにできることが挙げられます。

 エスパーコントロールは「除去とカウンターで盤面を捌き、ドローでアドバンテージ差を付け、最終的には《ドミナリアの英雄、テフェリー》の奥義で勝利する」デッキであることは全リストが共通ですが、そこに至る道筋、カード選択は千差万別です。

 それでは実際にMCで使用したデッキリストを、解説していきたいと思います。

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[ エスパーコントロール - 井川 良彦]
ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019 (準優勝)
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1 《島》
1 《沼》
4 《神聖なる泉》
4 《神無き祭殿》
4 《湿った墓》
4 《氷河の城砦》
4 《孤立した礼拝堂》
4 《水没した地下墓地》
  -土地 (26)-
4 《思考消去》
3 《喪心》
1 《渇望の時》
1 《否認》
3 《吸収》
3 《屈辱》
2 《肉儀場の叫び》
3 《薬術師の眼識》
3 《ヴラスカの侮辱》
3 《ケイヤの怒り》
2 《アズカンタの探索》
1 《最古再誕》
1 《ウルザの後継、カーン》
4 《ドミナリアの英雄、テフェリー》
 -呪文 (34)-

4 《正気泥棒》
3 《人質取り》
2 《黎明をもたらす者ライラ》
2 《強迫》
1 《否認》
1 《渇望の時》
1 《最古再誕》
1 《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》
 -サイドボード (15)-


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・2マナ除去の枚数

 統計上、合計3-4枚採用されているスロット。《喪心》の方が高いマナ域
まで当たるため基本的には強力で、特にイゼットドレイクとのマッチアップではその差が顕著になります。《渇望の時》はライフゲインが赤単をはじめとするアグロに嬉しいというのもありますが、一番の採用理由は《喪心》《屈辱》《ケイヤの怒り》で対処できない《アダントの先兵》への対抗策です。

 先述の【Esper Analysis】を見ていただいても分かる通り、従来のエスパーは《喪心》:《渇望の時》は2:2もしくは1:2というバランスで採用していましたが、僕達はメインに《肉儀場の叫び》を採用することで青単/白単へのガードを上げるとともに《アダントの先兵》への対抗枚数を担保し、その分《喪心》の枚数を確保することができました。-2/-2系に寄せすぎると《ベナリアの軍司令》や《ゴブリンの鎖回し》、また"順応"後の《プテラマンダー》相手に苦戦することになるので、このバランスがベストだったと考えています。


・カウンターの枚数

 まず《吸収》について。僕はこのカードがエスパーコントロールの中で一番弱いカードだと考えています。もちろん最初は完コピからスタートしたので《吸収》4枚で回していましたが、「3ターン目にプレイできないことが多々ある」「3ゲイン付きとは言え所詮は《取り消し》なので、弱いマッチアップはトコトン弱い」ことに気付きました。特に後攻で2枚引いたときの勝率の低下は顕著だったため、中盤~終盤に1枚打てればいいカード、序盤に2枚引きたくないカードであると認識を改め、4枚⇒3枚に減らすことにしました。ただし、《アズカンタの探索》で蓋がしにくくなったり、ミラーマッチ・ネクサス・スゥルタイ・赤単への勝率が下がるので、デッキで一番弱いカードとはいえ0枚になることもないと考えています。

 そして《否認》についてですが、ミラーマッチやネクサス、スゥルタイ相手メインボード戦でも活躍しますし、サイド枠の削減のためにも2枚程度採用されているのが一般的です。ですがチーム内で話し合った結果、前日に2枚⇒1枚に減らすことに決断しました。それはシミックネクサスにはどうせ勝てないので、その分他のデッキへのガードを上げようという判断があったからです。このスロットは《肉儀場の叫び》の2枚目になり、MC本戦でも大活躍することとなりました。

・全体除去の枚数


 エスパーコントロールが環境に現れたタイミングでは、ほぼすべてのリストが《ケイヤの怒り》4枚に統一されていました。数年ぶりに帰ってきた4マナの全体除去は本当に強力で、アグロ相手の勝率はこのカードが担保しているといっても過言ではありません。ですが、「白白黒黒」というマナ拘束の強さは半端ではなく、構築に制限をかける上に4ターン目に撃てないことも多々あります。環境初期はそれほど速いビートダウンが多くなかったので、《ケイヤの怒り》を4ターン目に撃つ必然性が低い盤面も多く、そこまで不都合を感じることはありませんでした。

 しかし環境が進むにつれ台頭してきた青単・白単はラグを許してくれず、さらには4ターン目での全体除去では(特に後攻では)間に合わない盤面も多くなってきました。そこで白羽の矢が立ったのが《肉儀場の叫び》です。

 対青単では、こちらが確定除去が多数採用されているので《大嵐のジン》を過信せず、細かいクリーチャーたちを《呪文貫き》《潜水》でバックアップするプランをとってくることが多いです。そのため、-2/-2修正でも十分《神の怒り》として機能する盤面が多く頼りになります。《呪文貫き》をケアしたい都合上、《ケイヤの怒り》より1マナ軽いのが嬉しいです。

 対白単では、《喪心》《ケイヤの怒り》では対処できない《アダントの先兵》を倒しつつ、《徴税人》を後腐れなく追放できるので最も効果的な全体除去といえます。

 強力ではあるもののマナベースに不安があり、かつ環境的に少し重くなってきた《ケイヤの怒り》を3枚に減らし、環境的に強くなってきた《肉儀場の叫び》を少量採用する、というのが直近のエスパーコントロールに見受けられた変化でしたので、その時流に乗って僕達もこの枚数バランスに落ち着くこととなりました。余談ではありますが、MC直前にMagic Online上でイゼットフェニックスが増えていたのはこの変更にとって追い風となりました。MC準決勝・Luis Scott-Vargas戦でも《肉儀場の叫び》のおかげでメインボード2戦を勝利することができましたしね。

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