ドラムはじめて物語〜その④〜

(前回のあらすじ)
プロ指向のバンドに加入したものの、一年足らずであっけなくクビになってしまった。さてバンドがなくなったさおり、どうする!?

転んでもただでは起きないさおり、翌日から早速新しいバンド探しに精をだした。

あの頃はまだYouTubeもなければスマホもない。頼りは電話機能だけのガラケー。

相手の音を聴くにはカセットテープを送ってもらうか、いちいち会いに行くというアナログなやり方しかなかった。

さおりは手書きで作った「ドラムで加入希望」のチラシをあらゆるスタジオに貼りまくり、雑誌のメン募にも載せた。

その甲斐もあってか、我が家には物凄い数のデモテープが届いた。いかにドラマー人口が少ないかと言うことが分かる。

届いたテープを片っ端から聴いて
「曲は良いんだけど歌がイマイチねぇ」と、1人審査員を繰り広げる日々(何様)

正直、どんな音楽がやりたいのか自分でもよく分かっていなかったが、

●メロディーがキャッチーなビートもの
●ボーカルは絶対に上手い人

と、この条件だけに絞って探していた。

自分の下手くそドラムは棚にあげて言わせてもらうが、求めている魅力的なボーカリストがなかなか見つからなかった。

前のバンドをクビになってから一年間、ひたすらバンド探しに明け暮れる毎日。

色んなバンドと会って、デモテープをもらったり、スタジオに入ったり…
50人ぐらいの人と会った。
もうほぼ執念。

そしてなんとか見つけた二つのバンドに加入し、掛け持ちでしばらく頑張ってみるものの、やはり自分の求めているものとは違うと感じ半年ほどで脱退。

ああ…またバンドがなくなっちゃった。
そしてさおりは自分に誓った。

今度は「とりあえず」な感じでバンドに加入するのはやめよう。
自分がこれだ!と思うバンドに出会うまで妥協せず探し続けよう、と。

そんなある日、とあるバンドとの出会いがあった。
スタジオに貼ったさおりのメン募を見て電話をかけてきてくれたギターさん。

彼のバンドは女性ボーカルでポップなロックをやっていてもうすぐドラマーが脱退するので次のドラマーを探していると…。
そして、3日後にライブがあるから見にこないか?と…。

そりゃもう行きますよ!

相手「でね、場所なんだけどコマ劇場の近くに…新宿リキッドルームってのがあって…」

と彼は説明を始める。

ああ~なんか気が合いそうな人だなぁ〜。

最後に「じゃゲストで入れるようにしておくからさおりさんでチケ置いておくね」という運びになり、電話を切った。

そして当日。

今日でとうとう長いバンド探しの旅に終止符を打てるのか?と期待に胸を膨らませるさおり。

かなり早めにリキッドルームに到着。

あ、ヤバイ…バンド名忘れた…なんだっけ?
受付のおにーさんに
「バンド名忘れちゃったんだけど…さおりでチケット取り置きです。ゲストっす!」
と得意げに言ってみる。

おにーさん「さおりさんですね、少々お待ちください」

待たされることしばし…
するとおにーさん…

「あの…、さおりさんでは、お名前ありませんが…」

なにっ!?

「いやっ、そんなはずはありません!!!もう一度よく探してくださいっ!」

しかし…

「やっぱり見当たりませんね」と…。

そっか、きっとバタバタして書き忘れちゃったのかな。
まぁ、せっかく来たんだし、運命の出会いかも知れないし…、仕方ない、自腹で入ろう。

じゃ、チケット買います、と受付のお兄さんに伝えると

「ドリンク込みで5000円です」

た・・・高っ!

その頃さおりはリキッドルームが1000人近く入る大きなハコであることを知らなかった。
かくして自腹を切ってホールに入ったさおり。

わぁぁあ~お客さんいっぱいいるぅ・・・
つーかリキッドルームって広いのねぇ。
さおりったらもしや人気バンドのドラマーになっちゃうのかしらん。

…とまたまた勝手な妄想が独り歩き。

ただちょっと気になるのはお客さんはほぼ女子でみんな黒いお洋服。
ジーパンにTシャツのさおり・・・浮いてるのは気のせい?

そしていよいよライブスタート!

客電が落ちた途端、
「キャーーーーッ」と女子達のすごい歓声が!!
す、すごい、そんなに人気のあるバンドなんだ!!
そしていよいよメンバー登場!!!

・・・・・・ん?

一番後ろにいたさおりは遠くてよく見えないが、たぶん…
ボーカルさん、男性っぽいけどめっちゃお化粧していらっしゃる?
これはつまりビジュアルバンド!?

女子達が跳びはねる中、しばしボー然とするさおり。

うーん、何かがおかしい…。
たしか電話の時は女性ボーカルだって言ってたよな…

さおりは、あの時、電話で話した内容をもう一度、思い出してみた・・・

「コマ劇場があって、それからリキッドルームってのがあって…」


たしかにこう言った!

いや、ちょとまてよ。
ない頭を振り絞って記憶のカケラを繋げてみる。

ほんとにリキッドルーム??

えっと、えっと・・・
お、思い出した・・・・・・

リキッドルームってのがあって・・・

「その先にあるハコだよ」←

そう…。

彼は有名なリキッドルームを目印に説明してくれただけで、
決して「リキッドルームだよ」とは言っていない!

さおりは普段から人の話をちゃんと聞かない癖がある。

またしてもやってしまった。

会場はかなりの盛り上がりを見せていたが、間違いに気づいたからにはもうビジュアルバンドを見る必要はない…

さおりはライブ開始10分にしてリキッドルームを後にしたのでした。

5000円返してくれー!!

とゆーか、今日出会うはずの彼らはどこに!?

果たして彼らとは出会うことはできるのか?!

つ•づ•く

「次回予告」
執念深くバンド探しを続けたさおりにいよいよ動きが!これは運命の出会いなのか?
お楽しみに。


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