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美し過ぎる外科医

隣の患者の主治医は若い女性のようだ。カーテン越しの声が柔らかい。

眼科医や皮膚科医、内科医の女性は珍しくない。だが女性の外科医はまだお会いしたことがない。

最近終わった韓国ドラマ『病院船』。主人公の若い女性外科医の活躍と医師魂に心奪われ夢中になって見ていた。

医療の現場でもいちばん壮絶、かつ体力を要求される職種だ、多分。女性外科医なんて、日本ではまだまだ、と思っていた。

隣の患者さんいわく「マスクしているけど、目がキラキラしてすごく綺麗。ばっちりメイクしてますよ~。優しい素敵な先生」

わー、会ってみたい~

わたしは勇気をもって看護師さんに話した。

「わたし、女性の外科医見るの初めてなんです。少しお話していいですか。もし回診にいらっしゃったら」

「なんでも話したり聞いていいんですよ」

天がチャンスを与えてくれたのか、次の朝の回診はその女性外科医、H先生だった!

マスクの上の目がぱっちりと大きい。優しく笑っている。体格はそれほど大柄ではない。どちらかと言うと今時では小柄なほうか。

えっ、このたおやかな人が消化器外科のドクター?

かっこいい!

この間見た韓流『病院船』の世界がリアル、目の前に!

このチャンスを逃したら、一生女性外科医と話しすることはないだろう。

「女性の外科医って、私、初めてお会いしました」と言うと、随行の看護師やら研修医らしい人から、微かな笑い声が。

チョー間抜けなことを言ってしまった、トホホ……

「そうです」H先生の笑いをかみ殺した声。 

「仕事で体にメス入れるんですよね」

また間抜けな質問、トホホ……

「はい、しますよ」

大きな目がキラキラと笑っている。この目、整形したのか。素のままか?それはどうでもいいけど。

「ドラマ以外で、女性の外科医、生(ナマ)で見たの、初めてなんです」

ああ、パンダでも見たようなことを言ってしまった~

H先生はころころと笑った。随行員も先生に合わせて仕方なさそうに笑った。

「そう、あまりいませんからね」

「外科医ってアスリート並の体力と判断力と決断力が必要ですよね」

H先生は少しマスクを押し上げ目を細めて笑った。

「すごい、立派なお仕事ですね。尊敬いたします」

どこから、こんな会話をする勇気が出たの ?……H先生の反応がとっても自然で楽しそうで温かかったから。

H先生は軽く笑って、

「尊敬して頂けるよう、これからもがんばります」

それだけの会話。でも、わたしの体内の免疫力はぐーんと高まった!

医学部入試の段階から女子学生が差別されていることはニュースで知っている。まして外科医というジャンルで腕をふるうまでになるのはどれほど大変なことか。

日本ではまだまだ女性の『ガラスの天井』は強固だ。私はそれを見て来たし、経験もした。

それだけにH先生の笑顔とたおやかな受け答えは魅力的だった~ほんとに。

でも、でも、美し過ぎるよ~

マスクしていても美人は美人なんだ!

男性患者は、こんな美しい若い女性医師に手術の時裸をさらすのが恥ずかしいんじゃないかな、な~んて……。

癌になってよかった、とは言わない。ならないほうが絶対いい。

それでも、こんな素敵な出会いもあるんだな、とちょっと楽しい気分で去りゆく先生の背中を見つめる。

ああ、背中も美しい!

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現在NHKカルチャースクール横浜・町田。青山・川越・さいたまアリーナ校講師「枕草子」を担当。『見沼の波留』(埼玉文藝賞)『小説 清少納言』(第15回新風舎出版賞)