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装画のプロセスvol.1

初めまして!イラストレーターの草野碧(kusano midori)です。
note最初の投稿は、装画のプロセスを公開してみます。
私は、ヒューマンドラマ系の小説の装画を担当させていただくことが多いです。
「こんなやり方もあるんだな」とポテチでもかじりながら見てみてください。


<1. 今回の内容>

今回担当させていただいたのは香月夕花さんの『昨日壊れはじめた世界で』。
装幀は新潮社装幀室の古閑里良さんです。

三十年前にはわからなかった。世界が、ほんの小さなことで滅びはじめてしまうことを。

幼馴染の翔子と再会した書店店主・大介は、忘れていた小学校時代の出来事を思い出す。
同級生四人と忍び込んだ町で一番高いマンションの最上階。そこにいた不思議な男は、世界の終わりを予言した。
三十年の時を経て、大介と翔子は謎の男を探し始めるが、男がマンションから飛び降りたという噂を耳にして……。
ひび割れた世界のかすかな希望を力強く描く連作短篇集。

登場人物に感情移入して、余韻でしばらく物語の中に入り込むくらい刺ささりまくり、号泣しながら読みました。



<2
. 打ち合わせ>

さて、まず6時間ほどかけて一気にゲラを読んだ後、実際に出版社で編集者さんとデザイナーさんと3人で打ち合わせをしました。
新潮社は1年半年ほど前にも打ち合わせに来たことがあり、色々懐かしく、
「自分は、あの頃から果たして成長できているのだろうか...」
と無駄な思いを馳せておりました(余談)。

オーダーは
「非常階段の踊り場から主人公が空を見上げている感じ」
とのことです。
今回下記『新宿』の空の描写を気に入ってくださってのご依頼だったようです。
この絵をみてのご依頼は4回目で、会社帰りに何気なく撮影した甲斐がありました。過去の自分、グッジョブ!!

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<3. ラフ>

提出したカラーラフは下記3点です。

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▲非常階段の下から主人公を見上げているような臨場感をもたせた構図。
空をメインに世界を俯瞰しているイメージ。

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▲マンションの右上に小学生時代の主人公が立っている。
街なし、空だけの構図で世界に取り残された孤独感を表現。

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▲2番目のラフを反転させてマンションを左にした構図。
ノスタルジックな配色。


編集者さんとデザイナーさんお二人とも一致で2番目のラフに決まりました。
表4のマンション上部に佇む少年という仕掛けが気に入ってくださったようです。
本番では「人物をほのぼのしないようにシャープに」とのことでした。

タイトルにもあるように、『壊れはじめた世界』を描くので、
ほっこり感、というより、
ちょっと鋭利なドキッとする感じ、を意識して描いていきます。


<4. 本番描く前>

素材集め。
まず、非常階段リサーチです。
なんとなくしか見ていませんでしたが、描くとなると構造が理解しにくい。散歩がてら非常階段をパシャパシャ撮影。

その後、更に理解を深めるためにイラストレーター(Adobeの)でイメージを構築しました。


構造


「ここを上がって踊り場に行って、
こっちは奥の方だからちょっと階段が短く見えて、、」

シンプルそうに見えるのですが、
描いてみると、意外と描けない部分がでてくるので
自分が納得するためにこのような修行を課します。

光に関しても、似たような形状のものに
実際にライトを当てて確認することが多いです。



なんだかんだこれが一番苦戦したかもしれません。
そんなに絵に反映されてない苦労部分なんですが、
地味にパースとかひくタイプです。。



<5. 本番>

私の場合割とカラーラフ通りです。
ラフの時点でほぼ完成イメージをご確認いただき、
イメージの相違がないようにすることで
安心して本番作業に取り組めます。

非常階段などの素材を集めたら、
ある程度のパーツごとにアクリルガッシュで描いて、
Photoshopで合成して仕上げます。
(次回からはタイムラプス用意してみますね!)


今回はタイトルが『昨日壊れはじめた世界で』ということで、
2(光、希望):8(悲しみや不安)の割合で表現しました。
こういう決まりって、自分の中でなんとなく考えておくと、反映される気がします。

▼納品したカバーイラスト(実際は袖部分まで描いたのでもっと広い)

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<6. 修正>

納品数日後、「窓が赤くて火事みたい?」というごもっともなご意見をいただきまして、
空のグラデーションを窓に反映させました。

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あ!とても良くなった!(自分の声)
こういうご意見はありがたいですね。本当に感謝です。


<7. 完成>

デザインが完成して、ダイナミックな空の装幀になりました。

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<8. テーマソング(おまけ)>

さて、突然アンパンマン的なワードが出て来ましたが、
私は感情をとても大切に描いているので、
案件ごとにiTunesでプレイリストを作って聴きながら描いています。
今回のはもう消してしまったのですが、
例えば『留萌本線、最後の事件』の装画の時のプレイリストは下のものです。
haruka nakamuraさんがぴったり来てたみたいですね。


スクリーンショット 2020-05-21 17.32.17


これは、小学生の頃からのなごりで、
当時漫画を描いていたのですが、
久石譲のジブリアルバムの中からシーン毎にぴったりの曲をプログラムして描いていました。


<終わりに>

以上。草野の装画プロセスでした✨

緊急事態宣言が出される前後での制作で、
「世界は一体どうなってしまうのか?!」と自分の心も壊れかけでしたが、
著者の香月夕花さんが、装画を褒めてくださってとても嬉しかったです。
本が売れることももちろんですが、著者の方に喜んでいただけるのが一番嬉しいです。
この仕事をしていて本当に良かった、と思える瞬間です。

これからも表現力を磨いて、
人の感情を揺さぶれるような絵を描けるよう精進します。


最後まで読んでくださってありがとうございました!


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