天下りと会った
ある件で、総合病院とぶつかった。私は患者である。
現場責任者にクレームを言った。
女性だった。とてもきれいな人だった。
会見の時間がもたれた。
仲介役にSさんという方が立った。
彼は、私と現場責任者それぞれの言い分に耳を傾け、公正に判断するために来たと語った。
第三者がいてもらうぶんにはかまわない。そうとしか思わなかった。
現場責任者が席をはずしたとき、Sさんは自分は警視だったと語った。
警察組織に明るいわけじゃないが、警視がエライぐらいのことはわかる。
たしか、キャリアじゃないとなれないはずだ。一般企業で言ったらヒラの取締役ぐらいかな。部長よりずっとエライ。
「警視だった方に来ていただけるなんて心強いです」
そう言った。
社交辞令だが、嘘を言ったつもりはない。
会談は20分程度で終わった。「決定権のある人と話をしたい」という私の要望が通り、お開きになった。
終わった後で、あっと気づいた。
元警視が病院にいるって、典型的な天下りじゃないか。
彼を雇い入れれば、警察と関わりができる。
元警視の○○がいるとなれば、警察だって無体なことはできない。
警察と病院、業種がちがうから罪にはならないが、警察との太いパイプができるわけで、病院にとっちゃ安い買い物なんだ。
ただ、彼が雇用されたのは、そんな病院のメリットを満たすためだけではない。
実感させられた。
Sさんは優秀なのだ。雇用されてしかるべき人材だったのだ。
後になって考えてみれば、私と現場責任者との会談は、彼のコントロールのもとにあったのである。
彼は私と現場責任者、それぞれの意見を聞くと、すぐさま平行線だと判断した。
「決定権のある人と話がしたい」というのが私の意向だったが、Sさんがいなければ、そこに至るまでに何万言も尽くさなければならなかっただろう。
そのことに思い至ったのは、次の「決定権のある人」との会談が終わり、ことの決着がついてからのことである。そのときになってはじめて、私は場がSさんにコントロールされていたことに気づいた。彼がいなければ、会談は20分では終わらなかったはずだ。
そうとは気づかせず場を支配する。
これが警視の実力か。
すげえ。
たいそう感心した。
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