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なぜブルース・カヴァーなのか? Blue & Lonsome / The Rolling Sones

●なぜブルース・カヴァーなんだ?

 ローリング・ストーンズがブルースのカヴァーアルバム「Blue & Lonsome」をリリースした。

 なぜブルースなんだろう。なぜカヴァーなんだろう。なぜオリジナルではないんだろう。

 とても根本的かつプリミティヴな問題だから、きっと誰かふれるだろうと思っていたが誰も言わない。ストーンズ最高ブルース最高ばっかである。よく考えてみたらこれ、ミュージシャンや音楽関係者(レコード会社とか、音楽雑誌社の社員とか)には言いがたいことなのだ。ケッ利権がらみかよ。

●オリジナルは儲からない

 ストーンズの最後のオリジナル・アルバムは2005年に発表された「A Bigger Bang」である。

 すごくいい作品だと思うし、キースはミックの家に何か月も泊まって制作したそうで、作る側の意気込みも相当に高かった。

 ところがこれ、売れなかったのである。2002年発表の2枚組ベストアルバム「Forty Licks」のほうが断然セールス好調だった。

 これは何を意味しているかというと、新作をつくるより過去作品まとめて出したほうが儲かるってことなのだ。

 誰だってお金のためだけにやってるわけじゃないし、売れるものがすべていいものだとも思わない。だが、セールスにお客の意志が現れるのは事実なのである。このあたり、人気者ほどシビアに認識している。

 新しい俺たちより、古い俺たちが求められている――。

 たぶん10年以上前に、ストーンズは、というかミック・ジャガーは、そう気づいたのだ。それは過去のヒット曲ばっかりやるワールドツアーの隆盛によっても裏付けられている。ストーンズはツアー興行収入でも、世界でもっとも大金を稼ぐバンドのひとつなのだ。

●同輩とか年配って扱いづらい

 ストーンズで新作を作る必要がないなら、新曲をストーンズで録音する必要もない。

 曲は作りたい。その発表の機会も必要だ。だが、それはストーンズじゃなくたっていい。たとえばSuperheavyのような意欲的なプロジェクトで録音したほうが新鮮だし刺激的だしおもしろい。どうせ儲かんない(求められてない)んだったら、そっちの方がずっといい。

 部長さんは40歳、課長さんは50歳なんてことはどこの会社でもある。部長のほうが明らかに役職が上だから、課長に令を下してもなんの問題もない。課長のほうだって部長に反意を表明するつもりは毛頭ない。言われたことははいと言ってやるつもりである。

 でも、部長は課長にモノを頼みづらいのである。同じことを命じるなら、若い社員にやってもらった方がずっといい。そのほうが気分的にずいぶんラクなのだ。

 こんなことはどこの業界だってある。

 たとえばね、年寄りの美容師ってあんまり見たことないでしょ? あれ、どうしてかわかる? 天下りがなくならないのも、じつはここに一因がある。

 ストーンズも同じだ。

「こういうふうに弾いてよ」

 たとえそれにしたがってくれるとしても、やっぱり遠慮しちゃうのである。何十年も一緒にやってきた同輩だから。若い連中のほうが、意のままにしやすいのだ。ストレスフルでない。ラクなのだ。

 かくして、ストーンズのオリジナル・アルバムは作られなくなった。ひとつは儲からないから。もうひとつは別のフォーマットで出したほうがラクだから。大事なのは発表することで、その形式ではない。

●なぜブルースなのか

 とはいえ、そろそろアルバム作らなきゃなあ、とは思っている。50周年は終わっちゃったし、次のツアーに出るネタがない。

 それで、ブルース・カヴァーなのだ。

 カヴァーってことは、お手本があるということである。お手本どおりに演奏すればいいのだ。

 オリジナリティを出そうなんてまるで思っちゃいない。ホンモノと同じようにやろうとしても、絶対にそうならないことは、経験的にわかっている。コードは基本的に3つだし、曲はできているし、せえのでやれば時間もかからない。

 かくして、構想50年、レコーディング3日(なんてヘタクソなコピーだと思ったが、これは英文ライナーのまずい日本語訳であった)で作品はつくられた。基本は一発録りだそうだ。要は手間かかってないってこってすよ。

 とはいうものの。

 ミックはもう70歳超えなんだぜ。残された時間が長くないのだ。だらだらレコーディングなんかしてられないと考えたっておかしくはない。

 また、ストーンズがブルース・カヴァーをやれば、相当な額が作曲者とその遺族に流れるだろう。それも当然、計算に入っている。

 なにより。

 ローリング・ストーンズがブルース・カヴァーをやって、悪いはずがないんだ。

 ちょっと心配なのは、後輩格のエアロスミスが、ブルース・カヴァーをやって解散してることだが……70歳で解散とかあんのかなあ。

 じつは、70歳のじじいがどうやってやり続けるのか、すごく興味がある。

 こないだカトちゃんが言ってたぜ。最近手がふるえるって。ミックもそういう年齢になってるってことだ。


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