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実家

夢をみました。
実家に帰って、父と母と一緒に話し合いを持つ場面でした。
夢の中で、はじめこそ冷静に話していたものの、いざ私の番になるといろんな思いが噴き出してしまって。
「もうここは私の帰ってくる家じゃない」
叫んだところで目が覚めました。

現在実家では、父の独断で家具の総入れ替えが進んでいるそうです。
ある日突然計画書が出てきて、品物が届きだして、もともと家にあったものは新しいものが入らないから捨てろ、思い出だかなんだか知らないががらくたも捨てろ、そうやって何もかもどんどんごみにされていく。

耐えかねた母から日々連絡が来ます。
普段の連絡はLINEですが、唐突に電話がかかってくることもあります。電話したいときはだいたいLINEで予告してくれるので、これはかなり参っているんだとわかりました。

もともと父は単身赴任で家を空けることが多く、私たち娘も三姉妹なので母の影響を強く受けて育ちました。
ものを捨てられない性分も引き継いでおり、学習机や部屋の中もごちゃごちゃすることが多かったので、突然怒り狂った父がブルドーザーのように部屋のものをゴミ袋に回収していくことは小さな頃からしばしばありました。
そのたびにぶつかって、母が一旦取り返してくれて、泣きながら要るものを拾い出します。
散らかっていることに我慢ならないのはともかく、そのときの様子が尋常でなかったので、子供の頃の私には理不尽としか思えませんでした。

理屈はわかるけどやり方がひどい。
それが万事に共通するので、私たちむすめ三人の心は父から離れていきました。

同年代が次々と親になって、娘が生まれてめろめろになっている男友達の姿を見るにつけ、うちは違っていたなあ、とどこか冷めた気持ちになります。
父から、親ばかで手放しに褒めてもらったことなんてあったでしょうか。
目に見えてわかりやすく、成績がよかったとか、かけっこで一番だったとか、そういうときは評価されるのですが、へたくそなりに必死にやったこと、がんばったけどうまくいかなかったことはせせら笑われたことが何度もあります。
得意だったかけっこにしても、走り方がばたばたしてて笑える、とケチをつけられて、楽しい気分ががっくり落ち込んだものです。

ばりばりの優等生(片付けはへたでしたが)の長女(わたし)ですらこれですから、のんびりしていた妹たちはさらに褒められる機会が少なかったのではないかな。
かわいがられてはいない、この人の価値観はそういうところにないから、わかりやすい判断材料をもっていくしかない。
そうそうに諦めた私は、進路の話をするときも、心情に訴えるのではなくてものすごく理屈っぽく、世の中にいかに評価されるのかを軸に組み立てました。
私がどうしたいか、なんて話したら相手にされないのは目に見えてます。
説得するのにやり方を工夫するのはよくあることですが、こうやって情報操作をして誘導するのが、どうせわかってもらえないと親を侮っているようで悲しかった。
そして本当に、このやり方だとすんなり話が通るのです。

昨晩、母からまたLINEがきました。
「家のダイニングテーブル、粘ってみたけどダメだったから明日旅立ちます」
送られてきた写真のテーブルには、母がマジックで感謝のメッセージと私たち三姉妹の名前も書いていました。
帰り道で思わず声が出ました。
本当に、私が育った実家ではなくなっていくのだなと実感しました。

大変頑丈なダイニングテーブルで、毎度の食事はもちろん、本当に長い間実家の一部でした。
座る場所は全員決まっていて、食事中にぐるっと振り返ってテレビばっかり見て怒られたり。まだ幼かった末妹がステージ代わりに踊ったり、真ん中の妹が座り込んで動かなくなったり、私が鉛筆のあとだらけにしたり、そういうささいなことが毎日積み上がっていったテーブルでした。
我が家では最古参ではないかな。

夢の中の話し合いでも、まさにこのテーブルを囲んでいました。
決裂に向かう空気はあったものの、末妹が踊っていた話などをすると夢の中の父は楽しそうに笑っていました。
こういう話は好きなのです。私は父に笑ってほしいときは、妹たちの小さい頃のエピソードを持ち出してみたものでした。
でも、どうやら現実ではこういう話も通じないようです。
夢の中のわたしもどこかでそう気づいていて、あまりに悲しくてとても冷静ではいられませんでした。

ずっと家を母や娘に家を支配されてきて、父も限界だったのでしょうか。
父をないがしろにし、侮り、遠ざけてきた自覚はあるだけにただ責めるのもおかしいのだろうと、頭では理解できるけど気持ちがついていかない。
殺意すら湧きます。

遠方に越して気を揉んでいる末妹とも、「様変わりしたおうちはわたしたちのおうちじゃないね」とLINEで話しました。
実家はこうして失われていきます。
今週末には私も実家に帰って、家を出るときに置いてきたものを処分したり拾い出したりしに行きます。
母が「これを機会に断捨離するしかないよね」となんとか気持ちを前向きに持っていこうとしているので、私もできることはやろうと思います。
なくなってしまうものは取り戻せないので、とにかく今は、苦しんでいる母と真ん中の妹を解放してやりたい。
住まいを変えるのはそうかんたんではないので、まずは身辺整理から。これは長期戦になりそうです。
本当に、帰るのがこわい。
帰って、まるでなじみのないものに囲まれて、それでいま生まれている殺意が決定的になるんじゃないかと思うとこわい。
やりませんが。

激昂した自分にはっと目が覚めて、それから一人で泣きました。
あまりに気持ちのやり場がなくて、ここに書き残します。

(junmaeさん、写真お借りしました。楽しい話じゃなくて申し訳ない……)


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