ウラえもん ろひ太のケミカル西遊記2「ウラえもんの不調」

翌日のドカン公園はコークパーティの話題で持ちきりだった。

あの後、ろひ太たちはシャンパンのグラスを片手にそれぞれの未来像を語った。コークパーティを行うにあたって重要なことは「最高の自分」と「最高の仲間」を意識し、それをじっくり味わうことである。

「でもさ、僕、ちょっと気になったんだけど」

ろひ太が口を開いた。彼の話し方はゾウ亀の歩みのように遅い。なんだ? とジャEアンが聞いた。

「ウラえもんのことなんだ」

ろひ太はこの場にはいないウラえもんの名前を出した。今頃、ウラえもんは部屋でブリブリになっていることだろう。

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            (イラスト:キメねこ)

ウラえもんの話が出ると、ジャEアンもスニ夫もヘロかちゃんも神妙な顔付きになった。ヘロかちゃんが呟いた。

「ウラちゃんのこと、私も気になってるの」

ウラえもんの様子がおかしいことはみな感じていた。最近、元気がなさそうに見える。昨日のパーティでもそうだった。コークで全員がアガっているとき、こんな話題が出た。

「海底鬼岩島」のボギーの1件だ。冒険の最後でラスボスに体当たりをしたボギーは海の藻屑と消える。ヘロかちゃんとボギーが抱き合うシーンはみんなの心に刻まれている。

「たまにね、ボギーちゃんのことを思い出して、しっかりしなくちゃって思うの」

ジャEアンが頷きながら言う。

「あいつは男だったよ」

スニ夫とろひ太も同調したが、ウラえもんだけ反応が違った。

「僕にはボギーの気持ちが分かる気がするんだ。同じ機械だからかな」

そのときは全員で「なに言ってんの、ウラえもん」と言って他の話題に変わっていったのだが、含みのある言葉だったことは間違いない。

コークは抜け際に強い厭世観に襲われることがある。そのときのチル用として、ろひ太たちはデパスなどの抗不安薬やインディカベースのジョイントを用意している。抜け際に入れることで、厭世観を緩和させることができるのだ。

昨日、抜け際になって、ウラえもんが巻いたジョイントを回した。ウラえもん以外の面々はマリファナの効きを捉え、そのまま落ちた(※眠った)のだが、ウラえもんはじっと天井を眺めていた。そのことに気付いたろひ太が聞いた。

「ウラえもん、寝れないの?」

「なんでもないよ。抜けがキツいだけ」

ウラえもんは笑ってみせたが、それはろひ太を安心させるためのものだった。ろひ太は敏感に察したが、ウラえもんの反応が怖くて指摘することはできなかった。

「よかった。心配事があったらいつでも話してね」

そう言うのがやっとだった。

ドカン公園でみんなウラえもんのことを気にしている。

「どうしたんだろう? ウラえもん」

スニ夫が奇妙な形の口をとがらせて言った。

「悩みがあるなら言ってくれればいいのにな」

ジャEアンも心配そうだ。ヘロかちゃんがろひ太にウラえもんの最近の様子を聞いた。

「それがあまりよく分からないんだ。僕、寝てばかりだから」

「それじゃあダメよ。ウラちゃんのこと一番分かってあげられるの、ろひ太さんでしょ」

しょんぼりとしたろひ太にジャEアンが言った。

「ここは1つ、俺のリサイタルでもやっとくか」

「えー、ジャEアンの歌?」

スニ夫が声を上げる。

「なんか文句あるか」

ジャEアンは今にも殴りかかりそうだ。

「いや、いいんだけど、シラフってわけじゃないよね。用意してくれるんでしょ、タマ(※エクスタシー)ぐらいは」

「タマがなきゃ聴けないってのか! 俺の歌は!」

「そういうわけじゃないけど」

スニ夫がやり込められそうになっているとヘロかちゃんが助け舟を出した。

「シラフのときに聴いても素晴らしいけど、タマ食って聴いたらもっと一体感が出ると思うの。だから用意してほしいってことよね。スニ夫さん?」

「もちろん、そうだよ」

「それならしょうがないな。タマは用意するよ。リサイタルやればウラえもんもアガってくれるかな?」

ろひ太が的確な助言をした。

「アゲ玉(※多幸感が強いもの)を選べばね」

「そうだな、ヨレ玉は避けないとな。任せてくれよ」

ジャEアンは力強く胸を叩いた。

(つづく)

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