ウラえもん ろひ太のケミカル西遊記4「DJ悪杉」
ドカン公園は即席のレイブ会場に変わっていた。片耳だけヘッドフォンをした悪杉がDJブースの中にいる。
(イラスト:キメねこ)
ジャEアンのリサイタルは2曲ほどで打ち切りになった。
ジャEアンはいつまでも歌いたそうだったが、ヘロかちゃんが「せっかくだからトランスが聴きたい」と言い出し、さすがのジャEアンも「トランスは歌えねえ」と匙を投げたのだ。
ジャEアンの用意したピュアのエクスタシーは上物だった。タマと呼ばれるエクスタシーも最近では粉末状のものをカプセルに入れて摂取する方法が主流になってきている。
知らず知らずに歯を食いしばるため、ろひ太とウラえもんはチュッパチャップスを舐め、ジャEアン、スニ夫、ヘロかちゃんはガムを噛んでいた。こうしないと翌朝、顎がガタガタになってしまう。
ブースの中の悪杉は淡々と仕事をしている。落ち込んだウラえもんをアゲるのが目的なので、シュポングルやジュノ・リアクター、インフェクテッド・マッシュルームなどの懐かしいセットリストを中心に流していた。
レイブの前にウラえもんからみんなにポケットをなくしたという告白があった。ろひ太は再三、そんなことで離れる仲間じゃないと言ってきたものの、やはりウラえもんは気にしていたのだ。
その心配は杞憂に終わった。
「なに言ってるの、ウラちゃん。そんなことで友達じゃなくなるとか言うと怒るわよ」
ヘロかちゃんは言った。
「水臭いぞ。俺たちは心の友じゃないか」
ジャEアンは瞳孔をフルオープンにして語り、スニ夫も彼なりのヒネた言い方でウラえもんを和ませた。
「わざわざ、うちでやるパーティに呼んでるんだから、それがどういう意味なのか考えてよ。ウラえもん」
効きが抜けるまでの5、6時間、とにかく踊った。その間、ヨレている人を見つけると、誰かが側にいって、その人をアゲていった。
ヘロかちゃんは秘密兵器のケタミンを携帯しており、落ち始めたと思うとすぐにケタミンを吸って、その都度意識を引き上げていった。
「いる?」
ヘロかちゃんは鍵の先端ですくったケタミンを差し出してくるが、ジャEアンは断っていた。スニ夫も同じだった。ジャEアンはスニ夫に耳打ちした。
「女の子ってケタ好き多いよな」
「コークもそうだし、鼻から吸うのが好きなのかな」
「俺もお前もそうだし、ろひ太もウラえもんもしないな。だけど、ウラミちゃんはするしな。あれってなんでだろ」
「どっちかというと、女の子のほうが、つきつめたい気持ちが強い気がするよね」
ブースの中では悪杉が回している。先程から高い集中力を保っているようだ。
その様子を見て、スニ夫が言った。
「ねえ、ジャEアン、悪杉って、速いの(※覚醒剤)やってるよね」
「間違いないな。DJはクリアでいなくちゃいけないからわかる部分もあるけど、トラブルの元にもなるからやめてほしいよな」
そこにケタミンのショート・トリップから帰ってきたヘロかちゃんが入ってきた。
「やっぱり速いのは怖いわよね」
ジャEアンが笑いながら言う。
「あいつの成績がいいのも、速いやつのおかげかもしれないな」
スニ夫が相槌を打つ。
「でも、そんなので100点とっても嬉しくないね」
「お前じゃ、速いの入れてもとれないけどな」
ジャEアンは腹を抱えて笑った。スニ夫は一気にヨレた。ヘロかちゃんは一瞬、スニ夫をフォローしようと思ったようだが、ジャEアンにつられて一緒に腹を抱えて笑った。スニ夫はますますヨレていった。
ふとヘロかちゃんが隣を見ると、ウラえもんが立っていた。一見してヘコんでいるのが分かる。スニ夫のことは放置したヘロかちゃんだったが、ウラえもんは放っておけなかった。
「ウラちゃん、楽しんでる?」
声をかけるが、ウラえもんは生気を欠いている。
「楽しいよ」
「うん、こうやってみんなで踊るの楽しいよね」
ウラえもんの気持ちを好転させようとするが、なかなかうまくいかない。ついさっきまでは調子がよさそうだったのに、いきなりどうしたのだろう。
「ポケットのことはみんな気にしてないよ。だからウラちゃんも気にしないで」
「うん、ありがとう」
「ろひ太さんは?」
「ヨレてきたからって、眠剤入れてドカンの中で寝てるよ」
「こんな音の中でよく寝れるわね。ウラちゃん、ずっと1人だったの?」
「1人だったよ」
ウラえもんは沈んだままだ。気分を変えたほうがいいと思い、ヘロかちゃんはみんなを誘って、ドカンの中で寝ているろひ太を見にいくことにした。
中を覗くと、彼はいた。足を組んで口角を上げ、心地良さそうに寝ている。ジャEアンがドカンの入口で、声を張り上げて歌った。
「俺はジャEアン、ガキ大将~」
驚いたろひ太はそのままの姿勢で飛び上がって、ドカンの天井に頭をぶつけた。目を白黒させている。その様子を見て、みんなで笑った。ヘロかちゃんが目を向けると、ウラえもんも楽しそうに笑っていた。それを見て彼女は、アガってくれてよかったと思った。
(つづく)
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