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鑑賞記録#03『ハクソー・リッジ』

 今回はなんとなくミリタリー映画を見たくて、また大好きな「実話をもとにした」作品ということで、長らくhuluのお気に入りに登録していた『ハクソー・リッジ』という映画を鑑賞したのでその感想になります。
 初見で「歯クソ…?」となったのは私だけではないはず。

 何の前評判も見ずに鑑賞したのですが、久々にいい映画を見たなという印象を持ちました。

 主人公は、敬虔なキリスト教徒のデズモンド・ドスという青年。
 物語は彼の育った家庭環境の描写からスタートします。
 父親は先の大戦に従軍したものの負傷が原因でアルコール依存症をわずらっており、母親はそんな父を理解し支えながらも日々彼の暴力に耐え、年上の兄は長じて第二次世界大戦に従軍していくなかで、デズモンドは自身も従軍する道を選びます。
 しかし敬虔なキリスト信者であるドスは「人を殺すことは神に禁じられている」として衛生兵として人を助けたいと主張し、かたくなに銃を手に取ることを拒みます。
 そのためドスは、仲間からリンチを受けたり上司から雑用を押し付けられたり、果ては軍法会議にまでかけられてしまいます。
 それでも信仰を曲げないドス。
 なんやかんやで、とある人物の助けや婚約者の支えもあり、ドスはなんとか軍法会議で無罪を勝ち取り「良心的兵役拒否者」としての地位を得ます。

 はれて軍隊の中で自分の居場所を得ることのできたドスは、第二次世界大戦中の激戦地、沖縄の「ハクソー・リッジ」に赴任します。
 web検索をしたところ、この「ハクソー・リッジ」は、日本語では「前田高地」と呼ばれる地域とのこと。
 日本軍の陣地であったこの地を占領するために、ドスの隊は進軍していきます。

 私個人としてはミリタリー映画の見どころは、どんなきれいごとも通じない容赦ない暴力性、息をつかせぬ銃撃戦や白兵戦、泥や血に染まるある種の映像美、その中で描かれる極限の人間ドラマや無常観といったところなのですが、この作品はそのすべてが高いクオリティを保っており大満足でした。
※誤解のないように書いておきますと、平和な日本においてこのような創作作品をあくまで一娯楽作品として鑑賞できる自身の現状や、実話を元にした作品を通して命の尊さや戦争の悲惨さを考える機会を得ることに感謝はすることはあっても、実際の戦争や暴力に賛成することはありません。

 さて、この作品のいいところなのですが、日本兵の描写が妙にリアルです。この日本兵の描写、絶対その道の専門家が監修に入っています。そしてかなりお金をかけています。というのも、使用するのに安価なカタコトのアジア人モデルを使っておらず、一瞬しか登場しないモブの日本兵役も、しっかりと流暢な日本語をしゃべっているのです。監督のこだわりなんでしょうか、どこからこれだけの日本人モデルを集めたのでしょうか。有名なアメリカの映画でもおかしな日本語を話す日本人役が多いなかで、よくこれだけのこだわりを通してくれました。しびれました。
 そんな日本兵の描写のこだわりは随所に見られます。
 当時国家神道を狂信的に信仰していた日本兵の様子がとにかくリアル。これ、今の日本人監督が同じように作ろうと思っても、色々タブー視されていたり各方面への配慮が必要だったりで、同じ描写は絶対に出来ないと思います。同じ時代を描いた日本人監督の手による特攻隊の映画、『永遠のゼロ』では、当時の日本兵の狂信的な描写はまったく描かれておらず、現在のモラルに沿って特攻兵の「家族愛」に終始していました。今の日本ではなんでも「家族愛」に落とし込んでおけば大衆には最低限ウケるという風潮がありますよね(別に反対はしませんがいささか食傷気味ではあります)。
 この作品はアメリカで作られた映画なので、そんな日本国内でのタブーなど知ったことではないとばかりに気持ちいいまでに日本兵の狂信ぶりが描かれています。そうだよこういうのだよ私が見たかったのは。そして史実に近いのはきっとこっち。
 まあ当時敵対していたアメリカ側からの描写なので、それなりにフィルターにはかかっていますが、それにしても「天皇陛下万歳」と言いながら豪を飛び出して玉砕してゆくさまや、ラストの切腹と首切りのシーンは日本に対する理解とリスペクトを感じました。そういうシーンてどうしても理解不能な野蛮人の行動として描かれがちですものね。ありがとう監督(合掌)。
 あとなんといっても圧巻だったのが、日本兵が画面いっぱいに現れてアメリカ兵に迫るシーン。CGなのかエキストラなのかは分かりませんが、思わず「えーっ」て声が出てしまいました。日本人や日本兵をたとえ物語上の演出でも一瞬たりとも強者として描いたり美化してはいけないという戦後日本国内のタブーを軽々と超えていく容赦ないアメリカ映画のそういうとこ、大好きです。鼻血。

 さて、物語後半、日本兵に陣地を明け渡したアメリカ兵は一時撤退するのですが、ドスはひとり戦場に残ります。
 そしてドスは、「神様、あと一人だけ、助けさせてください」と祈りながら、負傷兵をひとりひとり、味方の陣地に避難させてゆきます。もうこのシーンはスローモーションだったりBGMだったりでおおいに魅せてくれるのですが、思わずドスに感情移入して胸が熱くなりました。ドスは日本兵も助けているんですよね。ドス、すごいぜあんた。
 さて、夜が明けてみれば、診療所はドスが助けた負傷兵でいっぱいになっていました。それを見たドスの同僚は、ぼろぼろになりながらもひとり帰還してきたドスを尊敬の念で迎えます。そしてひとり診療所から離れ聖書を読んでいたドスのもとに、かつてドスをいじめていた上司がおとずれ「俺はおおきな勘違いをしていたようだ、許してくれ」と告げます。ああ、思い出して鼻血でそう。とてもずるい、いいシーンです。

 物語としては史実通り、最終的にはアメリカ側が押し返して陣地を占領するのですが、最後まで降伏しない日本兵の描写がここでもリアルに描かれています。

 アメリカ国内の映画なので、見様によっては宗教的対立を描き「天皇信仰に打ち勝ったキリスト教」というアメリカ国内に向けたプロパガンダ的な見方もできなくはない作品ですが、日本兵の描かれ方を見るかぎり昨今の洋画の中では最大限の理解とリスペクトが感じられたので、いち日本人としては割と気持ちよく鑑賞することができました。日本とは違い公に軍隊を持ち戦争を身近に経験している大国ですから、もっと勧善懲悪的な描写も出来たでしょうが、それをさせなかったのは昨今のアメリカ映画界隈の風潮なのか世界の潮流なのかは知りませんが、思いもかけずいい映画を見ることができて個人的には大満足です。
 そういう意味では、今現在、天皇信仰に厚い方々にはもしかしたら鼻につく作品かもしれません。

 以上、鑑賞後数時間内のとりいそぎ感想記録でした。
 まあなんとはいっても好きな映画を自由に見られる平和な日常というのがどんな人にとっても一番ですよね。
 月並みですが、ミリタリー映画を鑑賞しながら落ち着く先というのは、毎回だいたいそんなところです。



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