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メディアは抹茶味である

 冒頭から駄洒落のようなフレーズですが、これ、前から一度言ってみたかったんです──「メディアはマッチャージである」ってね。

 マーシャル・マクルーハンが『メディアはマッサージである The medium is the massage』というタイトルのペーパーバックを、編集者のクエンティン・フィオーレとアート・ディレクターのジェローム・ナイジェルの全面協力で(というか、おそらく全部このふたりで構成したのではないかと思う)出版したのが1967年。そもそもこの題名がマクルーハン自身の〈メディアはメッセージである The medium is the message〉という言葉をもじったものだったことを考えれば、さらにもじったところで、とがめられることはありません。

 むしろ、刊行後半世紀を経たいま、メディア論の古典的名著の一冊としても挙げられるこの本が、当初は世間を煙に巻くかのようにセンセーショナルで、若者向けのキャッチーな本だったという事実を風化させないためにも、現代風のさらなるアレンジも必要なのではないかという気がするのです。

 でも、ただの駄洒落で終わらせるつもりはありません。せっかくなので、ここでちょっと舌を動かしながら、抹茶味がどんな味だったかをよーく思い出してみましょう。

 スーパーマーケットやコンビニエンス・ストアにはいつの頃からか、抹茶風味のチョコレート、キャラメル、キャンディー、ビスケットなどさまざまなお菓子が並んでいます。抹茶エッセンスはミルクと相性の良いことから、日本ではアイスクリームのフレーバーとしてよく使われてきました。そういえば、バラク・オバマ大統領が就任後初の来日時のスピーチで、少年時代に母親と日本を訪れたときに鎌倉で食べた抹茶アイスクリームの味が印象に残っていると述べたこともありました。バラク少年にはお寺や大仏よりも緑色の風変わりなアイスクリームが珍しく、心に残っていたのでしょう。

 抹茶フレーバーは、海外では日本食レストランのデザートのアイスクリームとしてポピュラーなほか、シフォンケーキやマカロンなどのスウィーツにもよく使われています。苦いのに甘みとよく合い、和風なのに洋風にもなるといった抹茶フレーバーの、間口が広く、懐も深く、柔軟で自在な特性は、国境や文化圏や時代を越え、高級料亭からコンビニのアイスまで、さまざまな場所でさまざまな階層や趣味嗜好の人びとの舌を愉しませてくれる──これって、よく考えるとなかなか他にないすごいことだと思うのです。

 そして、この多様性と多用途性はメディアのもつ特性にも似ているんじゃないかと思うのです。同じ情報伝達媒体、たとえばテレビひとつとっても、高尚なものからおちゃらけたものまで世界中でさまざまなコンテンツがつくられ、思想信条や生活習慣の異なる地域のさまざまな人びとの生活の中にそれぞれ溶け込んでいる──このなんともどろどろした(混沌とした)、でもなめらかな(誰も気に留めない)様態を、メディアってなーんか〈マッチャージ〉だよね、と言ってみたかったのです。いや、ほんとにそれだけ。


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